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色彩の守護者  作者: 桜井愛明
第一章 日常編
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第25話 大団円

 その日、八尋は朝からなにも手につかなかった。

 ようやくあかりと約束していたカフェに行けるということもあったが、昨日の告白がまだ八尋の尾を引いていた。

 またどこかで告白すると昨日決めたものの、あの告白にもなっていないただの宣言のような言葉を、八尋はふとした時に思い出して恥ずかしくなっていた。

 だが、今日はようやくあかりとカフェに行けると、八尋は気持ちを切り替えて授業に臨んだ。

 結果、授業中もカフェのことで頭がいっぱいで半分聞き流していた。


「赤坂、なにかいいことあった?」

「な、なんにもないけど?」

「なんかこう、珍しく浮かれてるというか……」

「そうだよね。珍しい」


 柳や優征から言われるほどそわそわしていたのかと八尋は焦るが、それほど楽しみなのは間違いなかった。

 ようやく放課後を迎え、あかりは日直の仕事で職員室に行っているらしく、八尋は昇降口で恭平と話しながらあかりを待つ。


「バイト終わりに急に連絡きてびびったわ。どういう流れでそうなった?」

「昨日桃園さんと話して、行ける時に行こうってなって決めた」


 恭平の疑問にそう返す八尋を、恭平はまじまじと見つめる。


「なんか八尋、雰囲気変わったな」

「え?」

「いい意味でだよ」


 まさか恭平からそんなことを言われると思わず、昨日の告白のせいだろうか、と八尋が考えていると、廊下をパタパタと足音が聞こえた。


「ごめんね、お待たせ!」


 日直の仕事を終えたあかりが走ってきて、八尋たちは今日の目的であるカフェに向かった。


   * * * * *


 カフェに着くと、店内に客はいるもののそれほど混んでおらず、八尋たちはすぐに案内されて席につくことができた。

 内装は全体的にナチュラルな雰囲気でまとまっており、ところどころに飾られている観葉植物などが、居心地のよさを演出していた。

 メニューを開くと、すぐに八尋とあかりはケーキに釘付けになっていた。


「甘いものを気にせず食べられるから、どれも美味しそうで迷っちゃう!」


 そう言って、あかりは嬉しそうにメニューの中のケーキを眺める。


「やっぱり定番のショートケーキかな。でもタルトも気になる……」

「限定は桜のケーキだって。それも美味しそうだよね」


 八尋が季節のメニューを指差し、あかりは嬉しそうに頭を悩ませていた。

 それは普段のしっかりしたあかりとはまた違う、無邪気な少女らしい雰囲気で、それを見て八尋と恭平が思わず顔を綻ばせた。

 そして、八尋は定番のショートケーキとカフェオレ、恭平はフルーツタルトとカフェラテ、あかりは限定の桜のシフォンケーキと紅茶を注文し、ケーキが来るのを心待ちにしていた。


