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色彩の守護者  作者: 桜井愛明
第一章 日常編
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第23話 夢見草①

 月曜日の朝。

 八尋は家中を走り回って、学校に行く準備をしていた。


「なんで起こしてくれなかったの!」

「父さんは何度も起こしたぞー」


 洗面所に走りながら八尋が叫ぶと、透はリビングでタブレット端末に流れるニュースを眺めながら答えた。

 八尋はあの夜ぐっすり寝たおかげで疲れが取れたが、昨日は貴重な休みをダラダラ過ごして一日が終わり、今に至る。

 一昨日来ていた連絡はあかりからで、それに気がついた八尋が翌日の朝に慌てて返事をした。

 すると、月曜日に会うからその時に会って言うね、とそれだけ返されてしまい、せっかくあかりと連絡できたはずのタイミングを完全に逃してしまっていた。

 鏡の前で、八尋はすっかり慣れた手つきでネクタイを結び、身だしなみを整えていると、透がリビングからからかい半分の声で八尋に声をかける。


「ネクタイ結べたかー?」

「結べた!」

「朝ごはんどうする?」

「牛乳!」


 身支度を終えてリビングに戻ると、透がコップに冷えた牛乳を用意していた。

 八尋はそれを一気飲みし、かばんを持って家を飛び出す。


「行ってきます!」

「いってらっしゃい」


 八尋はマンションを出て駅に向かって走りながら、駅で待っているであろう恭平に連絡を入れる。

 恭平もスマホを見ていたのか、『走れば間に合うから待ってる』とスタンプとともにすぐ返事が返ってきた。

 まさか待ってくれると思っていなかった八尋は駅まで向かう足を早める。

 駅の改札で恭平と合流し、そのまま足を止めずに改札を抜けてホームまで駆け上がる。


「ごめん、遅くなった!」

「おはよ。寝坊なんて珍しいな」


 ちょうど来た電車に飛び乗り、八尋は電車内で息を整える。

 今日の授業はなにがあるとか、小テストがあるだとか、いつもの日常に戻った会話をしている中、恭平は思い出したように八尋に話題を振る。


「そういえば、おととい桃園さんから連絡来てたよな」

「……知らない」

「八尋にもこのあと連絡するって桃園さん言ってたけど?」

「…………寝てて気づかなかった」


 なぜあの時寝てしまったのだろうと八尋は一昨日の夜を思い出しながら、過去の自分を恨めしく思った。


「どんまい、八尋」


 恭平は八尋の肩に手を置いて言うが、その表情はどう見ても笑いをこらえきれていなかった。

 八尋は無言で恭平のすねを蹴り、くだらない小突きあいは月城学園の最寄り駅まで続いた。

 ホームルームを終えて八尋が授業の準備をしていると、柳がそわそわした様子で八尋と優征に話しかける。


「二人とも、あのニュース見たか?」

「なんのニュース?」

「テロ事件だよ! まさかこんな近くで起こると思わないだろ!」


 興奮気味に声を大きくして話す柳とは反対に、優征は落ち着いた様子で教科書を整えながら答える。


「それなら俺もネットニュースで見たよ。守護者がその事件の犯人のテロ組織を捕まえたらしいね」

「そう! やっぱ守護者ってすげぇよな」


 八尋もあの事件はあれだけ騒ぎになったから、なにかしら報道はされているだろうとテレビをチェックしていたら、一連の事件は海外グループによるテロ行為と報道されていた。

 情報管理が徹底しているのか、はたまた隠蔽されたのか、それとも守護者のイメージを守るためなのか。

 そのニュースの中で新橋や卯ノ花の名前があがることはなかった。

 そして守護者でもない学生の八尋たちはプライバシーの観点からか、学外活動で事件に関わったということも一切報道されなかった。


「赤坂、この前生徒会でなにか学外活動するって言ってなかった?」

「あ、あぁ。あれとは関係ないところだよ」


 うっかり八尋たちが事件に関わったと口を滑らせたら、そこからまた噂が広まり、聞きつけた報道がやってきてややこしいことになるのは間違いない。

 柳と優征には、自分が事件の犯人を確保したということは黙っておこうと八尋は心に決めた。


「赤坂、いるか?」


 すると、開いていた教室の前の扉から誠が顔をのぞかせた。

 ちょうど目があった八尋は椅子から立ち上がって廊下に出る。


「緑橋先輩、おはようございます」

「おはよう。悪いんだけど今日の放課後、校長室に来てほしい」

「校長室ですか?」

「生徒会全員が呼ばれてるから安心しろよ」

「わ、分かりました」


 自分以外も呼ばれているなら安心だと、八尋は誠と雑談をして教室に戻る。

 誠と話していることに気がついた何人かのクラスメイトがざわついていたが、八尋は特に気にすることなく席につく。

