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赤毛のアンナ 極光の巫女  作者: 桐乃 藍
第1章
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友愛の加護〜ゆうあいのかご〜

「俺にもなにかさせてくれ!!」

 成瀬(なるせ)ユウキはアンナの王室に来ていた。


「ユウキどうしたの、急に?

ユウキは客人なんだから、城内でゆっくりしてていいのよ?」

 アンナが、困ったような顔で尋ねる。


 ユウキが元の世界(セインツ)から異世界(ルイン)に移動してから5日が過ぎた。

 ユウキはアンナの城で客人として迎え入れられ、丁重に扱われていたが暇を持て余していたのだ。


「エリーナやディアナから聞いたぞ。城内の人間は、他の国との交渉や軍の強化の為の準備で忙しいって。

丁重に扱われることは嬉しいけど、アンナやアンナを慕ってくれるエリーナやディアナの役に立ちたいんだ。なんでもいい、俺にできることならなんでもいいからさせてくれ!

このまま、なにもしないでダラダラ毎日暮らすのは耐えられないんだ……」

「私がこの世界に連れてきちゃったんだし、ユウキは気にすることないのよ?」

「俺がお前についてきたんだ! 俺の意思で! お前がなにも仕事をくれないなら勝手になにかするぞ?」

 ユウキがアンナを脅す。


「……わかったわ。

勝手に危険な場所に行かれても困るし、エリーナに仕事を割り振ってもらうわ。

彼女には話を通しておくから昼過ぎに彼女の自室に行って話してみて」

 アンナが仕方ないと微笑んだ。


「ありがとう、アンナ!」

 ユウキは微笑み返し、アンナの王室を出た。




 ユウキは昼過ぎに早速エリーナの自室に来ていた。


「全く、ルナを困らせるな。私も暇ではないんだぞ……。

特にルナは、こちらに戻ってきてすぐに王座に着き、各国との戦争における緊張状態の中、対応に追われているのだぞ!」

 キツイ目つきでユウキを睨むエリーナ。

 それを見て、一歩後ろに下がるユウキ。


「まあ、ルナの為に働こうとする心意気は良しとしよう。

早速、本題だ。

ちょうど薬草が切れかけていたからな。貴様にはお使いを頼もうと思う。少々危険な場所だが、ディアナを護衛につけるから問題なかろう」


「女の子1人が護衛で大丈夫なのかよ?」

 ユウキが尋ねる。


「ディアナは私と並んでこの国、最強の武人だぞ。魔力においては私が上だが、槍や剣を使った戦闘では右に出る者がいないほどだ」


「あの可愛いすらっとした子がそんな化け物じみた強さなのかよ!? そりゃ、心強いぜ」

「まあ、武においては文句のつけどころがないのだがな……」

 含みのある言い方をエリーナがしたところで、部屋のドアの外からノックの音が聞こえた。


 コンコン……!


「エリーナ様、ディアナです」

「入ってくれ」

 エリーナが声をかけると、獣人族のディアナが部屋に入ってきた。


「先刻話した通り、コンソラ草の在庫があとひと月で切れそうなんだ。悪いがコンソラ草をユウキと取ってきてほしい。

ディアナが護衛をし、この男の安全を守ってほしい。ルナからの頼みだ」


「わかりました」

 エリーナの言葉を聞くと、ディアナが頭を下げて了解した。



   ◇ ◇ ◇



 ユウキとディアナは、装備とアイテムの準備を整えて、マレイク大森林と呼ばれる森に来ていた。マレイク大森林は、アンナの城を南に出て、ユウキとアンナが先日、異世界(ルイン)に飛ばされた時に倒れていた洞窟を抜けた場所にあった。


「なあ、どうやって大量の薬草を持ち帰るんだ?」

 ユウキが、ディアナに尋ねる。


「コンソラ草だ。

擦り傷や切り傷によく効く薬草で、この世界で重宝されている。この森の川辺でよく採れるのだ。

コンソラ草の運搬について、この紙を使う」

 ディアナは文字が書かれた紙切れをユウキに見せた。


「なんだ、この紙切れ?」

「これは、エリーナ様が作られたテレポート用の呪文を封じ込めたお札で、これを貼った場所から、30秒後に直径20メートルのアイテムと生き物を特定の場所へテレポートすることができるのだ。

今回ならば城内の薬草を保管している倉庫だな」

 ディアナが応える。


「へ~、便利なもんだなあ。

ディアナは呪文は使えないのか?」

「私は簡易的な回復魔法は使えるが、それ以外は苦手だな。

エリーナ様は基本的にほとんどの上位魔法が使える。さらに、このお札と同様のテレポート魔法を好きな時に発動させれたり、強力な睡眠魔法、千里眼のような固有スキルも備わっておられる」


