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色彩の守護者  作者: 桜井愛明
第二章 パンドラ編
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第48話 未知数

「銃は魔力が切れない限り、弾がなくならないのは便利ですね。慣れてくれば二丁拳銃なんてこともできるんでしょうか」


 零は感想を述べながら、興味深く八尋の動きを観察していた。

 八尋は黒金の隙をついて零を狙おうとするが、黒金はそれらすべてを弾き返し、八尋は零に近づくことさえ叶わなかった。


「ただ、近距離になると不利になるのは普通の銃と変わらないようですね。彼が扱いに慣れていれば話は別でしょうけど」


 自分が狙われているにも関わらず、焦る素振りも見せずに余裕そうな零の表情に、八尋は悔しそうに唇を噛み締めた。

 零は大きく伸びをして八尋と相対する黒金に呼びかける。


「大まかなことは知れましたし、そろそろ撤退しましょうか。黒金さん、そろそろ切り上げて良いですよ」

「逃げるな!」


 八尋は零に向かって撃つが、黒金の隙をついて零に狙いを定めるのは、今の八尋の実力では困難だった。

 零を守るように立つ黒金に、八尋は今まで黒金が自分に助言をくれていたことを思い出す。そして、銃を強く握りしめて黒金に訴えかける。


「黒金さん、あなたは俺を何度も助けてくれた……なのに、黒金さんもなんであいつと同じ、パンドラのメンバーなんですか!?」

「…………」

「なんで答えないんですか!」


 黒金は鎌で銃を払い落とし、再度具現化しようとする八尋の腕を掴む。


「あんな奴と一緒にしないでほしい」


 その声は低く冷たく、掴まれた腕の力と声に八尋の体が強張る。

 黒金の言っていることが理解できず、八尋は戸惑いながらも黒金に尋ねる。


「それって……どういうことですか」

「そのままの意味だよ。僕はパンドラのメンバーでもないし、あいつの味方をする気はさらさらない」

「じゃあなんで……」

「頼まれてるんだ。あいつがなにかしたら守るようにと」


 なぜ零を守る必要があるのか、黒金は誰かに脅されているのか、一体誰が零を守れなどと言っているのか。

 いくつもの疑問が浮かんできた八尋は黒金に尋ねようとしたが、それは零の閃いた声によって遮られる。


「黒金さん。良いことを思いついたので、一つお手伝いを頼みたいのですが」

「断る」

「そうですか。それなら一人でやります。邪魔だけはしないでくださいね」


 零は軽い足取りで八尋に近づき、八尋は零が近づいたことに驚いて黒金の手を振り払って後ずさる。

 しかし、そんな八尋とあっという間に距離を詰め、零は臨戦態勢の八尋に微笑みかける。


「君はちゃんと人を撃ったことはなさそうですね。撃つ前に毎度躊躇っているのがよく分かりますよ」


 そう言うと零は八尋の後ろに回り込んで腕を捻り、そのまま地面に押さえつける。

 手慣れた動きに八尋は銃を具現化する暇もなく、零の腕から抜け出そうともがくが、思った以上に強い零の手から逃れることはできなかった。

 黒金が零を引き剥がそうと近づくが、そう来ると読んでいたらしい零が黒金を風で吹き飛ばし、さらに続けて氷で足元を凍らせる。


「さて、どんな結果になるのか。僕に見せてください」


 その隙に零はポケットから美凪と凪斗が持っていたものと同じ注射器を取り出し、八尋の頭を押さえつけて首に注射器を刺す。

 チクリと感じる痛みのあと、筋肉痛にも似た痛みと血液が沸騰するような熱さが身体中に襲いかかり、八尋は耐えきれず苦悶の声を漏らす。


「どうですか? 体の感覚は? 呼吸は? 心臓の動きは? 今感じていること全てを僕に教えてください」


 期待のまなざしを向けられる零からの質問に答えられるはずもなく、八尋はその場で浅い呼吸を繰り返すばかりだった。

 そして自身の能力で氷を砕いた黒金は、そのまま零を八尋から引き剥がして零に掴みかかる。


「なにをしてる!」

「ちょうど余ってたので使ってみました」


 黒金のものすごい剣幕と怒気をはらんだ声にも怯まず、零は楽しそうな声で返す。

 零は黒金に胸ぐらを掴まれたまま八尋に視線を移し、考えるようにつぶやく。


「武器使いや魔法使いに使ったことはないなと思って試してみましたが、思った通りの結果だったのでもう良いです。帰りましょうか」

「赤坂くん!」


 黒金は零を突き飛ばすように離れ、八尋に呼びかける。