 当然のように先ほどの会話を再開しようとする八尋に、柳はとまどいながら八尋を見つめる。


「赤坂、やっばりお前すげーな」

「そう? 深川だって部活入ってるし、先輩と話す機会はあるだろ」

「赤坂、深川の言いたいことはそうじゃないと思うよ」


 優征には柳の言いたいことが伝わっていたが、八尋は二人の言いたいことがいまいち理解できずに首を傾げた。

 放課後、ホームルームを終えて八尋は校長室に向かった。

 そこにはまだ誠と貴一しかおらず、まもなくしてエリナと涼香と凌牙が、最後にあかりと恭平が走ってきた。


「すんません! ホームルーム長引きました!」


 生徒会に関わる全員が揃ったのを誠が確認すると、ノックをして校長室に入る。

 そこでは以前呼び出された時と同じように、校長が座ったまま八尋たちを迎えた。

 以前と違うところといえば、校長の雰囲気がピリついておらず柔らかいようなと八尋は校長を見る。


「校長、お待たせしました」

「全員来ているか?」

「はい」


 校長は並ぶ八尋たちを一瞥し、あかりの姿を見て声をかける。


「桃園くん。あれから体調はどうかな?」

「はい。元々ケガもそんなにしていないので、昨日休んですっかり元気になりました。ご心配いただきありがとうございます」

「それならよかった」


 にこやかに返すあかりに、表情は変わらずとも、校長はどこか安心した口調で答える。

 エリナにも言えることだが、表情が変わらないのはある意味いいことで、反面怖がられる要因になるなと八尋はあかりと話す校長を見て考えていた。


「集まってもらったのは他でもない。先日の事件についてだ」


 大方予想はついていたが、こうして呼び出されると何かあるのではないかと不安になりながら八尋は校長の話を聞く。


「君たちには危険な目に遭わせてしまい、大変申し訳ない。学外活動として迂闊に行かせた私に責任がある」


 校長は椅子から立ち上がり、謝罪会見のように綺麗な角度で頭を下げる。

 どうするべきかと迷う八尋たちの横で、エリナが一歩前に出る。


「校長先生が謝ることではありません。あたしは自分の実力が知れたので、いい経験になりました」


 命の危機があったことはまた別の話ですがと、エリナは八尋やあかりたちを横目で見て続ける。

 それを見て、涼香もエリナの横に並び、いつもと変わらない明るい調子で校長に投げかけた。


「守護者になったらああいうトラブルも起こると思いますし、学生のうちにできて良かったです!」

「そうか、そう前向きに捉えてもらえてくれているなら、私としてもありがたいことだ」


 校長は再び椅子に腰かける。

 恐らく二人とも本心から出た言葉だろうが、校長の行為を否定せずに丸く収めたエリナと涼香の話術に八尋は驚かされた。


「今回のことはすでに協会と話はつけてある。君たちがまだ学生であるために、学校側から名前など報道してもらわないようにお願いした。なのでプライバシーの点は安心してほしい」


 これがいわゆる大人の事情かと八尋は納得しつつ、それと同時に柳と優征にそのことを言わなくてよかったと八尋は冷や汗をかいた。


「さて、今回は各々が個性を活かして事件解決に努めたと現場にいた守護者から聞いている。それを聞いて、私は非常に誇らしいと思った。これからも月城学園の生徒として自身の異能力を磨き、勉学に励みなさい」


 柔らかい雰囲気だったのはこのためか、と校長の激励で認められた気がした八尋は喜びつつ、さらに頑張っていこうと期待を胸に気を引き締めた。

 話が終わって校長室を出ると、恭平が緊張の糸が切れたように大きなため息をついた。


「怒られるかと思った。校長ってなに考えてるか分かんないから怖かったわ」

「うむうむ。お説教じゃなくて良かったねっ」


 恭平と涼香がそんなやりとりをしている後ろで誠がなにやら考え込んでおり、それに気がついた貴一が誠に尋ねる。


「どうした?」

「案外素直に謝るんだと思って」

「お前は自分の父親をなんだと思っているんだ」


 貴一が誠に呆れていると、帽子と眼鏡をかけて変装している柊が前方から歩いてきていた。

 八尋たちに気がつくと、笑顔で手をひらひらと振る。


「お兄ちゃん!」

「先輩、ついに不法侵入ですか」

「失礼な。ちゃんと守衛さんに許可もらってるよ」


 入校許可証を見せびらかしながら、柊は貴一にぷんぷんとあざとく怒る。

 あかりも柊が来たことに驚いているところを見ると、学校に来るとは知らされていなかったのだろうと、八尋はあかりと柊を交互に見る。


「みんな生徒会室にいないし、校長室かなと思ったら当たりだったね。それより、話があるからこれから生徒会室行っていいよね?」


 有無を言わさぬ柊の笑顔に、なにを言っても聞かないだろうと、八尋たちは柊を連れて生徒会室に向かった。

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