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精霊ジョーイ

「さっき、ジョーイが言ってた姓は今さっきつけたってどういうこと?」

アトアスは目先のことが気になる性格だった。複数の精霊と契約したということはどういうことなのか、など尋ねるべきことは沢山あった。しかし、アトアスは記憶力が弱い。先程の問題がちらついては本題に入ることが出来ない少々面倒な性格だった。

そんなアトアスの問いにジョーイは何だそんなことか、と言わんばかりに拍子抜けした様子だったが答えた。

「精霊はね、最初から名前を持っている訳じゃないんだよ。ほら、君だって名前を持って生まれた訳じゃないだろう?生まれてから名前をつける。僕ら精霊もそう、でも人間と違うのは誰かがつけてくれる訳じゃないんだ。大体自分でつけるものなんだ。」

「え?ジョーイを産んだ精霊がいるんじゃないのか?若しくはジョーイを育てた精霊が…」

 アトアスには親はいない。しかし育ててくれた人はいる。アトアスという名前も長老がつけてくれたのだ。アトアスには当然の疑問だった。

「精霊は生まれる、というか増えるものなんだ。」

「増える?」

アトアスの眉間にしわが寄る。

「分裂するんだ。」

「分裂する!?」

 思わずアトアスはオウム返しした。どういうことかまったくアトアスには理解出来なかった。姓について聞いただけでこんなに頭がこんがらがるとは…

「綿を二つに引き裂くように、パンを二つにちぎるように増えるんだ。分かれた精霊たちはすぐ一人で生きていく。子どもや大人の区別も、男女の区別もないよ。」

 というジョーイの言葉がアトアスにはにわかには信じられなかった。というのも

「ジョーイは俺より年上に見えるし、男のように見えるけど?」

ジョーイの見た目がさっきの発言と合っていないとアトアスは思った。

「あぁ、それはね」

 ジョーイはそう言うやアトアスが危うく腰を抜かしかけるほどの光景を見せた。


 簡単に言えばジョーイは姿を変えたのだ。その姿は老人であったり、生後間もない赤子であったり、アトアスと同い年くらいの少女であったりした。それは数十秒という短い間ではあったが、アトアスはこの数十秒のことを一生忘れないであろうというほど衝撃だった。

 最終的に先程の若い男の姿に戻ったジョーイは短く息を吐いてアトアスと向き合った。

「精霊に年齢や性別という概念がない、いや人間とは違った概念なのかなぁ…男にも女にもなれるし、赤ん坊や老人にもなれる。何でもあって、何でもないのが精霊なのさ。」

 アトアスの脳内の容量には追いつかない話ばかりされて、アトアスは虚無のような気持ちになってきた。

「あ、なんで今さっき姓をつけたかの答えをしていなかったね。自分でジョーイという名前を随分前につけたんだけど、姓は特に決めてなくてさっきつけたんだ。由来は…あるけど、君がこれ以上混乱するといけないから今は言わないよ。…にしても君は表情がコロコロ変わって面白いなぁ!」

 そう言ってジョーイは笑った。情報過多の話をされた挙句、笑われたアトアスは憤慨した。

『なんて無遠慮な奴なんだ!』

そうアトアスが思うと「そうだようなぁ」「アイツはそういうとこあるよな」と精霊達の同意の声が聞こえてきて、少し気持ちが落ち着いた。


「…さっき貰った人形、今ジョーイが入ってる?人形についてなんだけど…」

 これ以上同じ話題を続けたくなかったアトアスは話を変えた。

「あぁ、君がさっき一針縫った人形だよな。」

「うん。それに一針…俺の髪の毛使う理由とか、何で人形にジョーイが(はい)れたのとか…」

アトアスは人形についての疑問を並べた。アトアスは途中で詰まったり、言葉が出ない代わりに見ぶり手ぶりをしたり、少々時間をかけて質問した。その様子を面白そうに眺めながらもちゃんと話を聞いていたジョーイは、アトアスが質問し終えたところを確認した後で答え始めた。

「髪の毛を使う理由ね、精霊が人間と契約するまでは実体を持っていないのは知ってる?」

ジョーイは今度は一方的に話すのではなく、アトアスに確認しながら話し始めた。アトアスは頷く。その様子を見てジョーイは話を続けた。

「契約出来る人間は限られている、のも知ってるよね。契約出来ると精霊はその人間の体を借りて使えるんだ。使えるっていっても、人間の許可なしには使わないよ、その為の契約だけど。例えるなら、人間という家を精霊が契約して借りてるんだ。」

