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色彩の守護者  作者: 桜井愛明
第二章 パンドラ編
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第44話 実験台①

「と思いましたが、時間稼ぎをされても面倒ですね」


 わざとらしく零は首を傾げる。

 その隙に八尋は距離をとって再度零を狙うが、零は同じように弾を軽々と弾き返した。


「まだまだ発展途上ですが、未来の守護者である君たちがこれからどう成長するのか、非常に楽しみです」


 にこやかな笑みを浮かべる零だが、そこはかとなく感じる不気味さに八尋とあかりは思わず息をのむ。

 零が美凪を呼ぶと、美凪は魔術を放って恭平から距離をとり、零に駆け寄った。


「美凪。あれは持っていますか?」

「うん、持ってるよ」

「今使ってみてもらってもいいですか?」

「分かった」


 美凪はポケットから注射器のようなものを取り出すと、自分を落ち着かせるように一度大きく深呼吸をして自らの腕に突き刺した。

 それを見た八尋たちは、注射器のようなものが見えたと言う浅葱の証言を思い出す。


「赤坂くん、あれって……」

「きっと松葉先輩が言ってたものだ……」


 八尋たちの視線の先では、ふらつく美凪を零が支えており、美凪は刺した箇所を強く押さえてつぶやく。


「……あとで、使った結果を報告したらいいんだっけ」

「はい。作戦通りあとで合流して、そこで結果を教えてください」

「分かった。零さんは今のうちに逃げて」

「ありがとうございます。では、あとはお願いします」


 零は八尋たちの目の前に雷を放つ。

 突然の閃光で八尋たちの目が眩んだ隙に、零は八尋たちの横を走り抜けて部屋を出て行った。


「待て!」


 八尋は完全に視界が戻らないながらも、零が出て行ったことに気がつき、感覚を頼りに走り出す。

 しかし美凪もそれを見逃さず、出て行こうとする八尋の足元を狙う。


「ここからは出させない!」


 美凪の放った氷が足に当たって八尋は一瞬足を取られるが、具現化した銃で氷を撃ち抜いた。撃ち抜かれた氷は砕け散り、八尋は具現化を解除して脇目も振らず再び零を追いかける。

 恭平とあかりもそんな八尋に続こうとするが、美凪が扉と辺りの壁を凍らせ、二人はそれに阻まれて先へ進むことは叶わなかった。

 氷を砕こうとそれぞれ異能力を具現化するが、二人の顔の横を雷が掠めた。

 それは美凪が明確に二人を狙ったものであり、まさか自分達を狙うと思わなかった恭平は、あかりを後ろに下げて美凪と対峙する。


「蘇芳さん、あの時のことってやっぱり嘘だったんだろ」

「青山先輩に襲われたってやつ? うん。兄ちゃんといるのがバレちゃいけなかったから咄嗟に言ったんだ」

「そんなすぐバレる嘘、なんでついたんだよ」

「青山貴一が犯人になればいいなーって思って言ったけど、まさか赤坂くんたちが犯人探ししようなんて言うと思わなかった。だからみんなと一緒に行動して、できるだけ本当のことを知られないようにしたかったの」


