9.後にも先にも姉貴だけ
「塚野君。彼女いるの?」
「ん? 特にいないけど……」
「じゃあさ、お試しで杏と付き合わない?」
「考えとく」
モテたことはこれまで一度もない! と断言していい。
そう思っていたのに、昼前の休み時間に同じクラスの女子から、軽く告られてしまった。
塚野真緒高校一年生。
ふわふわしている姉貴が一人いて、今現在、時々彼氏のフリをしている。
そんな俺に彼女とか、果たしてそれはいいのだろうか。
「良くな~い!! 許可しませんよ、そんなの!」
「や、桃未に許可を求めてないんだけど……」
「あたしにそんな隠し事が出来ると思ったら、お天道様共々、許しませんぜ?」
姉貴は一つ上の学年でありながら、俺のクラスに隙あらば、ちょこちょこと顔を半分ほど覗かせる時がある。
偶然にも、告られ中の休み時間に、覗きに来ていたらしい。
そんなことをしているだけでも目立つのに、姉貴は学年問わずの男子に、モテモテの天然ふわふわ美人として有名なだけにやめてくれと言いたくなるが、言えない事情がある。
「でも俺、フリーですよ? お試しででも付き合うくらい、良くないか?」
「認めんぜ、あたしは」
「理由を聞こうか」
「真緒くんは、あたしの彼氏のフリをする義務……いや、運命がありましてな……ここで勝手にギブアップをされるわけには行かんのですよ。分かるかね、あたしの心の苦しみが!」
「分からん」
「ノ~オ~~~ォ! ダメダメだってば! 愛しき弟くんよ、姉からの一生の――」
「一生を後何回くらい?」
「はぅぅ……嫌だぁぁ!!」
見ていて何か、いたたまれなくなるのはどうしてなのか。
姉貴は確かに綺麗だし、変人だし、そして弟目線で可愛い。
しかし彼氏のフリをするという何のメリットも無い状況を、果たしていつまで続けねばならないのかを、常々考える日々だ。
「わ、分かったから。俺がこんな言うことを素直に聞くのは、後にも先にも姉貴……桃未だけだからな?」
「うおおおお!! 良かった、よがっだぁぁぁぁぁ……シクシク」
「言葉に出して泣くなっての! 断る、断っておくから」
「大好きだぞぉぉ! 弟よ!」
本当にどうして、姉弟なのだろうか。
本当にどうして、こんなにも可愛い姉貴すぎるのだろう……。