「なるほど、先日、俺を見つけた時は、その固有スキルってやつの千里眼とテレポートを使ったんだな。

背後に急にエリーナが現れた理由がやっとわかったぜ」


「それにしても……」

 ディアナは白い瞳でこちらをじっと見た。


「なんだよ……」

 ユウキが後ずさりして尋ねる。


「ルナ様との謁見の間でも会ったが、何度見ても驚くものだな。

片翼の女神(かたよくのめがみ)と同じ黒い髪、黒い瞳の人間がいるというのは……」

「あ、そういえばエリーナや下級兵のガーゴイルも言ってたな。

城内で誰かに会う度に気味の悪いものでも見るような目つきで見られるし……。

片翼の女神(かたよくのめがみ)っていう奴がこの世界の創造主だとは聞いたが、そいつと何か関係あるのか?」

 ユウキが思い出したように尋ねた。


「……本当に、ユウキはルナ様と異世界から来たようだな。皆が気味が悪いと思うのも仕方あるまい。

この世界の創造主、片翼の女神(かたよくのめがみ)の姿はお前と同じ黒髪の黒い瞳なのだ」


「それのどこが気味悪いってんだ? そんな奴いくらでもいるだろ?」

 ユウキが不思議そうに尋ねる。


「……なるほど、信じがたいがユウキの世界ではそういう人間が多く存在するのだな……。

……この世界、異世界(ルイン)では片翼の女神(かたよくのめがみ)以外、黒い髪色で黒い瞳の人間も種族も存在しないのだ。基本的に人間は茶髪か、金髪のものが多い。

だからお前が異世界から来たと知らぬものがお前を見たときに、多くのものが片翼の女神(かたよくのめがみ)に呪われたものか、片翼の女神(かたよくのめがみ)の使者かなにかだと思い違いをしてしまうのだ」

「それは、酷い話だな……」

「あと、ユウキは剣は扱えるか?

一応、この辺はルナ様の魔王の影響を受けないモンスターもいるからな。戦闘になった場合、基本的に私が対処するが、万が一自分の身はある程度守れるか確認しておきたい」

「いや、格好だけでもと剣をぶら下げては来てるけど、昨日、ルナに少し教えてもらった程度だな。基本的にやばくなったら逃げるように言われたよ」

「それがいい。約束だ。危なくなったら、逃げてくれ!」

「ディアナは物知りだし 、めちゃくちゃ強いんだってな。エリーナが言っていたぞ」

「そうでもない、世の中には上には上がいる。

それに元々、私は獣人族の中でもスピードには自信があったが、力が弱くてな。

この国では真ん中くらいの実力だった。

私がここまで強くなれたのはルナ様の友愛の加護(ゆうあいのかご)があるからだ」

「ゆうあいのかご?」

「魔王となるものには、特別信頼したものだけに真名を教え、友愛の加護(ゆうあいのかご)と呼ばれる特別な力を付与することができる。

私は幼い頃にルナ様から友愛の加護(ゆうあいのかご)を授かり、ここまでの力を手にすることが出来ているのだ」

「へぇ~、その友愛の加護(ゆうあいのかご)ってのはそんなに凄えんだな……。

……ところで、ディアナ。

この森に入って何度も地図を見ながら似たようなところをグルグルしてるけど、本当にこっちであってんのか……?」


 それを聞いたディアナの顔が真っ赤になり、地図を見返し始めた。

「だ、大丈夫だ! 迷ってしまうような大きな森だが何度かここには来てるし、ちゃんと地図を持ってきた!」

「……さっきから思ってたんだが、その地図、上下逆じゃないか?」


 それを聞いて猫耳の先まで赤くするディアナ。

「わ、わかっていた! 今、ちゃんと確認しようとしていたところだ……!」


(エリーナが彼女の自室で「武においては文句のつけどころがないのだが……」と含みのある言い方をした理由がわかった)と思い、ユウキはうな垂れた。




 ユウキとディアナが目的地に着いたのは夕暮れ時だった。


「なんとか、お! れ! の! 案内で暗くなる前に目的地に着いたな。地図があって助かったぜ」

 わざとらしくユウキがディアナをイジる。


「そう、何度もイジることはないだろ!

道中、何度も何度も……。

……ユウキは謁見の間でのルナ様に対してもそうだったが、結構ドSなのだな……」

 いやらしい物でも見るようにユウキを見るディアナ。


「あれは、真名(まな)の意味を知らなかったって説明しただろが!」


 わざと後ずさってディアナが呟く。

「この変態!」

「イジり過ぎたことは謝るから、その変態扱いはやめろ!」


 2人が雑談をしている時だった。

 コンソラ草の生えている開けた場所の奥側の森の茂みから、ゴーレムと小型のドラゴンが姿を現した。


「ユウキぃ!! 私の後ろに!!

ルナ様の影響を受けていないモンスターだ!!」

 ディアナは焦った。

(最強クラスのモンスター、ビックゴーレムが5体と、サンドドラゴンが10対! 数が多すぎる!

なぜだ!? この辺は比較的安全な場所なのに、あり得ない!!)


「ユウキ、数が多すぎる! 私が引きつけているうちに逃げてくれ!」

「それなら札を使って城内に逃げよう! 2人とも一旦退却できる!」

 ユウキが提案する。


「いや、駄目だ! あれはお前には使い方がわからないし、私が使うにしても目を閉じて瞑想するのに時間がかかってしまう! その間に全滅してしまう!

