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色彩の守護者  作者: 桜井愛明
第一章 日常編
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第10話 向上心①

 八尋のクラスは、全員朝からどこか浮き足立っていた。

 それもそのはず、今日は外部進学生にとって初めての実技授業が行われる日だった。

 一般的な学校では、異能力の理解のために守護者が特別講師として出向き、学期ごとに一、二回実技の授業を行うのみである。

 それ以外は必要最低限の基礎知識や座学のみを教わるため、月城学園のように定期的に実技の授業を行うところはほとんどない。

 それもあり、実技授業は八尋たちにとって念願の授業だった。

 休み時間にジャージに着替え、八尋は柳と優征とグラウンドに向かう。


「赤坂、お前の異能力って銃だっけ?」

「そうそう。でもまだそんなに使えないよ。深川と海老名は?」

「俺は魔術。海老名はサーベルって武器らしいよ」

「名前はかっこいいけど、簡単に言えば剣だよ」


 異能力は一人ひとり違うために、どんな異能力なのか、どれだけ扱えるかなど、誕生日や血液型などを話すように、人や場所を問わず常に盛り上がる話題の一つでもある。

 八尋たちがグラウンドに着くと、まず体力測定のために五十メートル走や筋力測定などが行われた。

 中学の時にやった体力テストみたいだなと八尋は思いつつも、それなりに運動神経がいいために、どれもそこそこいい成績を残していった。


「あれだよな、赤坂は小さいから動きやすいんだろ?」

「うるせ。サッカーやってたおかげだよ」


 柳にからかわれながらも体力測定は終了し、八尋たちは実技棟に移動した。

 入学式でエリナの模擬戦を見たトレーニングルームとは別の、二階にある体育館ほどの広さがある部屋に八尋たちは向かった。

 そこでは自由に座っていいらしく、八尋は優征と柳と後ろの方に座る。


「さて、今日から本格的に授業が始まるが、守護者を目指す者なら、実用レベルまで力がないと使いものにはならない。そこで、今日は基礎中の基礎である異能力の具現化にかかる時間と、現段階でどの程度扱えているかを見せてもらおう」


 そう話す教師――常盤(ときわ)は、体育教師にありがちな熱血という印象ではないが、体育を受け持っていると言われたら納得の風貌だ、と八尋は常盤を見て思った。

 その後ろでは、サポートであろう先生が授業に使用するものを用意しており、授業の本格さをより一層八尋たちに感じさせた。


「そしたら出席番号順にやろうか。一番は……赤坂八尋」

「はい」


 名前を呼ばれると、こういうのは大体名簿順だから仕方ない、と八尋は諦めたように立ち上がる。

 一番はこのあと同じことをやる生徒の基準になるために、一体八尋がどのレベルなのかとクラスメイトの視線が痛いくらいに八尋に突き刺さる。

 八尋はそれが嫌なほど伝わり、小さく息を飲む。


(大丈夫、落ち着いてやればできる……!)


 合図とともに八尋は意識を集中させ、頭の中で自身の武器を思い描く。

 異能力の具現化には集中力と想像力、そして魔分子を一定に送り続ける必要がある。これができないと、守護者になるスタートラインに立つことさえできない。

 八尋の体感としておおよそ五秒くらいだろうか。八尋の手元には自身の異能力である銃が一つ現れていた。

 トップバッターでそのプレッシャーを跳ね除け、八尋がすんなりと具現化できたことにクラスメイトから小さな歓声が上がる。


(よし、ちゃんと形になった)


 八尋が安堵の息をついていると、常盤から声をかけられる。


「赤坂、ちなみに撃つことはできるか?」

「はい、少しだけなら」

「試しにあの的に撃ってみてくれ。当たらなくても大丈夫だ」


 八尋の五メートルほど離れたところに簡素な(まと)があった。

 それは五十センチ四方の大きさで、距離があるために集中しなければならないと八尋は銃を握りなおす。

 ここにきてまだ一番のプレッシャーは続くのか、と八尋は思いつつも、銃を構えて狙いを定めた。


(これで外したら恥ずかしいぞ……)


 外れないで欲しいという八尋の願いが通じたのか、銃から放たれた弾は的に当たる。

 しかし、弾は的に当たった瞬間、貫通することなくそこで砕け散った。

 なぜ当たったのに貫通しないのか、と疑問に思う八尋を気にせず、常盤はまた名簿に書き込んでいく。


「なるほど。では次、海老名優征」


 釈然としない八尋は優征と入れ替わり、元いた場所に戻る。


「お疲れ、トップバッター」

「ありがと。緊張したけどな」


 柳が小声で八尋を小突く。

 優征もなんなく武器を具現化させているのを見ながら、八尋は先程起こったことを思い出していた。


(的にはちゃんと当たってたのに貫通しなかった……なんでだ?)


 その後も、クラスメイトの実力確認という名の異能力披露は続いた。

 クラスの異能力の人数比率は武器が一番多く、その次に魔術、魔法を扱う人数は最も少なく、数人しかいなかった。

 その中でも異様に異能力のコントロールが上手い者や具現化だけで終わる者、具現化ができてもコントロールができない者など、すでにクラスの中でも実力差が見え隠れしていた。

 そして、八尋の中で的を貫通しなかったという引っかかりは解消されないまま、初回の実技授業は終了した。


   * * * * *


 昼休み、八尋はいつものように恭平、あかりと食堂で昼食をとっていた。

 八尋は当初、二人と一緒にいることで周りの目を多少気にしていたが、それも慣れからか今ではほとんど気にならなくなっていた。

 あかりはかわいらしい弁当を広げ、フォークを手に取って八尋に話しかける。


「そういえば、実技の授業始まったみたいだね。赤坂くん、どうだった?」

「まだ初回だからこれからかな。でもちょっと心残りはあるかも」

「最初だとまず具現化か。あれ基礎だからよくやるけど、たまに魔力切れでぶっ倒れる奴いるんだよな」


 俺はなったことないけど、と恭平は乗っていたメンマを箸で掴んで笑い、聞いたことない言葉に八尋は焦る。


「橙野くん、びっくりさせちゃダメだよ。魔力切れっていうのは魔力不足で起こる一時的な症状のことだよ」

「貧血みたいな感じってこと?」

「うん。一気に異能力を使ったり、キャパシティを超えて使い続けたりしたら起こりやすいかな。普通に使ってたら起こらないから安心してね」


 それを聞き、八尋は異能力の使い過ぎに気をつけようと考えながら、持参した弁当の野菜を口に入れる。

 しかし、それを飲み込んで卵焼きを口に入れると、次第に今日の実技授業のことがまた八尋の頭の中に浮かんできた。


「……なんかスッキリしないな」

「ん、なんかあった?」


 恭平に聞かれ、八尋は実技授業で起こったことを二人に説明する。

 ひと通り話を聞いた恭平は、ラーメンをすすって笑う。


「初回だからそんな気にすんなって。また次やるときにリベンジすればいいだろ」

「そうだけど、ちょっとでも原因が分かればいいなって思ったんだよ」


 授業を受けていればいつか分かるだろうか、と八尋が頭を悩ませていると、あかりがフォークを置く。


「そしたら、放課後トレーニングルームで復習する? まだ空いてたら先生に言えば使えるよ」

「え、いいの?」

「うん。私でよければ教えられることもあると思って。せっかくだしどうかな?」


 学年主席であるあかりに誘われて断る理由はなく、八尋は元気よく返事をする。

 しかし、そんな二人きりになる状況を目の前で聞いていた恭平が許すわけもなく、結局三人でトレーニングルームに行くことになった。

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