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双りが舞う時  作者: 柚希
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出された熱いお茶を啜りながら、未来の中には疑問だけが浮かんでいた。冷静になってみると、親戚の少年たちが口にした事柄は、全くもってわからないことだらけであった。

ただ、こちらから気軽に質問していいものかー-。

未来には判断ができかねていた。


厳格そうな祖母とは対照的に、祖父は朗らかに声をかけてくる。


「大きくなったねぇ、未来ちゃん。ボクは星宮善次。君のお祖父ちゃんです。そして彼女が星宮家当主、星宮星子さん。お祖母さんです。」

「あ、えっと、はい。未来です、お世話になります」


ペコリと頭を下げると、優しげな眦をますます下げて、祖父は茶菓子を勧めてきた。


「うんうん、礼儀正しくていい子に育ったね。それにしても子供の成長はあっという間だなぁ。前回会った時はヨチヨチ歩きだったのに、もう高校二年生だもんねぇ。たぶんボクのこと覚えてないよね? じいじ、じいじって抱っこをせがんでねぇ、可愛くて可愛くて」

「へえ、そうなんですね」


勿論記憶には全くないが、好好爺然とした祖父に少しだけ肩の力が抜けた気がした。


それから少しだけ未来の過ごしてきた幼い頃を、彼に聞かれるまま答え談笑して一段落ついた頃、漸く今まで置物のように口を閉ざしていた祖母が声を出した。


「善次さん、聞きたいことはもう終わりましたか?」

「うんうん、もう終わったよ」


一切談笑に交わらなかった彼女に、未来もいつの間にか苦手意識を抱いた。


(打ち解ける気ないなぁ。おじいちゃんはなんでこんな恐い人相手でも朗らかなんだろ)


むしろ逆に相性が良くて、結婚したのだろうか。


「未来」

「あ、はいっ」

「お前にはここにいる間覚えてもらうことがあります」


突然の宣言に、思わず瞳を瞬かせる。


「え? 覚えてもらうこと?」


未来の戸惑いなど意にも介さずに、彼女は淡々と続けた。


「お前には明日から、直系の娘が代々受け継いできた鎮魂の舞を稽古してもらいます。」

「え、何それ」

「本来なら直系で長女であるお前の母親がお前に引き継ぐべきですが、あれは役目を放棄したので、私が明日から稽古をつけます」

「いや、ちょっと意味がわからないんですけど」


言われるまま驚いていた未来だったが、祖母のまるで物を扱うかのような母親への物言いにムッとして言い返した。


「お前は言葉が通じないのですか?」

「は?」

「これは代々の役目です。我が一族の務めとも言えますが、詳しいことはまだお前は知らなくてもいい」

「いや、知らなくてもいいって、それで納得しろって言うんですか?」

「そうです」


キッパリと祖母は頷いた。

一方的な言い分に流石に頭にくる。

元々未来は大人しい性格ではない。納得できないことを、説明もなく強制されるのは性に合わなかった。

言い返そうと口を開きかけた未来を制して、彼女は冷たく続けた。


「鎮魂の舞は星宮一族の生業の一つです。お前は、タダで夏の間この家に居候するつもりでいたのですか? 何もせず置いてもらえると? 働かない者に優しくする人間は、この家にはいませんよ」


(いや、そのつもりだったわ!)


思わず喉元まででかけた言葉を、未来は呑み込んだ。

交流のない孫の面倒を見てもらうなど、確かに少しだけ厚かましいかなと思わなかったわけではない。

年齢的に未成年とはいえ、未来は小さく分別がつかない幼子ではない。

空気だって読むし、遠慮だってする。

もし手伝うことがあれば、勿論家の中の掃除や仕事などもやるつもりですらあった。


それでも未来の中には、血の繋がった祖父母なのだからと甘えがあったのも事実だ。

今まで会えなかった分、これから交流して仲を深められればいいと思っていた。

別に今まで祖父母に会えなくて寂しいとは思ったこともない。

いることすら知らなかったから。

それでも初めて会う身内に落胆する気持ちがあるということは、少しは仲の良い祖父母と孫の関係に憧れがあったのかと、思わず自嘲した。


せめてきちんと説明してくれれば、喜んで引き受けたのに。


「……わかりました」


色々な感情を呑み込んで、未来は頷いた。


「話はこれで終わりです。明日から稽古をつけるので、午後は部屋にいるように。それからこの後、お前の部屋に案内する者が来るのでこの部屋にいるように」


さっさとそれだけを告げて祖母は出ていった。

最早見送る気力もない。


「未来ちゃん」

「……はい」

「すまんなぁ。星子さんは当主という立場的に、物言いが少しきついだけなんだ。色々聞きたいこともあるかもしれないが、少しこの家は複雑でなぁ。話す時がくるまでもう少し我慢させてしまうが、許してくれないかの」


そう言われてしまえば、未来は何も言えなかった。

祖父が悪いわけではないが、祖母との間に立ってほしかった気持ちもあって、なんともいえない気持ちになる。

ただ夏休みの間だけでも世話になるのだから、居心地を悪くもしたくない。

小さく頷いた未来の頭を優しく撫でると、祖父も静かに客間を後にした。


それから暫くしてお手伝いさんがやってきて、離れの一室に案内された。

慣れない畳の匂いに包まれながら、未来は座り込んで天井を仰いだ。


「なんか特殊な家に来ちゃったなぁ」


それでも今すぐ実家に帰れるわけではない。

夏休みの間だけでも心地よく過ごせるように、未来自身が努力するしかないのだった。

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