元来た道を走ればモンスターには遭遇しないはずだから援軍を呼んできてくれ!」

 話し終えると同時にディアナが襲いかかってきたモンスターの群れに飛び込んでいった。


「それじゃあ、お前が助からないだろ!?」

 ディアナの背に向けてユウキが叫ぶ。


 槍を振り回しながら、ディアナが叫ぶ。

「持ち堪えてみせる! 私にはルナ様の友愛の加護(ゆうあいのかご)がある! ルナ様から、お前の無事を頼まれた。頼む! 無事に逃げ延びてくれ!! ……約束だろ?」


 ディアナはサンドドラゴン2体とゴーレム1体を倒したが戦況は厳しそうだった。

 それでも必死に戦う彼女の頼みの叫びを聞いて、ユウキは苦しそうな表情で元来た道の方へ消えていった。


「……それでいい」

 ディアナが肩で息をしながら、呟いた。




 ユウキがコンソラ草の広間から立ち去って15分程度が経過した頃、ディアナを襲っているモンスターはビックゴーレムが2体、サンドドラゴンは3体まで減っていた。

 友愛の加護(ゆうあいのかご)を授かり王国一の武人と呼ばれるディアナは鬼神の如く戦い、常人が100人束になってやっと1匹倒せるかどうかと言われる最強クラスのモンスター達と渡り合っていた。

 しかし、ディアナの体力の消耗も激しく、装備していた鎧もボロボロとなり、厳しい状況となっていた。


「はぁ、はぁ……、ユウキは無事逃げてくれたみたいだな……。

……最後までルナ様とエリーナ様の力になれないのは悔しいが、ここまでのようだ……」

 ディアナが目を閉じ、構えていた槍を下ろし、サンドドラゴンの1体がディアナに襲いかかった瞬間だった。


 ドシュッ!!!!

「諦めるな!!」


 ディアナが目を開けると、目の前にサンドドラゴンを倒したユウキが立っていた。


「お前……! 今、どうやってサンドドラゴンを!! いや、それよりなんで戻ってきた!?」


 ユウキはディアナに背を向けたまま応えた。

「逃げてる最中に思いついたんだ!

ルナから小さい頃に真名(まな)を教えてもらってる俺は、小さい頃からいつもあいつと一緒だった。だから特別に信頼してもらえてるはずだって……!

異世界(ルイン)に着いてからも元の世界(セインツ)にいた時より身体的に軽い感覚があった! それで、近くの巨大な岩を剣で試しに切ってみたんだ。そしたら……」

 ユウキがディアナを振り返って微笑む。


ディアナが信じられないという表情で呟く。

「まさか……、お前…………!」


「ああ! 岩が粉々に吹っ飛んだんだよ! 俺にも友愛の加護(ゆうあいのかご)が使えるみたいだ!」

 更にもう一体のビックゴーレム1体を一振りで倒すユウキ。


「ここに戻ってくるのに時間がかかったけど、間に合って良かった! なんとかなるかもしれない! 休んでいてくれ」

 ユウキが不恰好にも剣を構え直した。


 ディアナは驚愕していた。

(本当に友愛の加護(ゆうあいのかご)を使えていたとしても、加護の覚醒から使用方法を体得するまでには最速でも1年はかかるはずなのにどうなっているのだ!?

それに……サンドドラゴンだけでなくビックゴーレムを一振りで倒すなんて私にも無理な話だ。攻撃力だけは間違いなく私を超えている!!)


 ビックゴーレム1体とサンドドラゴン2体は、一振りで仲間を倒されたことを脅威に思い、ユウキを囲むように陣形を変えた。

 これを見て戦い慣れていないユウキが焦り、モンスター達がユウキに飛びかかった時だった。


 ユウキは元の世界(セインツ)から異世界(ルイン)に移動した時に感じた時が圧縮して止まったような感覚を感じた後、高音の笛のような耳鳴りを聞いた。

 その瞬間、ユウキは少し先の未来がスローモーションのように見えた。


【前方のビックゴーレムが振り下ろした腕の攻撃を後ろに躱したユウキだったが、背後から襲ってきたサンドドラゴン2匹の尻尾と爪の攻撃を躱すことが出来ずダウンする】


 耳鳴りが止み、元の時間軸に戻ったユウキの目の前からビックゴーレムが襲う。

 ユウキは右上から振り下ろされるビックゴーレムの腕を右前方に身体をひねりながら躱し、すれ違い様にビックゴーレムの脇腹に太刀筋を入れた。

 後方から襲おうとしていたサンドドラゴンの攻撃は空振りに終わり、前方から倒れてきたビックゴーレムがサンドドラゴンに覆い被さるように倒れた。

 身動きを取れなくなったサンドドラゴン2体にユウキが追撃を加え、戦いに決着をつけた。


 ユウキの常人を超えた動きを目の当たりにして、ディアナは口を開いた。


「し……! 信じられない…………!!」

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