11.水鳥妖精ライローネ
「え、え……?」
私の目の前には、二羽の美しい鳥。 そのうち一羽が自らの姿を見て、困惑したように呟いている。
「鳥? 羽? どういうこと?」
「有子、落ち着いて? 俺たちは異世界転移したらしい」
困惑している鳥は女性の声。つやつやした白い羽が美しい。とても小柄だ。
もう一羽は、頭の飾り羽がくるりとカールしており、もう一羽と比べるとやや大きい。そして落ち着いた男性の声を出した。
「でも、でも! 翠くん。私……鳥……?」
「そうだ、異世界転移ということは、あれが使えるかもしれない」
スイクンと呼ばれたほうの鳥が、羽と羽をぽんと合わせた。彼も混乱はしているのか、女性の声が耳に入っていないようだ。
そして二羽とも私の存在は眼中にない。
「ステータスオープン!」
スイクンが片方の羽を前に突き出すようにして叫んだ。
「……おおおおおお! すげえ。有子もやってみなよ。自分のステータスが見られる」
スイクンの前には、ちょうど水面を眺めたときのような曇ったブルーのなにか四角いものが浮かんでいる。
覗き込んだ私ははっとした。
そこには、廃墟街の書店にあったものと同じ言語が書かれていたのだ。
私には読めなかったが、こんなことが書かれていた。
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香西 翠
コウザイ スイ(男/32歳)
状態:ライローネ(水鳥妖精)
特殊スキル:分別ダストボックス(∞)
その他スキル:動画撮影、タイムマネジメント、薬膳料理、アロマ、コミュニケーション、心理学、スタイリスト、フランス料理、DIY
魔法:適性なし
適職:秘書
配偶者:香西有子
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「ええええなにこのスキル。分別ダストボックス? ゴミ箱ってなんだよ……だっさ……」
スイクンは両羽を頭に乗せて崩折れる。
ぴこんと音が鳴り、画面が切り替わった。
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スキル:分別ダストボックス(∞)
説明:亜空間にごみ箱を設置。そこにものを投げ入れると、自動的に分別・袋詰あるいは梱包され、使用者の居住地(※日本)のゴミ捨て場に送られる。
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もう一羽はまだオロオロしていて、涙声で「ううう」と呟いているだけ。
スイクンが彼女のほうを見てふたたび「ステータスオープン」と唱える。
今度はこんなことが書かれていた(やはり読めないのだけれど)。
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香西 有子
コウザイ ユウコ(女/27歳)
状態:ライローネ(水鳥妖精)
特殊スキル:オーガクリエーシオ
その他スキル:全日本おかたづけ検定1級、おかたづけプロ専任講師
魔法:浄化魔法
適職:教師
配偶者:香西翠
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「ええええ有子のスキルなんかめっちゃかっこよさそう。オーガってモンスターかな。モンスターを創造できちゃうんかな」
スイクンが目を輝かせる。
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スキル:オーガクリエーシオ
説明:片づけのための創造力。片づけに必要と判断される場合のみ、あらゆるものを創造することが可能。使用限度は一日五回まで。
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興奮しっぱなしの二羽が私の存在に気づいたのは、日が暮れてからのことだった。
その間、ユウコと呼ばれたほうはずっとしくしくと泣いており、スイクンは呪文を唱えたりそのあたりにあるものをスキルに突っ込んだりと実験をくり返していた。
誰にも気づかれないので、私は仕方なくそのへんに腰を下ろす。積み上がった本がどさどさと音を立てて崩れ、二羽がこちらに気がついた。
薄暗い中でたたずんでいたからだというが、私を”幽霊“という存在に見間違えたスイクンが泣き叫び、”ユウコ“が謎の呪文を唱えるにいたった。
それは猫の声のような……ハンニャーなどという聞いたことのないものだった。
さて、はじめて出会ったときは、泣いたり興奮したりと感情が忙しそうな二人だったけれど、私がこれまでのこと、これからのことを話すと真剣に聞いてくれた。
そして彼らの話も聞いた。
ユウコとスイクンは別な世界から来たのだという。
そしてそこでは、私の暮らす建物のようなものを”汚屋敷“と呼び、二人はそれを片づける手助けをしているのだとか。
こうして私はにぎやかな片づけ妖精の召喚に成功したのであった。