最悪
どこかで見たことある成分多々ございますが、よろしくお願いします。
「駄目動かない」
私は絶望し、首を振る。
私の左手が呪いにかかり、何も感じなくなって3日目。お母様が連れてきた治療師によって呪いを解く儀式が行われたが、何も変わらなかった。
「治るのではないのですか!」
お母様は立ち上がり、私の前にうずくまっている治療師に詰め寄った。
「何度も、治る可能性は低いと言っておりました」
ファユードの英雄譚の中に、英雄の友である魔法使いスァニケーイも”呪い”に侵されたとある。スァニケーイは精霊を召喚し、その呪いを打ち払う。誰もが知る伝説、残念だがその方法は詳しく伝わっていなかった。治療師は、その方法がシトルラ族に古くから伝わる”魂の召喚”では無いかと研究をしていたそうだ。
その噂をお母様が知り、彼を連れてきたのだ。
「絶対の自信があるものでは有りませんでした。それにお嬢様が受けた”虚の呪い”は、呪いの中でも最強に分類されるもの」
男は狂ったように言い訳を始める。確かに、そう言っていたかもしれない。
「今更何を言うのですか」
叱責が、男の言葉を止める。お母様は治療師の言い分を受け付けない。
私も治ると期待してしまっていた。
「私は出来る限りの事をしました、これ以上は無理です。家族の元にかえしてください。お願いいたします」
疲れ切った声で、男はお母様に土下座している。
「お前のような役立たずはこの世に存在する必要などないわ。この男を処分しなさい」
お母様付きの兵士が男の前に立った。
「ひぃー!」
男が悲鳴を上げた。
「待って!」ポツリと言っていた。
私もこの治療師を蹴飛ばしたいが、殺すのはダメ。
「優しい子」お母様が私を抱きしめ
「その男を牢に入れておきなさい」
「それでは約束が違います」と治療師は叫ぶが、兵士達に連れて行かれた。
お母様が私の頭を撫でる。
「私にまかせて。きっと、本当の治療方法を探してみせるわ」
「でも11日後には」時間がない。
「大丈夫よ。大丈夫」
そう言うと、お母様は立ち上がり
「エンギ、もう一度腕の良い治療師を探して。歴史や、秘儀に詳しい者でも良いわ」
兵士の1人に命じる。
「何としても、呪いを解かなければ。私は終わりだ」
今まで見たことがない怖い顔をして部屋を出ていった。
私はシュサレア公爵家の第四子、レイティア。
11日後には、10才の誕生日にお披露目が行われる。大事なお披露目会だ、そこで私は正式にお父様の子と認められるのだから。
その日には、お父様からいくつかの贈りものがいただける。お父様が何を持っているのか知りたくて、宝物庫に入ろうと思ってしまった。無論、立ち入りが禁じられている場所だ簡単には入れない。
お母様に話すと、お付きの魔法使いと一緒に行くことになった。宝物庫の中の物に興味が有ったみたい。魔法使いが結界に穴を開け、宝物庫に忍び込こむ。
これが良くなかった。飾ってあった楽器に目を奪われ、何も考えずに手が伸びていた。触れた瞬間に呪いにかかってしまった。すぐに手を引っ込めたが、右腕の感覚が無い。
何も感じないし、動かす事も出来ないそれが”虚の呪い”だった。
誕生日のお披露目会でお父様にお会いする。”虚の呪い”に呪われているのが知られれば、宝物庫に黙って入った事がバレてしまう。私もお母様もお父様に怒られる、何としても避けなければ。
- おいガキ。聞こえるか -
泣きつかれて、いつの間にか寝てしまっていたようだ。なら、これは夢だ、私をガキだなんて呼ぶ者はいないもの。
- 聞こえてるんだろう。返事をしろ -
妙にハッキリとした夢ね。
「私はリイティア。ガキじゃないわ」
夢の中で応えてあげた。
- 十分、ガキだ -
「失礼な言い方ね。貴方は誰なの」
- さあ誰なんだろうな。それにオレを呼び出したのは、お前達だろう -
「私達?」
- そうだ、さっき言ってたじゃないか”魂を召喚”したと。呼び出されてお前の腕に押し込まれた、冗談じゃない。いきなりこんな事になってみろ、パニックだぞ。オレは今、お前の右手にいる -
「右手?」
……
「成功していたの!じゃ、なんで動かなかったの」
- 状況を飲み込めなかったんだ。何故か周りの音は感じていたが。目は無い叫ぶ口も無いだからな -
「そんな事はどうでもいいわ。
私の腕は動かせるの、治ったの?
