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双りが舞う時  作者: 柚希
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水色のワンピースを着た、十歳くらいの少女だった。

黒いボブカットが小さい顔を覆い、表情は見えづらい。


「え、この子いつからいたの? 他の親戚の子?」


少女に気づいた三人の顔が少しだけ面倒くさそうなものに変わる。


「ちっ、何でここにいんだ。当事者捕まえとけよな」

「あー、拘束具あったかな」

「未来ちゃん、ちょっとこっちおいで~」

「え、ちょっと何してるの」


乱暴に少女の肩を掴んだ織杜にギョッとする。


「小さい子に酷くないですか」


慌てて駆け寄り、織杜から少女を引き離した。


「いや、未来ちゃんこっち来た方いいよ」

「まあ、待て千星。せっかくだ、俺らの視えてる世界を視てもらおうじゃねぇの」


ニヤニヤと楽しそうというよりは凶悪な表情で笑う彗を見ながら、千星も楽しそうな表情を浮かべた。


「いや、お前たちなぁ。何かあったら叱られるの俺なんだが」


呆れたような視線を向ける織杜を気にもとめず、彗は指先で少女を示した。


「そのガキ、うるせぇな」

「え?」


かんかんかんかんかんかんかんかんかんかん。


断続的な踏切の音が次第にハッキリと聞こえて、吸い込まれるように少女に視線を落とした。

俯いていたと思った少女は、いつの間にかこちらを見つめていた。

まるでその瞳はポッカリと空いた闇のように深く、小さな口がやがて大きく開いた。


ひゅっ、と思わず息を呑む。


「かんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかん」


その音は、少女の口から聞こえていた。


「うわっ」


慌てて身を離す未来の腕を少女とは思えないほどの力で掴んできま彼女は、その暗い瞳をゆっくりと弓なりに細めた。

にぃっと歪んだその目は、どこまでも虚ろで生気を感じない。

その姿は、未来に死を連想させた。

緩やかな、汚泥のような死の匂い。


かんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかんかん


あまりの力の強さに、顔が歪む。

歪なほど大きく開いた少女の口の中に、薄暗い目があった。

ギョロギョロと忙しなく動くそれと目が合った瞬間、感じたことのないおぞけが走った。


「ひっ……!?」


咄嗟に掴まれていない方の腕を振り上げ、少女の華奢な背中に振り下ろした。

バシンっと勢いのよい音が響くと共に、つんざくような悲鳴が少女の喉から迸る。

カッと見開かれた少女の瞳と、口の中に潜むナニモノかの瞳が未来を恨めしそうに睨んだかと思うと、糸がきれたように少女の体が崩れ落ちた。

倒れかけた少女の小さな体を咄嗟に受け止め、その瞳が固く閉じられていることに気づいて慌てた。


「え、ヤバいヤバい! 力強すぎた!? 大丈夫? ねえ!」

「うわぁ、マジか。鎮められてる」


近寄ってきて少女を覗きこんだ千星が驚いたように言った。


「え、ねぇこの子大丈夫なの!?」

「大丈夫、今は寝てるだけだ。……凄いな、一時的なものとはいえ鎮められてる」

「え、鎮められてるってあの気持ち悪いやつですか?」

「あぁ。今は奥に引っ込んでる状態だ」


織杜の言葉にホッと胸を撫で下ろした。

小さい子供に咄嗟だとはいえ暴力をふるってしまったことに、未来自身驚いていたのだ。彼女に怪我をさせなくてよかった。


「お前の方がゴリラじゃねぇかよ。こんな力業聞いたことも見たこともねぇわ」


思いきり引いた表情でこちらを見てくる彗に内心ムッとしていると、廊下側がにわかに騒がしいことに気づいた。


「何だろ?」

「いないことに気づいて回収しにきたんでしょ。とりあえず未来ちゃんはこっち」


奥にも襖があり、そこに連れて行かれた。

日の光が入らない造りの薄暗く細い廊下に続いていて、なんとなく未来には恐ろしく見えた。


「あの奥何?」

「うん? あぁ、秘密の部屋。その内使うことになるかも……って、あちゃあ障りが残っちゃたね」


未来の腕を見た彼は微かに眉を寄せた。

自分でも見てみると、先程少女に掴まれていた腕にくっきりと指の後が残っていた。

いや、後というにはどこか違う。

緑と黒を混ぜたような汚ならしい汚れのようなものが、指の形を残しているのだ。


「げ、何これ」

「障りだよ、まあ穢れとも言うかな。ああいったモノの残滓みたいなものだよ~。呪いや思念みたな感じで、あんまりよくない」

「え、どうしよ」

「うーん、あ、ちょっと待って。当主様たち来たみたい。今から喋ったらダメだよ」


口元に指を当てながら、しぃっと小さく呟いた千星に言われるがまま口を閉ざすと、先程いた部屋の方が何やら賑わっているのが聞こえた。

彗の怒鳴り声が聞こえたかと思うと、暫くしてから織杜が廊下に顔を覗かせた。


「もう行ったぞ」


部屋に戻ると先程の少女の姿が見えない。


「あの子も連れて行かれたんですか?」

「あぁ。そもそも今回の依頼者の子供だったらしく、あの子に良くないモノが憑いたために連れてこられたんだ。でも本家で依頼内容を確認してる内にいつの間にかこっちに紛れこんだらしい」

「ババアの落ち度じゃねぇか。あのクソババア謝りもせず嫌味だけ言いやがって、落ちぶれた元舞姫が」


吐き捨てるように続けた彗はやはり先程揉めたようだった。


「おばあちゃん、当主様って元舞姫なの?」

「そうだよ。ていうか、舞姫が世代交代したら次の当主になるんだよ。」


そういえば未来の母親も本来なら舞姫で次期当主だったと話していたのを思い出す。


(え、もしかしてあたしも?)


嫌な想像に内心首を振った。気づかなかったことにしよう。


「それよりさ織兄、これ見てよ」


千星が未来の腕を引っ張って痣になったそれを織杜に見せると、彼は微かに困ったような表情を浮かべた。


「障りか。ハッキリと残ったな」

「ハハハっ、ざまあっ!」


高笑いする彗に躊躇なく蹴りをおみまいすると、軽やかにかわされた。


「何度もそう当たるかよ」


顔が綺麗なだけに憎たらしさも増すような気がした。

流石に苛立っていると千星が宥めるように肩に触れてくる。


「まぁ、これくらいならあの人なら治せるしさ、大丈夫だって」

「あの人?」

「うん、ほらさっき言ったでしょ、五星柱はもう一人いるって。案外早く会えるねぇ」

「いや、あいつどこにいるのか知ってる奴いんのかよ」

「あ~まあ、屋敷の中のどっかにはいるでしょ。オレたちより引きこもりだし」

「確か彼女は午後から稽古だから早く見つけないとな。俺たちも午後はさっきの子の祓いに呼ばれるだろうし」

「んじゃ探しに行きますかぁ」


未来ちゃんはこの部屋で待ってて。

そう言って二人は面倒くさそうな彗を引っ張って行く。


ただ千星だけは出る直前顔だけを振り向いて、ニッコリと言った。


「こちらの世界へようこそ、未来ちゃん。これで色々なモノが視えるね」

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