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水乙女と片づけ妖精ライローネ  作者: 三條 凛花
第3章 はじめましての再会
21/27

21.母が知らなかった真実

 それから数時間後。


 私はノエル、父、伯父、そして二羽のライローネ(ユウコとスイクン)とともに水底の塔へ降りていた。


 ちなみにあの女性もまた捕縛された状態でともに居る。

 伯父が保護魔法をかけてくれたので、今度は水中でも苦しさもなく、髪も服も濡れずに進むことができた。



「これは──」


 水底へ向かって泳ぎ進むと、巨大なドーム型の結界が見えてくる。虹色の膜で覆われたそれを目にした伯父が驚きに目を見開いた。


「古代のシェルターだ」


「シェルター?」


「ああ。この結界は、中にいる者を悪意あるすべてから守るために存在するものだ。害があるものは入ってこないようになっているし、中にいる人々が見えないように覆い隠す役目も担っている」


 けれども、あの女性が投げ込んでいたのであろう塵芥は落ちてきていたけれど。

 私がそう考えていると、伯父が結界に触れて「古代のものだ。ややほころびが見られるな」と言った。


「それにしても、どうしてそんなものが……」


 ”父”が顎に手を当てて考え込む。


「この守りの魔術は王家に伝わるものとまったく同じだと言っていいだろう。だが、中にある街はいったい……?」


「……異界の街がそのまま消えて、こちらに移動してきたそうです」


 私が答えると、父はかちりと凍りついたように止まった。それから顔を赤くし、泣きそうな顔で笑って「ありがとう、答えてくれて」と言った。




 それからも私たちは、この不思議な結界に包まれた街について話しながら、来たときとは違って、ゆっくりと塔へ降りていった。


 女性はずっとじたばたと暴れていたが、父と伯父が魔法をかけると眠ってしまった。


 一度結界を抜けてしまったから、入れるかどうか心配していたけれど、私たちは幸い何事もなく入ることができた。


 そして、結界を抜けるときに私の脚ももとに戻った。ほっとした。


 伯父がいうには、これはヘルツシュプルング家の先祖返りなのだという。


「シーラから聞いているかもしれないけれど、ヘルツシュプルング家は、精霊と人間の混血の血筋だ。母となったのが、水乙女と呼ばれる精霊。元々の姿は清らかな泉に住む、魚の尾を持つ女性だったとか。だから、稀に水に入るとこのように身体が変化する者が現れると聞いている」


「じゃあ、もしかしてシーラおかあさまも?」


「そうかもしれないな。話を聞く限り、本人は覚えていなかったようだが…… 気絶しながらも身体が適応して、結界にたどり着き、もとに戻ったというところだろうか」


 伯父が考え込む。




「それにしても、──なにから話したらいいのか……」


 "父”と"伯父"は逡巡しているようだ。特に父はとても気まずそうである。


 もう一つの懸念事項だったピンクブロンドの女性も、意識を刈り取られているからか弾かれることなく結界内に居られるようだ。


「シーラ叔母さんのあの一件は冤罪だったんだよ。それも、このポンコツ王子がその女、マイア・クレイの魅了魔法なんかに引っかかったせいで起きたことでね」


「──ノエル、不敬だぞ」


「は、事実しか言ってないけどね」


 顔を赤くしている父に、ノエルが言い捨てる。


「あんなことがなかったら、リラは一人きりであんな場所に閉じ込められることはなかったんだ」


「……確かに、すべては私が不甲斐ないせいで起こった出来事だ。すまなかった」


 父が私に頭を下げた。困惑した。私はただここで生まれて、育っただけ。 でも、母は……。




「母は、十年前に死にました」


 私の言葉に、二人はきゅっと唇を噛みしめる。顔色は紙のように白く、手は震えていた。


「馬車ごとこの泉に落とされた。そのとき、王子様と、その御学友の方々、それからピンク色の髪をした女性を見たのだと。そう、亡くなる前に話しました」


「……っ貴様!」


 "伯父”が立ち上がり、父に掴みかかる。それをノエルが制した。


「──泉の底に落ちていくシーラを見たとき、魅了魔法が解けた。側近たちやマイア・クレイを振り切って、泉に飛び込んだ。けれども、そのときにはもう彼女の姿はどこにも見えなかった……」


 父がうなだれる。


「その後も、もちろん捜索隊を何度も派遣した。けれども、彼女も馬車も見つかることはなかった」


 それは母が絶望して、離れたいと願ったからではないか。だから、結界が母を隠してしまった……?


「まさか生きていたなんて……」


 父の目が赤い。


「そもそも、どうして魅了魔術なんかに引っかかったんです? 王家の方々は、そういった魔術を弾くための魔導具を持っていると聞いたんですけど」


 ノエルが尋ねた。


「それは……」


 父が口を濁した。




「学友どもが先にマイア・クレイの魅了魔法に堕ちていたからだよ。こいつの、ネプトゥニスの魔導具をいつのまにか壊していた。それに気づかなかったから、あんなことに」


 伯父の視線は凍りつくような冷たさだ。父がどんどん小さくなっていく。


「普段なら私が目を光らせているんだが、長期に渡って外国に行く任務があったのだ。シーラと離れたくないから断ろうとしたんだが、シーラ自身が、おみやげに買ってきてほしいものがあるから、と……」


 伯父は心底悔やまれるといった表情で言った。


 母は、兄に対してのコントロールに長けていたようである。


こいつ(王子)が正気に戻って、すぐに全員を捕縛した。こう見えて虹魔法を使えるからね。どんなに屈強な相手でも、赤子の手をひねるようなものだ。だが、取り巻きたちの捕縛を優先した結果、マイア・クレイは逃げ出した。そして、今日まで見つからなかった──」


 伯父が部屋のすみに転がっているマイア・クレイを睨めつけた。


 彼女は魔法をかけられてから一度も起きておらず、ぴくりとも動かないので少し心配になる。





 こんなふうにこの十数年の答え合わせをしたところで、すっかり夜も更けていた。


「……今日は泊まって行かれては?」


 私が訊くと、父と伯父は目を輝かせた。塔の最上階は私が使っているため、すぐ下の部屋に案内する。


「ごめんなさい、ここには母と私しかいなかったので、男性ものの衣類はないのです。この塔を降りて外に出れば、異界の街が広がっています。そこでは衣類を調達できますから、……スイクン?」


「案内ねー了解っすー」


 スイクンが軽い感じでいい、ノエルの腕に向かって跳んだ。


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