12.妖精の片づけレシピ① 100個捨てる
ここからしばらく、お片づけレシピ回となります。
本業の経験を生かして実用的なお話もたっぷりお伝えできたらなあと思っています!
やってみた! という方は、ぜひTwitterで教えてください♪
活動報告では、ライローネのお片づけメモを見られるようにしていきますね^^
過去作のレシピもあるのでご活用ください。
初対面のときこそ、おろおろめそめそとしていたユウコであったが、私が心からこの部屋を、この塔をなんとかしたいのだとわかると、途端に人が変わったようにきりりとした。
「三ヶ月。三ヶ月でこの汚屋敷を綺麗にします。でも、見ていただければわかると思うのだけれど、私たちには手伝いができません。鳥なので」
「鳥なので」
私がくり返すと、ユウコは照れたように目線をそらして、咳払いをする。
「──あなたが自力で片づける必要がある。大丈夫ですか?」
「はい」
私が決意して頷くと、ユウコの後ろから項垂れたようなスイクンが顔を出した。
「有子……」
「なあに、翠くん?」
「3ヶ月もここにいるの? 明日から地方で講演会、それが終わったら原稿執筆、来週水曜日は女性誌の取材が入っているんだけど」
「というか、そもそも帰れるのかもわからないわよ?」
ユウコがあっけらかんと言い、私は罪悪感で胸がきりりと痛くなる。
彼女ははっとしたようにこちらを見て「気にすることじゃないわ」と首を振った。
ユウコが手をたたくようにパンと羽を鳴らす。
「さあ! とにかく、まずは目の前のモノを片づけないとね。それで、あなたのことはなんと呼べばいい?」
「リラ」
「リラね。わかった。
あのね、あなたはたぶん、……片づけるっていう行動自体を知らずに生きてきたのだと思う」
私は頷く。
この状態が異常なのだと気づいたきっかけは、廃墟街から調達してきた本だった。挿絵を見て、もしかしてこの生活はおかしいのでは? と思うようになったのだ。
「だから、ここをただ綺麗にするだけじゃなくて、片づいたあともあなたが自分で部屋を綺麗に整えられるようになる必要があると思うの。そのために一緒に修行しましょう?」
私はこくりと頷いた。彼女のうしろでは、いまだにスイクンが「スケジュールが……」とつぶやいていた。
「ええと、片づけのはじめかたにはいろいろな方法があります。でも、それもね、人に合うものって違うと私は考えているの」
「合うもの?」
「そう。だから、私がこうして実際に現場作業をするときは、相手に合わせてレシピを調合するようなイメージで考えているわ」
「ええと、たとえば?」
「そうね、ものを元の場所に戻すのが苦手ですぐに散らかってしまうおうちでは、一旦、場所別に行動を書き出してもらってる。とりあえず片づいているけれど、見ていて美しい収納にしたい!というおうちでは、まずその人の理想を探るところがスタート」
「なるほど……」
「それでね、リラ。あなたの場合、とにかくモノを減らすことが最優先。だって、恐ろしい年数……」
ユウコが、山積みになったごみの地層を眺めて、ううう、と身震いした。
それから小さな声で「あのあたりは全部コンビニ弁当の空き容器よね。よく腐らなかったものだわ……」とつぶやいた。
「問題は道具だけど……」
「有子が作れるんじゃない? ほら、オーガなんとかスキル。あれの説明見たけどさ」
気持ちを立て直したらしいスイクンも合流し、まずは片づけるための道具を精製するところからはじまった。
有子が作ったのは、透明な袋だった。見たことのない素材だ。
「今日から三日間。とにかく頑張ってほしいのは、明らかなゴミを捨てることよ」
「明らかなゴミ?」
「そう。壊れてるもの、傷んでいるもの、生活消耗品なんかは一度使ったら終わりのものもたくさんあるし……。そういうものをひたすら袋に詰めていく。
終わったら翠くんが捨ててくれるからここに持ってきてね」
「なんでも詰めていいの? 大きなものは?」
「ええと、日本だったらそういうわけにはいかないわ。燃えるごみと、燃えないごみ。最低限この2つに分けたいところだけれど、翠くんの力? を使えば自動的にそういうものができるみたい」
「チートだ……」
スイクンは、ユウコが生み出した袋の束をくちばしで突きながら、複雑そうな、それでいて感動したような不思議な表情をしていた。
ユウコは呆れたようにスイクンに目をやると、こほんと咳払いをして、続けた。
「だから今回は特例。すべて袋に入れてね。予備の袋はここに置いておくから、どんどん使って? そうね。目標がないとだらけてしまうから……初回は私が決めましょう。
リラ、今日じゅうに100個のものを捨ててくれる?」
ユウコが尋ね、私は力強く頷いた。