「ちょっとショーケース見てくるね」


 あかりはそう言って軽い足取りで席を立ち、入り口にあるショーケースを見に行く。

 いつになくテンションが高いあかりに、八尋は微笑ましい様子でそれを見守っていた。

 すると、その視線を見逃さなかった恭平が、頬杖をつきながら八尋を見る。


「……やっぱり、八尋と桃園さんの距離が近くなった気がする」

「気のせいだろ」

「いや、気のせいじゃない。なんか二人であったろ」


 不機嫌そうな顔で言う恭平に、八尋はまた昨日の出来事を思い出す。

 しかし、恭平に負けていられないという思いから、八尋は小さく笑いながら恭平に言う。


「これからは、恭平に遠慮しないからな」

「……なるほどな。望むところだよ」


 あかりのことを好きだと自覚した昨日から、恭平は八尋にとってのライバルになった。

 八尋がなにを言いたいのか察したらしい恭平は、ニヤリと笑って応えた。


「やっほやっほ! 今日も元気そうだねー」


 そのとき、聞き覚えのある明るい声が八尋たちに届いた。

 そこには涼香を筆頭に、生徒会の面々が店内に入ってきていた。


「先輩たち、どうしてここに!」

「この前のお疲れ様会と、かわいい後輩ちゃんたちの恋模様が気になって!」


 八尋と恭平に顔を近づけ、涼香は楽しそうに笑う。

 偶然同じタイミングで来たのか、はたまた八尋たちが来ることを知っていてこの店に来たのか。

 涼香はある意味なにを考えているのか分からないと、八尋はニッコリと笑う涼香を見て思った。

 その話を聞いていた誠も立ち止まり、からかってやろうと言わんばかりの意地悪そうな顔で笑う。


「恋バナか? 赤坂と橙野の話はぜひ聞きたいな」

「やっぴーたちは今どんな感じ? もう告白した?」

「やめろ。二人が困っているだろう」


 次第に顔が赤くなっていく八尋と恭平を見かねて、貴一が涼香と誠を引きはがし、そのまま奥のソファ席に連れて行く。

 そしてその後ろを、エリナと凌牙がスマホをいじりながら無言でついて行った。


「おい黄崎、テメェに付き合わされてんだから大人しく座れ」

「凌ちゃんったら誘えば何だかんだ来てくれて、もうっ、ツンデレなんだからっ」

「帰るぞ」


 かわいらしいカフェにそぐわぬ険悪な表情でにらむ凌牙を気にすることなく、涼香はメニューを広げる。


「あたし、チーズケーキにしようかな! ドリンクはアイスティーのセットで!」

「あたしもそれでいいや。凌牙は?」

「飲むもんだけでいい。炭酸ねぇの?」

「誠、お前は来たことあるんだろう。おすすめはあるのか?」

「フルーツタルトは外れないな。俺は頼んだことないやつ頼もうかな」


 わいわいと盛り上がる生徒会のメンバーを見て、本当に個性的な先輩たちだと、八尋はテーブルから遠巻きに眺める。

 そしてショーケースを見て一通り満足したらしいあかりが、八尋と恭平のテーブルに戻ってきた。


「先輩たちも来てたんだね。なにか話してたみたいだけど、生徒会のこととか?」

「「なんにもないです!」」


 まさにあかりのことでからかわれましたとは言えず、八尋と恭平が声を揃えて力強く返す。

 それからしばらくして、店員がケーキとセットドリンクを運んできた。

 八尋たちは写真を撮るや否や、待ちきれずに目の前にあるケーキを口に運ぶ。


「うまっ! タルトとか久しぶりに食べたわ!」

「シフォンケーキ、ほんのり桜の味がして、紅茶にとっても合うよ」


 恭平とあかりが嬉しそうにする中、八尋もショートケーキを口にする。

 生クリームはくどくなく、ほどよい固さで甘さは控えめ、そして口の中でクリームとスポンジ、いちごの絶妙な組み合わせが広がった。

 ケーキを飲み込んでカフェオレを一口飲み、八尋はふぅとその余韻を味わう。


「このショートケーキ、今までのショートケーキで上の方に来る美味しさかも」

「まじ? なら今度それ頼むわ」

「どうしよう、久しぶりに甘いもの食べるから止まらなくなっちゃう」


 あかりはシフォンケーキを味わいながら幸せそうに笑う。

 その表情が見られただけで自分たちも幸せですと、八尋と恭平は顔が綻んでいるあかりにつられて笑う。


「他にも気になってるお店があって、そっちも行ってみたいなって思ってるの……」

「じゃあ、今度はそっちに行こ!」

「うん。また三人で行こうね」


 無自覚なのか、はたまた自覚しているのか、恭平のお誘いをあかりは華麗にスルーして、またシフォンケーキを堪能する。

 恭平がしょんぼりとしながらタルトの上に乗っているフルーツを一つ食べ、八尋はそれを見て笑う。


 もしかしたら、自分たちを巻き込んで何か事件が起きるかもしれない。

 きっとそれは今回みたいに上手くいかず、今の自分には想像できないほどの困難になるかもしれない。

 しかし、恭平やあかり、エリナを始めとした生徒会のメンバー、透がいれば、どんな困難も乗り越えられるはず。

 それまで、まだ始まったばかりの高校生活と、この日常を悔いのないよう思い切り過ごそう。

 そんなことを考えながら、八尋はまたショートケーキを一口食べてカフェオレをすすった。



—第一章 日常編・完—





 ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。


 これからさらに物語は進んでいきます。

 引き続き第二章も応援していただければと思います。


 面白かった、続きが気になるという方は、気軽にレビューやブクマをしてくださると作者の励みになります。

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