プロローグ
増毛壮一。俺の名前だ。今現在――――
異世界に来ている。
しかも―――――
無双している。
ヒゲで。
ヒゲで。
ヒゲで!
何故ヒゲで無双ができるのかって?なんと俺のヒゲは、すぐ伸びるしやたら固いし七色だし、自在に操ることができて触角のような機能を持っているのだ。
良く分からない?大丈夫、自分も何を言っているのか良く分かってない。簡潔にヒゲの機能をまとめようとするとこうなるというだけで、実際この通りなんだが、うーむむ、何度試しても説明しようとすると訳が分からなくなる。
ほかの言い方はないのだろうか?
できるだけ簡潔に、短くまとめると・・・
「なんかすごいヒゲを持っている。」
この一文を読んで、立派な髭というか伊藤博文やリンカーンのようなふさふさの髭を想像しただろう。
その髭ではない、ヒゲなのだ。
どう違うかが一番肝心なんだけれどどうあがいてもその髭じゃないんだとしか言いようがない。漢字で表した時に髭と書くならば口ひげ、髯と書くならば頬ひげ、鬚と書くならばあごひげというような違いがあるのだがこんな雑学はおそらく論点がずれているとしか言いようがない、所謂「一般的なヒゲ」を比較対象に持ってこよう。
一般的なヒゲの密度が1㎠にに約120本。俺のヒゲは1㎠に約150本、ここだけならはまだ差がほとんどない。
普通のヒゲの成長速度が1日当たり0.2mmから0.4mmに対し、最大2-4m毎分、最小2-4mm/day、通常の10倍から任意で1440000倍までという驚異的なスピードで伸びる。はいこの時点ですでに人間離れしてきた。
続けて色、基本的に髪の毛と同じメラニン色素によって黒ないしメラニン欠乏による白色が普通なのだろう。だが、この髭は七色に変化する。赤から黄色、緑、青と変化させながら伸ばせば地毛が虹色っていうシュールな絵面になる。これで大道芸人やってた頃もあったなぁ、懐かしい。
ほかにも太さ・硬さなんかも調整できて・・・無数の毛を編み込むようにはやして、「自在に操ることができる」ので高速で敵に向かって射出すれば・・・ほらこの通り、武器としても十全だ。髭の成分はサイの角と同じケラチンというたんぱく質で、その気にならばサイの突進くらいのパワーが出せる。代償として膨大なカロリーを消費するけど。
無から有は作れない、質量保存の法則。E=mc²、いいね?
お陰で脂肪が消えて中肉中背から細マッチョになりました、まる
閑話休題
要するに。名状しがたいナニカを、無理やり定義しようとするときに最適な表現がヒゲというだけである。
おおよそ一般的な髭とは大きく逸脱しているのが明らかなソレは。今しがた、無数の魔物を一撃で葬り去った。
サイの角に近い形状の槍の形をとっているが、根本はしっかりと俺のあごにくっ付いて居る。よくよく見ると、ところどころに関節のような機構が見え隠れし、自在にうねり、蠢き、大きくS字型に曲がったかと思いきや一瞬で蛇の跳躍に近いモーションで伸びて、ゴブリンの腹を突き刺し、食い破った。
人間のものより黒く澱んだ色の血液が噴出し、臓器の欠損と大量出血でゴブリンは事切れた。
一方、ヒゲのほうには返り血すらついていない、よくよくゴブリンの亡骸を観察すると大量の血に交じって毛の塊が見つかるだろう。これは、ヒゲ角の最外層だけが抜け毛となって分離した生成物だ。
そして、今の見た目は力を抜いているのでやたらと長い顎鬚という感じに収まっているが、いかんせん長さが異常だ。3.34。なんでや阪神関係ないやろ!ついでに普通だろって言われそうなので
なぜ単位がメートルなんだ。って。普通の髭だったらセンチかミリだろう。いや、このヒゲに普通を求めるほうが間違っていたのか。戦闘中に全力で伸ばして、総戦闘時間が2分弱だから伸び率かける時間で考えるとなにもおかしくない。そもそも伸び率が異常だということについてはあえて触れない。
そんなことを考えながら、地面に接触したヒゲの形態を変化させて、無数の棘が生えた板状の形状にした。これらの棘を別個に振動させることで、「ヒゲによる走行」を実現した。これは一本の髭にとっては小さな一歩だがヒゲにとっては大きな跳躍だ。石や岩程度なら蹴散らして、起伏や傾斜も何のその。攻防一体となったこれはまさに動く要塞、俺のヒゲはどこに向かうのだろうか?
こっちについてはもう慣れた。自在に動かすことができるので、カタツムリの足に近い動きをさせれば余裕で移動ができる。ただ、カロリーは消費するのでくそ腹が減るのとおかげで余分な脂肪が抜けて理想的な細マッチョになったのはよかったのだろう。
わりかし快適なのがこの上なく腹立たしい。振動はほぼゼロで移動速度は時速24㎞、最大積載量500㎏の超ハイスペックと高燃費、どこに文句をつけられようか―――と言いたいところですが文句なら結構ある。
まず見た目。移動方式が原因でウゴウゴしながら土煙あげて驀進している。
ぶっちゃけキモイ。
毛虫とかナメクジとかそういう系列に通じる生理的嫌悪感がこみあげてくるようだ。
何よりこれヒゲなんだよ。自分の体の一部なのに理解が及ばない存在と化してしまっているのが恐ろしい。一番恐ろしいのはこの状況で1年過ごす間にだいぶ慣れてきてしまった自分自身だ。
「ヒゲの使い手!今日も黒き魔の毛を操ってきたのか?」
そうそう、こいつは俺と行動を共にしている、クラスメート。俺の友人である。クラスメートとはどういうことかについては、まだ俺たちが世間一般には学生といわれる年齢だからだ。
老けて見えるといわれがちだが、間違いなく髭が原因で今は一応高校一年生・・いや、異世界で1年過ごしているから2年生なのか?いや、学校に行ってないから留年して1年生ということになるのだろうか?出席日数不足で単位は1つも取れてないけれど出席不可能な状況だから公欠扱いにしてくれたとしても、ダメだな。追試不可避だ。
そうそう、クラスメートで俺の友人の女子、彼女の名前は赤城煌、自称朱き綺羅々。察してくれた方は多いと思うが彼女は厨二病だ。カッコつけようとしているが、一周回ってただかわいいだけになってしまっている。ぼんやりしていると無意識にプロポーズしそうになるレベル。
因みにバルバbarbaはラテン語で髭を表している。彼女はこう見えても博識で、眼帯をつけてメッシュの入ったウィッグをつけているがすっぴんではたいそうな美人さん。嫁に欲しい。はっ俺はいったい何を!?
だって料理もできるし見た目いいし趣味合うしヒゲ見ても引かないし、コレで惚れないわけがない。が、いかんせん俺はチキンでヘタレだ。俺から告白なんでできるわけないので、当分の間は現状維持だろう。というか俺が惚れっぽいというかヒゲ見ても引かない人だったらたいていオッケーという脇の甘さ、誰だよこのチョロい奴。俺だよ畜生、無双してる過程でほかにも何人か落としちゃったっぽいんでマジでどうしようか困ってます。
「またなんか考え事?もしや外宇宙からのテレパシーを」
「ないから」
中二病モードの煌には塩対応が一番。なんやかんや言って、俺はこの日常を甚く気に入っている。
スキル
ヒゲLv5⁻
-伸縮+++
-硬化+++
-変化⁷⁺
-操作⁴+
-増毛⁻
派生:触角Lv3
気温気圧検知
毛配察知
遠隔操作