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第2話

 イフの監獄には2つの顔がある。犯罪者を拘禁する施設、他国からの侵攻を監視する軍事施設としての役割。

 だがイフの監獄にはもう一つ隠された顔があった。監獄にある唯一の墓。そこに隠された通路の先にあるものを隠すために存在しているのだ。


 静寂の中、長い螺旋状の石階段を下っていく。石を蹴る音が反響せず、ずっと単調で代わり映えのしない景色と、腹の底から冷える感触にさらされ続け、尋問官たちは恐怖を憶えていた。頼るべき明かりは、先頭を行く兵士が持つ松明の灯が一つだけだ。一応にと予備で松明を二つほど持ってきたのだが、思った以上に深いらしく、持ってきた松明二つを使い切ってしまった。


 焦りから、階段を下りる足取りが早くなる。

 もし炎が燃え尽きたら、足元の感触と壁を伝って進むしかなくなる。それ以前に、光源がなくなった後、いつたどり着くのかわからない場所に暗闇の中、長時間進むのは頭がおかしくなると目に見えている。


 何度かこの螺旋階段を使用しているが、このようなことに陥ったのは初めてだ。ここがどのような場所なのか、あらかじめ説明を受けている。その時から覚悟はできていた。だが実際に経験して見ると、想像を絶するほど精神を削られる。

 果たしてたどり着くまでに正気を保てるのだろうか。

 

「あれかな。やっぱりここにくる途中に黒猫なんか見ちまったのが原因かな・・・」

「まだそんな・・・いや、おそらくそうだろうな。こんなことになったんだから、さすがに信じざるおえない」

「猫焼きで徹底的に猫は排除したからな。しかもこの島にはもともと猫はいない。補給船や移送船も寄港する時には異物がないか綿密に調べるからな。ネズミ一匹の侵入も許さないからな」

「おいお前。そこ、どう思うよ」


 尋問官が男に話を振った。そのことに男は予想もしなかったらしく、呆気にとられた。以外ではあったが、彼らの今の境遇を考えれば当然だと思った。訳の分からない状況に陥った中、少しでも納得できるような考えに縋りたいのだろう。そのためだったら、犯罪者からも言葉をもらうのに躊躇わない。


「黒猫は幸運の証だよ。猫は不思議な魔力を持っていて、その力は邪気を払うという。その猫が現れたというのは、きっと危険を感じ取ってお前たちを守ろうとしてくれたんじゃないかな」

「・・・そうなのか?」


 現に聖神教の奴らは猫の灰から魔力を抽出して、デスペラードを殺すのに使っているからな。という言葉はさすがに飲み込んだ。

 彼らはこの場所がどういうところか知っているようだが、本質は知らないらしい。彼らの上司は、宇宙の向こう、混沌の彼方の存在と積極的に関わらせようとしていないようだ。

 なら自分の口から言う必要もない。が、


「っーー!?」

 

 唐突に一つの違和感を感じた。とっさに足を止めたので、尋問官たちも身構える。

 首筋を風が撫でたような感触があった。間違いなくそれは、後続の尋問官のものではない。後ろに誰かいるのか。

 しかし一体。誰なのだろうか。


「どうした?」


 しかし何もない。五感を研ぎ澄ませると、耳元にひゅうひゅうと音が聞こえた。前を歩く尋問官の松明を見ると、かすかに炎が揺れている。

 風が吹き始めた。それもカラッとした、とても爽やかな風だ。尋問官たちも感じ取った。彼らは当初この変化に当惑した。今度は何が起こるのか。この先にある非現実的な光景と、不可解な体験から身構えるのは無理もないことだった。


 静寂が空間を支配し、何も起こらず時間だけが過ぎていく。

 尋問官たちはいぶかしんだが、これ以上何もせずにはいられないと思い前に進むことにした。

 再び石階段を下っていく。今度こそはっきりと変化を感じ取った。石を踏む音が聞こえる。それだけで、元に戻ったのだと尋問官たちは理解した。彼らの足取りが一歩進むごとに早くなる。男も何度かつまずきそうになるが、歩調を合わせる。


 そして、彼らの目に光を捉えたところで、視界が白に染まった。

 踏み出す先に階段があるのか、慎重に足を踏み出す。柔らかいのか固いのか、よくわからない感触を確かめてようやくここが終点だと実感した。

 

 相変わらず視界は真っ白だが、強い光で目を焼かれているのではない。この空間は本当にどこまでも白いのだ。

 空間の奥行きを感じることができないほどの白。一度尋問官たちが果てはどこにあるのか確認しようとしたが、どこまでも歩いても壁に当たることがなかった。唯一の出口と言える場所に人が立っていなかったら、迷い生涯をここで終えることになったほどだ。

 

 後続の同僚に一瞥を投げる。それだけで、ある種の緊張感が尋問官たちから抜けていった。

 ある程度落ち着いたところで、尋問官たちの目に奇妙なものが写り込み、驚愕で顔を塗り固めた。


「お前たち遅かったな。・・・何かあったのか?」


 そこには監獄副署長アニエスがいた。その側には以前来た時にはなかった、禍々しい模様が彫り込まれた門と、ボロボロの外套を着た誰かが立っていた。

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