ジョーイの話をうんうんと頷きながらアトアスは聞いている。

「で、その人間という家に住んでいる訳だけど、人形は別荘というか…別の家みたいなものなんだ。」

「え?家が二つあるってこと?」

ジョーイがアトアスを確認しながら話すようになったことで、アトアスは質問しやすくなった。

「まぁ、そんなところだね。」

「おかしくない?それだったら…えーと…」

上手いこと言葉が出てこないアトアスに対して、「最初から人形に住めばいいってこと?」と精霊の声がした。

「そう!最初から人形に住めばいいんじゃないの?」

傍から見れば一人で勝手に合点したアトアスであったが、ジョーイはきっと他の精霊の話に同意したのであろうと考え、特に驚いた様子もせずに答えた。

「そう出来たら良いんだけど、あくまでも人間と契約した精霊しか住めないんだ。しかも、ただの人形では駄目で、君が言ったように契約者の髪の毛で一針縫わなきゃいけない…このことを聞きたいんだよね?」

とジョーイはアトアスに聞いた。アトアスは頷く。

「人形に契約者の一部がないと住めないんだ。」

そのジョーイの言葉にアトアスは思わずハッと息を飲んだ。

「物騒な言い方をしてしまったけど、その為の髪の毛だったんだ。髪の毛なら沢山あるし、自然に抜けるものなら痛くない。何より人形に縫いつけやすいから。」

その言葉にアトアスは安堵した。

「何で十本いるんだ?」

「契約者の一部が沢山あるほど、長い間人形に住めるんだ。十本なら二時間、といったところかなぁ。別に十本と決まっている訳じゃないけど、無理のない本数で十本って言われてるんじゃないかなぁ。」

「じゃあ、短い間でいいんだったらもっと少ない本数で構わないってこと?」

「そう。」

「長い間だったらもっと本数増やすってこと?」

「うん、君は賢いなぁ!」

そうジョーイに褒められたアトアスは、賢いと褒められ慣れていなかったようで「そうかな!?」と言いご満悦のようだった。ジョーイはその様子を笑いながら見ていた。他の精霊たちは「のせられてる…」などと囁いていたが、幸か不幸かアトアスには聞こえなかった。

「こうやって精霊は人形に住むことは出来るけど、あまり住みたくはないんだ。」

「どうして?」

「契約者の体の方が力を発揮出来るからなんだ。」

そこまで聞いてアトアスはジョーイの重要なことを知らないことに気づいた。

「そういえばジョーイは何の精霊なの?精霊って持ってる力に種類があるんでしょ?」



この部分を何の疑問もなく読んでいたA.Sであったが、後に友人が

「アトアス中々ヤバいよな、契約内容をよく理解せずに契約してるの危ない。悪徳業者だったらどうすんだろうね。」

 と言っていたのを聞いて、自分も悪徳業者に騙されないように気をつけようと思ったA.Sだった。



「まだ言ってなかったっけ、そうか。僕は水の精霊だよ。」

ジョーイはそう言うと自分の右手を銃のような形にしてアトアスに向けるやいなや、アトアスが叫んだ。

「ちょ、つめてぇ!なにすんだ!」

ジョーイは右手の人差し指の先から水鉄砲のように水をアトアスの顔にかけたのだ。慌てて顔をシャツで拭くアトアスの様子をジョーイは笑っている。見た目こそアトアスより年上だが、精神年齢というものはジョーイの方が幼いようだった。

「ごめん、でもちょっとしかかけてないし涼しいだろ?」

一応は謝ってはいるものの、ふざけているようなジョーイにアトアスは怒りかけた。しかし

「こんな威力しかないんだ、人形の体だと。君は言葉より実践の方が分かるんじゃないかと思って水かけちまった、ごめんな。」

とジョーイが言うのでアトアスは怒りが(しぼ)んでしまい「お、おう…」と許した。その様子に精霊たちは「こいつ、ほだされやすいな…」と小さく囁いた。そして

『いい加減に俺たちにも自己紹介させろよ!』

『俺らの番はいつ?』

と精霊たちが叫んだ。その声を聞いたアトアスは

「あ、他の精霊たちが自分たちの番はいつだ?って」

と伝えた。

「あ、そっか。自己紹介の為に人形に入ったんだった。そろそろ交代するか…」

どうやら人形に入るとアトアスに入っている精霊たちの声は聞こえないようだった。ジョーイはアトアスに近づいた。

「右手、出して。」

アトアスは言われるまま右手をジョーイに差し出した。するとジョーイは自分も右手を差し出して握手するような形になった。

「これからよろしくね、アトアス。」

そうジョーイが言うとアトアスの返事を待たずにジョーイは姿を消した。アトアスの右手には例の人形が残されていた。この光景も衝撃的なものであったが、アトアスはこの短時間にあまりにも沢山の衝撃的を体験をしたので、さほど動揺しなくなっていた。

 アトアスが右手の人形をぼうっと眺めていると

『次は誰がいく?』

 と精霊たちの声が聞こえてきた。

『誰でもいいから早くしてくれよ…』

とアトアスが思っていると、どうやら決まったようで

『じゃあいってくる』

と声が聞こえたかと思うと、アトアスの右手の人形が光り始めた。そしてすぐに眩い光がアトアスの目を(くら)ませた。


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