14.妖精の片づけレシピ② 「捨てない」をわける
「ものすごい数のごみだったわね」
ゴミ袋の数にして五百個以上もの量になり、捨てる作業もだいぶ落ち着いてきた。
実際に作業をしたのは私だったけれど、ユウコは心底疲れたというようにくったりと横になった。
細い首も、すらりとした脚も投げ出し、羽を伸ばして。
「俺のスキルがいかにチートだったかよくわかった」
スイクンがなぜだか誇らしげに言う。
「まだ捨てるものは残っているけれど、同じことをずっとやり続けるのも危険なの。飽きちゃうから。 だから、明日からは次のステップに進みましょう。『捨てないもの』をさらにわけていくの」
「ユウコ、道具は?」
“オーガクリエーシオ(片付け創造)“
ユウコがそう唱えると、目の前に光の粒がぶわりと湧き出して、真四角のカゴがいくつか生み出された。
「おお、これはまんまレジカゴだな」
「れじかご?」
「そう。俺たちの世界で、食べものとかを買いに行く時、店の中で使うもの」
私はそういえば、彼らが“ドラッグストア”と呼ぶ建物にもそれがあったことを思い出す。
「これを使うのは、わけたものを入れる場所がないと、わける作業そのものがむだなものに変わってしまうからよ」
「どこに何を置いたのかわからなくなるからな。せっかくわけたものが混ざってしまったり、これはどこに入れるのかと判断が必要になるから時間がかかる」
「……これを」
ユウコが差し出してきたのは、てのひらくらいの大きさに切られた紙が数枚と、黒い棒状のもの……これは廃墟街で見たことがある。
「これを使ってラベリングをしましょう」
「ラベリング?」
「ええと、めじるしをつけるようなイメージ」
「めじるし……」
「たとえば、捨てないものにもいろいろあるでしょう? ふだんの生活で必要なもの。衣類。捨てないけど壊れているもの。思い出のもの。
まずはこういうなかまにわけることに集中して、とにかく手を動かすのよ。で、この紙とペンで、どのカゴになにを入れるのかをメモしておく。
そうすればすぐにわけることができるでしょう?」
「でも、思いつかない……」
「大丈夫。まずはこれだけ書いてみて」
私はペンを手に持ち、ユウコの言葉に続いて書いていく。
「服」
「暮らし」
「壊れてる」
「思い出」
「その他。……ああ、ここには、どうしたらいいか判断に時間がかかるものをどんどん突っ込んでいくのよ」
「……できた」
書き終えたラベルを二人に見せる。二人は顔を見合わせて、怪訝な表情をしている。
「ねえ、リラ。あなた日本語が書けるの?」
ユウコが尋ねるので私は首をかしげた。
「ユウコ、それは異世界補正だ。俺たちが異世界の言語を理解しているんだよ!」
スイクンがごきげんで言う。彼はいつも楽しそうだ。
「……そう」
ユウコは冷めた目で言った。
「じゃあ、さっそくやってみましょう! わけていくうちに『あ、こんななかまもあるな』というものが見つかると思うの。そうしたらまたそのときに書いて、専用のカゴを用意してね」
「わかった」
「じゃあ、まずはこの部屋からやりましょうか」
ユウコが選んだのは、私が自室として使っていた部屋だった。
母が亡くなったあと、なんとなく離れがたくていつもここにいた。それに、この部屋の天窓を見ていれば、空からの”贈り物“がいち早くわかる。
だから、ここにばかりいるようになり、気がつくと特にひどく散らかるようになっていたのだった。