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水乙女と片づけ妖精ライローネ  作者: 三條 凛花
第3章 はじめましての再会
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20.はじめましての再会

 女性の刃が今にも私に届きそうになったその瞬間。ノエルの声が聞こえた。


「……っ、リラ!」


 そして、()()()()()なにかが飛んできて、女性にぶつかる。ひとつはぐるりと巻き付くような炎の渦、次に鋭く尖ったたくさんの氷の粒、──それから虹色に輝く光の輪。


 女性はぎゃっと叫び声を上げて仰向きに倒れ込む。


 髪の毛の端がちりちりと焦げており、刃物を持った手にはたくさんの切り傷ができていた。そして、両方の手首が虹色の光の輪で締め上げられている。


 倒れ込んだあと、彼女はなおもこちらを睨み襲いかかってこようとした。しかし、次の瞬間、女性は驚いて目をぱちぱちと瞬いた。


「──捕縛」


 それははじめて聞く声だった。低くて落ち着いた、大人の男性の声だ。その声を合図に、ざっと周りから人が飛び出してくる。いつのまにやってきたのか、たくさんの男たちが周りを囲んでいる。


 私もどきりとした。たくさんの目が、私を、あるいは目の前の女性を見つめている──。




 すっかり錯乱した私は、よろよろと後退りした。泉の縁まで下がってしまっていたらしい。ふいに身体が大きく傾ぐ。


 が、ふわりと抱きとめられる。しっかりと私の身体を支えてくれているのは、自分のそれとは明らかに違う、骨ばった手。


「リラ!」


 聞き覚えのある声。


「ノエル……?」


 私が言うと、彼ははっと目を見開く。そして泣きそうな顔で笑った。


「やっと会えたな」


「……うん」



 私は目の前の彼の顔に見入っていた。


 癖のないさらりとした黒髪は、うなじを隠すくらいの長さ。男性にしては色白なのではと思う美しい肌に、ぱっちりとした二重で、それでいて鋭さもある銀色の目──。


「……なに?」


 まじまじと観察していたら、ノエルがぱっと顔をそらした。耳の端が赤くなっている。


「ごめん。あの、……はじめてあなたの顔を見られた、と思って」


「え?」


「いつもは、見上げていてもぼんやりとしか見えなかったから……。ノエルってすごく綺麗な顔をしていたのね」


 私が感心していうと、ノエルはぼっと顔を赤くして、ふたたび目をそらした。





「人魚だ……」


 私たちを囲んでいた男性の中から、そんな声がこぼれる。驚いてこちらを向いたノエルは「その脚は……」とつぶやいた。


「あ、これは……」


 私はぱっとノエルから身体を離し、魚のように変化してしまった脚を、スカートの裾を引っ張って覆う。


 それでも足首より上の丈の服では隠しきれず、恥ずかしさと、もとに戻るのだろうかという不安でいっぱいいっぱいになってしまった。


 私とノエルとの間に、ユウコとスイクンがすっと入る。私をかばってくれているようだ。




「……! まさか、ライローネ(水鳥妖精)?」


 ノエルが零れ落ちそうなくらいに目を見開く。ユウコとスイクンは困惑して顔を見合わせた。


 そのときだった。





「ノエル!」


 二人の男性の声が重なった。こちらに向かって駆けてくる人を見て、驚く。いずれも年齢はピンクブロンドの女性と同じくらい。


「襲われていた女性は大丈夫か?」


 黒髪に緑の目をした男性が訊いた。

 縁の細い眼鏡をかけており、顔つきは冷たそうな雰囲気なのだけれど、とても整っている。鍛えられているのだろう、知的な雰囲気からは意外なほどに立派な体躯を持つ人だ。

 その人はたくさんの書物を抱えていた。



「やはりあの女は生きていたのか」


 そう言ったもう一人は銀髪に青い目という、私とまったく同じ色彩と中性的な美しさを持つ男性だった。


 線が細く、ノエルよりもやや背が低いのだが、それすら調和が取れているように見える。長く伸ばした髪を、背中のあたりで一つにまとめており、手にはたくさんのセイレーンフラワーを抱えていた。



 そして驚くことに、私を目にした二人が同時に「シーラ……」とつぶやいた。

 その言葉で私は悟る。


 この人たちは、私の父と伯父なのだ──。雫の日に降ってくる花は。樹の日に落ちてくる書物は……。



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