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双りが舞う時  作者: 柚希
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すぐ耳元でした声に、未来は飛び上がった。


「ぎゃあっ!」


振り向くと昨日会った少年、千星が可笑しそうに腹を抱えて笑っていた。


「ぎゃあって、ぎゃあって……! 勇ましすぎるでしょっ……!」


目元に涙を浮かべて笑う彼に暴れまわる胸を押さえながら、未来は唇を尖らせた。


「君は毎回人を驚かせるよねっ」

「え~? 未来ちゃんが勝手に驚いてるんじゃん?」


悪戯っこのように片眉をあげながら、彼は肩を竦めた。

思わず非難がましい視線を送る未来の視界に、千星の背後にもう一人少年が映る。

未来の視線に気づいたのか、千星が後ろの少年の腕を引っ張ってピッタリとくっついた。


「そういえば未来ちゃんは初めてだったよねぇ。こいつオレの兄弟で衣緒(いお)。よろしく~」

「あ、未来です」


黒髪に眼鏡をかけた彼は、未来に視線をやることもなく少しだけ鬱陶しそうにその整った顔を千星に向けた。


「千星、勝手に接触していいの?」

「いいでしょー、別にハッキリ言われてないし」


眼鏡から覗く猫のような瞳は、呆れを含んでいた。

ただ、彼の態度からして歓迎されていないことはヒシヒシと感じた。

その証拠に、まるで未来など存在していないかのように振る舞う衣緒の瞳は、一度もこちらを見ていない。


(辛ぁぁ。もう初対面で嫌われすぎゃない?)


彗のように敵対心剥き出しではないにしろ、あまりこちらに良い印象は抱いていないようだった。


(いや、馴染むためにも諦めたらダメだ)


最早逃避したい気分を無理やり捩じ伏せ、ニッコリと笑顔を作る。


「ていうか、正解って何が?」

「ん? あぁ、あれだよ、あれ。……生き物の気配がしない」


衣緒の腕を組んだまま、千星が答える。


「朝とかさ、チュンチュン雀とかの声がしないとか思わなかったぁ?」

「あ、確かに」


そう言われてみれば、朝どころかこの家に来てから鳥の鳴き声を一切聞いていない。


「なんか寄り付かないんだよねぇ、動物。本能的にヤバい場所だってわかってんのかもね」

「ヤバい場所?」

「そうそう、ヤバい場所」


意味がわからず尋ねかけた未来を、まるで遮るようにして衣緒がため息をついた。


「僕もう行く」

「え~何で」

「巻き込まれたくない」


素っ気なくそう言って千星の腕を振りほどくと、衣緒は一瞥をくれることもなく去ってしまった。


その背を見送りながら、あちゃーと千星が頭を掻く。


「ごめんねぇ、あいつ人見知りなんだよね。心を開くのがちょおっと苦手っていうか」


ハッキリ嫌われてると言わないだけ彼の優しさだろうか。

思わず苦笑いを浮かべる。


「別に未来ちゃんが特別嫌いとかじゃないよ。ただ全部諦めちゃってるんだよねぇ、オレの片割れちゃんは」

「諦める?ていうか片割れ?」

「そそ。オレと衣緒は双子だよー、二卵性だけど」


不自然な程の笑顔で、彼は続けた。


「だからなんとなく、以心伝心みたいな感じで考えてることわかるんだよね。性格も、顔もあんま似てないけど。繋がりが深いのかもね、普通の兄弟より」


まあ、未来ちゃんたち程じゃないだろうけど。


そう続いた言葉に、思わず固まった。


「え……?」

「なぁに?」


言葉の意味がわからず困惑する未来の顔をキョトンと様子で見つめた千星は、暫くしてゆっくりと何か合点がいった様子で口元に手を当て頷いた。


「あぁ、あぁ、そっか。()()()()()()()()。」

「え、そういうことって?」


いっそゾッとするほど無邪気に、彼は笑って言った。


「未来ちゃんって、ホントになぁんにも知らないんだね」

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