 しかし、焦点の合わない目で浅く呼吸を続ける八尋から反応は返ってこなかった。


「黒金さん、帰りますよ」


 呼びかける黒金に冷たく言い放ち、零は身を翻して歩き出そうとするが、その足は踏み出すことができなかった。

 それは、八尋が震える手で必死に零の足を掴んでいたためだった。


「待てよ……!」

「ちゃんと意識はあるんですね。でももう良いです」


 零は弱々しく足を掴む八尋を足蹴にし、黒金を連れて立ち去ろうとする。


「待てって、言ってんだろ……」


 八尋が掠れた声でつぶやいたその時、零の腕に衝撃が走った。

 零が腕に目を向けると、左の肩口から肘にかけて服が焼け焦げ、腕に火傷を負っていた。


「これは……」


 零は咄嗟に魔術の水と氷を自身の腕にまとわせて応急処置をし、零の腕に当たった原因を探ろうと後ろに視線を向ける。

 明らかに八尋の異能力ではない、誰かが来たのか、という零の推測は、八尋を見た瞬間に覆った。

 新しいおもちゃを見つけたかのようにキラキラと目を輝かせ、零は驚きと喜びが入り混じった声を上げる。


「君は、魔術も使えるんですか!」


 八尋の手元では、勢いをなくした火がジリジリと燃えていた。

 そんな八尋は立っているのがやっとなのか、一言も言葉を発することも、その場から動くこともなかった。


「まさかそんな奇跡があるなんて……もっとよく見せてください!」

「赤坂くん……」


 目の前の出来事を信じたくないような声を漏らす黒金とは反対に、零は手を震わせてゆっくりと八尋に近づいていく。

 その時、八尋の後ろから息を切らせたエリナと凌牙が走ってきていた。


「赤坂!」


 八尋の姿を確認したエリナは、走りながら弓矢を具現化し、零を八尋から遠ざけようと弓矢を引き絞る。

 零は慌てる様子もなく弓矢を避け、八尋を庇うように立つエリナを見て深々と頭を下げた。


「ごきげんよう、紫筑エリナさん」

「あんたが一色零?」

「はい。まさかあの紫筑エリナさんにお会いできるなんて。光栄です」


 そう言うと零は思い出したように、ポケットからある物を取り出し、エリナたちに向かって投げる。


「忘れるところでした。これ、お返ししますね」

「……青山の研究所の?」

「はい。必要なデータだけコピーさせていただいたので、元データはお返しします」

「研究所からデータを盗んだ目的は?」

「それで、データを返した代わりと言ってはなんですが、彼の実験結果を見届けてくれると助かります。僕たちはもうそろそろ撤退しないといけないので」


 零がエリナの質問に答えることなく返すと、八尋は崩れるように地面に倒れ込む。


「赤坂!」

「知りませんでしたよ。まさか彼も魔術を使えるなんて!」

「魔術……なんのこと?」


 八尋に駆け寄ったエリナは、零の言っていることが理解できずに眉をひそめる。

 エリナの横から凌牙が鉤爪を具現化し、零に斬りかかろうとするが、黒金が大鎌で凌牙の攻撃を受け止める。

 刃の重なる鈍い音が響き、凌牙は零と黒金を見て低い声でつぶやく。


「さっきから訳分かんねぇこと言ってんなよ」


 仮面越しとは言え、表情を読み取れない黒金に、凌牙は気に入らないと言いたげに舌打ちをする。

 後ろではエリナが八尋の名前を何度も必死に呼んでおり、その声が凌牙の耳にいやでも入ってきた。


「黒金さん、そこ危ないですよ」


 零の声とともに、凌牙と黒金の間に催涙ガスが投げ込まれた。

 凌牙は足元に投げられたそれがなにかを察して離れた隙に、零と黒金は後方のエレベーターで姿を消した。

 凌牙は急いで二人の元に戻り、安全なところまで八尋を抱えて離れる。

 部屋の端で八尋の安否を確認するが、八尋はエリナと凌牙の声にも応じず、朦朧とする意識の中で呼吸をするのに必死だった。


(冷や汗が止まらない、なのに体が熱い、息が苦しい……)


 固い地面を握るようにすがるように掴み、八尋は這いずるようにその場から立ち上がる。


(違う、あいつを追いかけなきゃ……)

「赤坂、赤坂!」


 エリナの声が届いていないのか、八尋は異能力を具現化しながら零のいた方向へ重々しく歩みを進めていった。

 その光景にエリナと凌牙も一瞬息を呑むが、我に返ったエリナが八尋の肩を掴んで呼び止める。


「っ、赤坂……赤坂八尋!」

「…………紫筑、先輩……?」


 引き止められたところで八尋の視界にエリナが映り、そこで八尋の意識は途切れた。


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