 自分たちに協力すると言っていた美凪に感じていた違和感の正体はそれだったか、と恭平は美凪の行動を振り返る。


「あたしは兄ちゃんとか零さんとかと違って頭良くないから、どうしようかずっと考えてたの」

「美凪ちゃん……」

「でももういいんだ。さっき兄ちゃんが生徒会長を連れてきたって連絡がきたの。会長を使って青山貴一を殺すみたいだから」


 美凪の言葉に恭平とあかりが動揺している隙に美凪は恭平たちに向かって走り、魔術の風によって二人を引き離す。

 恭平とあかりはなんとか合流するが、扉の前には美凪が立ちはだかっており、通さないと言わんばかりの視線を二人に向ける。


「美凪ちゃんもパンドラのメンバーなの!?」

「違うよ。兄ちゃんと零さんがそのことを話してたのは知ってるけど、ちゃんとは知らない」

「蘇芳さんはあいつに利用されてるだけだろ!」

「そんなことない!」


 恭平の言葉を遮るように美凪は声を荒げ、凍った扉にもたれかかる。


「零さんはあたしと兄ちゃんを助けてくれた! だから今こそ恩返ししなきゃ!」


 美凪の言葉に反応するように、扉がバキバキと音を立てて凍っていった。

 それは美凪が無意識に使っていた魔術によるもので、その光景に美凪を含めた全員が驚き、歪に凍った扉を見つめる。


「すごい……零さん、すごいよ! 薬の効果、バッチリ出てるよ!」


 まさかこんなに強力になるなんて、と美凪は恍惚の表情を浮かべて魔術を使った自分の手を見つめる。

 そして恭平たちは完全に外に出るための道を塞がれてしまい、あかりは美凪に必死に訴えかける。


「美凪ちゃん、そこを通して!」

「やだ。零さんが逃げるまで引き止めなきゃ」

「じゃあ、無理やりにでも通してもらうしかねぇな」


 嬉しそうな美凪の表情を見てあかりはどうしたら良いのかと戸惑い、その横で恭平が覚悟を決めた表情で槍を具現化した。


   * * * * *


「さっさと死ねよ!」


 凪斗の魔術が貴一に狙いを定めると、それを誠が具現化した刀で止める。その隙に貴一も反撃しようと雷を具現化するが、誠は捨て身でその雷を受け止めた。

 エントランスでは貴一と凪斗が応戦しており、時々それを遮るように誠は刀を具現化させて間に割って入っていた。

 誠の動きに不審さを感じ取ったのか、凪斗は体勢を立て直しながら誠を睨みつける。


「誠、協力するフリしてさっきから邪魔してるでしょ」


 凪斗の問いかけに誠は息を切らせるばかりで質問には答えなかった。

 その様子に呆れながら、凪斗は誠にゆっくりと歩み寄る。


「俺さっき話したでしょ。俺たち家族の人生を狂わせた奴らだって」

「蘇芳、だからそれは誤解だ」

「零さんが助けてくれなきゃ俺と美凪は路頭に迷ってたって」


 凪斗は後ろから聞こえる貴一の言葉を無視するが、横から現れた貴一に炎を具現化して殴りかかる。

 しかし貴一も水を盾のように具現化して防ぎ、殴りかかる手を止めない凪斗に尋ねた。


「お前は一色零がパンドラのメンバーだと知っているのか!」

「知ってる。パンドラとか魔術研究とかやってることも知ってる」


 凪斗の言葉を聞き、貴一はなおさら凪斗に零に協力する理由が思いつかなかった。

 パンドラの人間に手を貸すということは、それだけで自分もその道に染まってしまう。疑問が浮かぶ貴一に凪斗は続ける。


「でも知った上で助けて欲しいって言った」

「なにがお前をそこまで動かすんだ……」

「なにが? 同じ気持ちを味合わせてやるためだよ!」


 苛立ちを隠しきれない凪斗はくるりと身を翻して貴一の足を引っかけ、体勢を崩した瞬間を見逃さずに雷を具現化する。


「凪斗!」


 しかし誠がすかさず割り込んで凪斗の拳を峰で受け止めた。

 雷と刀がぶつかって鈍い音が響く中、ギリギリと凪斗の拳が強くなっていくのを感じ、誠も思わず刀を握る力を強める。


「…………もういい」

「凪斗?」

「協力しないならお前はいらない」


 凪斗は突然刀の先を握り、反対の手で誠に魔術を叩き込もうとする。

 誠は急いで具現化を解除し、それと同時に動き出した貴一が誠を庇おうと前に飛び出す。しかし、その動きを読んでいた凪斗は貴一の動きを見切り、貴一を壁に勢いよく蹴り飛ばした。

 そして貴一に気を取られた誠の首元に、凪斗は氷の刃を具現化して突きつける。


「誠は俺に味方しないわけ?」

「……俺はどっちの味方でもない。俺はただ、二人が争ってる姿を見たくないだけだ」

「そんなんだからお前は落ちこぼれって言われんだよ」


 凪斗の冷たく吐き捨てられた言葉に、誠はなにも言い返せなかった。

 氷の冷たい感覚と冷や汗をかく自分の体に震えながら、誠はぽつりとつぶやく。


「一色零って奴にやらされてるんだろ? じゃなきゃ凪斗がこんなことをするはずがない」

「俺の意思だよ」

「お前だって、誰かを失う悲しさとか苦しさとかは誰よりも分かってるはずだろ」


 凪斗がどんな顔をしているのか、なにを考えているのか分からず、誠は目を合わせることができなかった。

 ただ、家族がいないという気持ちだけは分かる、そう訴えるかのように誠は拳を強く握りしめた。

 しかし、凪斗から返ってきた言葉はあまりにも冷たくあっけないものだった。


「そういう言葉、まじで寒気する」


 凪斗は氷の刃の具現化を解除し、誠を貴一がいるところへ吹き飛ばすが、貴一は咄嗟の判断で風を具現化し、誠の衝撃を緩和した。

 そして、凪斗はある物をポケットから取り出す。


「まぁいいや。それよりこれ試さなきゃ」

「なんだよそれ……」

「これ? 零さんお手製、魔術がいつも以上に使えるようになるすごい薬。使うなら今だと思って」


 注射器を手元でくるくると回して遊び、そのまま凪斗は笑顔で腕に注射器を突き刺す。

 一瞬凪斗の顔が苦痛に歪むが、それを落ち着かせるようにわざと大きく息を吐く。


「何回か試作してたみたいだけど、やっぱ調整が難しいみたいだね」

「やはり守護者襲撃事件の犯人はお前か」

「零さんが魔術使う人に試してみたいって言うから、俺が代わりにやってただけ」


 これはまずい展開になる、と貴一は焦って立ちあがろうとするが、後ろにいる誠が貴一の腕を掴んで引き留めた。


「貴一、凪斗を止めたい」

「誠?」

「俺は本当はなにが正しいのか、その事件のこともよく分からない。でも一つだけ言えるのは、誰かを殺すなんてことは絶対に間違ってる」

「うっわ、薄っぺらい言葉ー」


 いつのまにか近づいていた凪斗が、いつものへらりとした笑顔を誠に向ける。


「そういうの俺一番嫌い」

「凪斗……」

「誠。うざいからお前もまとめて殺してやるよ」


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