15.妖精の片づけレシピ③ さらに、もっとわける
「うん。この部屋の”捨てないもの“をわけられたわね」
意外とすぐに作業が終わった。ユウコが感心したように頷いている。
「この作業をするときにはポイントがあって、ひと目でわかるようにするのが大事なの」
「ひと目でわかるわけかた……?」
「そう。まずはとにかく同じ形のもの、同じ種類のものを集めていくこと! わかりやすいものでいうと、服だけを集める。本だけを集める。たったそれだけでも、あとあとの判断時間を削ることができるのよ」
服は“レジカゴ”にはとても収まりきらず、ユウコが色のついたテープを”創造“し、それを床に貼り付けて四角い囲みをつくった。
わけるときは、機械的にカゴに入れていき、カゴがいっぱいになったら、四角い囲み内に広げる。
「それにしても、ものすごい数の服だな」
作業が終わるころ、私たちの前には、大量の服が山積みになっていた。
「そうね……。こんなにはいらないと思うのだけれど、どうかしら?」
ユウコが訊く。
私も眺めてみるが、子ども時代に着ていたからサイズが合わないものもある。
「減らせたらいいけれど……」
「もったいない?」
ユウコに聞かれて、私はうなずいた。
「じゃあ、次はこの服を分けていきましょう」
「え? もうわけたよ?」
私が言うと、ユウコは首を振る。
「ここからが大事なの! この集めた服をさらに分けていきます。
そうね、今回は『着るもの』『着ないもの』『捨てるか迷うもの』の3つ」
私はユウコが言った3つのなかまを紙に書き出し、レジカゴの前に置いた。
「それじゃあやってみてね」
まだ母が生きていたころに着ていた服はほとんどサイズが合わなくなっていたので、思い切って「着ない」のカゴに入れていく。
次に、いつも着ている服を「着る」に──。
ここまではすぐに終わったのだけれど、残ったものについて考えるのは少し時間がかかった。
たとえば、ひまわり柄のワンピース。手に取ることはないし、そもそも着られるサイズではないのだけれど、母が選んでくれた最後の服になった。
廃墟街に行くときに着ているワンピース。淡いミントグリーンで、何度もこればかり着ているからぼろぼろになってきている。
「なかなか決まらないでしょう?」
ユウコの言葉にうなずく。
「そういうときは消去法がおすすめ。ここで役立つのが『着ない服』にわけたものよ。ちょっと中身を全部出してみて。それから、──ノートと、ペンと」
私が準備をすると、ユウコは一着のワンピースをくちばしで指した。
「これは、どうして着ない服にしたの?」
「え?」
「着ないって思ったのには、ぜったいなにか理由があるはずなの。思いつかないなら、今着てみてもいい」
なにも思いつかなかったから、その場で身につけてみた。
「あ、これは……」
「わかった?」
「うん。ええとね、母は鮮やかな色が好きだったの。それで子どものころからいろんな派手な色の服を着ていたんだけど、私は、どっちかっていうと薄い色のほうが好き……みたい?」
「いい回答だな!」
スイクンがからりと言う。
「あと、丈感も気になる」
「丈?」
「あのね、この部屋にくるまで、たくさん階段を登らなきゃいけないでしょう? こんなふうに裾が長いものだと、裾を踏んじゃうの」
私は、真っ赤なロングスカートを手にとって言った。
ユウコが頷いて「じゃあ、それをノートにメモしてみて?」と言った。
「どう? リラの好みじゃない服は、『鮮やかな服』『丈が長いスカート』だってわかったでしょう?」
「たしかに」
「この、自分にとってもやもやするポイントに気づいて、言葉として残しておくの。そうすると、それは自分の中で手放すため、あるいはそもそも手に入れないための基準になるわ」
「なるほど……」
それからも、たくさんの基準が見えてきた。廃墟街の服は、母に聞いても見たことのない形状のものが多かったので、ユウコに聞きながらまとめていく。
『フード付き』『デニム』『茶色の服』……。このあたりが「着ない服」の特徴なのだとわかる。
「もちろん、それでも着たい! って場合もあるかもしれないけれど……。それはとりあえず全部片づいて、いろんなことにゆとりが出てから考えればいいと思うの」
ユウコは言った。
このやり方を他のものにもどんどん当てはめていく。
どんどんわけて、捨てるものを分析する。ひと月ほど経つころには、ずいぶん屋敷にあるものも少なくなっていた。