嬉しいお母様も喜んでくれる」
- オレがお前の想いどおりに動くかは、気分しだいだな -
「何故?
どうして、そんな事を言うの。意地悪しているの、私は公爵家の娘よ」
- お前が誰の娘でもオレには関係ない。不愉快なんだよ。いや、怒っていると言ったほうがいいか -
「怒っている?何に」
- オレを召喚した治療師。あれは無いだろう -
「え?
お前を召喚した事を怒っているの」
自分が召喚された事を怒るのなら、あの男に怒ってよ。何故、私達を怒っているの。
- オレを召喚した事は怒ってはいない。何故、右手なのかという思いはあるが、まあ、そこはいい。
彼に何の罪がある?
聞いてた限りじゃ、あの治療師に何の責任もない、それを牢屋に入れるってのはどうだ -
「彼を牢屋に入れたのを怒っているの」
- そうだ -
「判ったわ。私もやり過ぎ、と思ってたし、男は明日、牢から出す。
それでいいのね。そうすれば、私のいうことを聞くのよね、約束したから」
- 約束とは、双方の合意で成り立つモノだ。こんな一方的なものは約束とは言わない。オレは見ているぞ -
目が無いと言ってたくせに、見ているだなんて偉そうに言ってくれる。
「はい、はい。判りました」
翌朝はメイドに起こされる前に目が覚めた。変な夢のせいだ。
左手で右腕をなでて確かめて見るが、やはり何も感じられない。夢と言うには生々しかった。
メイドに手伝ってもらい、着替た。あまりかわいいドレスではない、これから行く場所を考えてだ。
私が住んでいるのは、公爵家の敷地の中にあるお母様専用の離れ。離れと言っても、きちんとした館だ。
その館にある牢に向かう。牢は地下に有り、地下部屋に入ると、すぐに大きな鉄格子がある。
鉄格子の前にい眠そうな衛兵がいた。
私を見て「誰だ!」
この館にいて、私の顔を知らないのかしら。
「リイティアよ」
「お嬢様!
何故、このような所に」
普通、私はこのような場所には来ない。ただ、アイツは”見ている”と言った。命じただけでは駄目で、実際に治療師を出さなければと思ってしまった。
「昨日の治療師はいる」
「は、はい、おります。
牢に入れられた時は騒いでおりましたが、今は黙り込んで、静かにしています。それが」
「出して」
「?」衛兵は戸惑っている。
一瞬、何かを考えたようだが
「おい、あの治療師を連れてこい」
鉄格子の向こうにいた別の男に命じた。男は走って奥に入って行き、治療師を連れて戻ってきた。
「出ろ」と衛兵は鉄格子のドアの鍵を開ける。
おどおどと治療師が出てくる。
治療師は私の右手を見ている。自分がどうなるのか判らず不安のようだ。
「開放するわ、自由よ」と言うと、治療師も衛兵も驚いている。
そんな変な事を言ったかしら。
キョトンとしている治療師に「好きにしていいって言ってるの。家にでも何処でのさっさと行きなさい」
その言葉で治療師は「ありがとうございます」と弾かれたように走り出す。
少し嬉しくなった私は良い事をしたんだ。
でも、心が弾んだのは少しの間。自分の部屋に戻っても、右手は何も感じない。相変わらず動かすことも出来ないのだ。
あれは夢だったの。何とか言いなさいよ!
私を騙したの?
「私は約束を守ったわよ。何とか言いなさい」
衝動的に朝食用に用意されていたホークを右手に突き刺した。
真っ赤な血が流れ、すごく痛い!
一話何度か書き直しています(基本ストーリー代わってません)