6.見知らぬ彼氏への対抗心が半端ない
彼氏のフリをするだけならもはや慣れたもので、登下校の下校に関しては弟では無く、彼氏【仮】として帰ることが当たり前になった。
男と一緒に横並びで歩く、ただそれだけでナンパやら告白やらから回避出来るのだとか。
それはぶっちゃけ、俺じゃなくていいのではと思ったりしたが、何となく嫌な気分になりそうだったので今に至る。
そして家の近くの公園を通りがかった時だった。
「ぬお! けしからん!! 真緒くん、アレをどう思う?」
「何の?」
「ここの草むらに隠れて見ないと駄目!」
「覗きはどうかと思うので、却下」
「問答無用!!」
「わぷっ!? 無理やり頭を押し込むのはやめろっての!」
草むらといっても、人一人分くらいの小さなスペースしか無く、しゃがみ込んでもギリギリなので、我慢するしか無かったりする。
ほんわか何かのいい香りをさせる姉貴が、俺の背中にしがみつきながら、顎を頭にこすりつけて来るので動くに動けない。
「……アレは何ですかね?」
「カップルよのう」
「だから?」
「うらやまけしからん! そう思わないかい?」
「いえ、別に……てか、もう少し離れろよ!」
「静まり給え!」
まるで意識していないのか、グリグリと顎で頭頂部を攻撃するのは、反則過ぎる。
「むぅ……アレをやろうではないか!」
「どれ?」
「膝枕ですな。真緒くん、空いているベンチに座って!」
「え? 俺が座るの!?」
「何かおかしい?」
「アレはどう見ても逆……いや、いいけど……」
そもそも自宅は目と鼻の先なのに、何故にわざわざ目立つ公園で、姉貴を膝に座らせねばならんのか。
「よっこいしょ……」
「いや、それ……」
「真緒くん、何か言った?」
「何でもない」
姉貴と俺が見たのは、男が女性の膝に頭を乗せた王道的な膝枕だった。
それがどうしてこうなるのか。
「むぅ……真緒くんの膝はごついですぞ。何を食べたらこんなになるのか!」
「いつも同じものを食べてますけど、何か?」
「何かが違うんですよ。そ、そうか! 真緒くん……あたしの膝に頭をつけるのです!」
「え!? それ、それはまずい」
「乗せて! の~せ~て~! ここ! ここですぞ! あたしの膝に頭を乗せるのですぞ!」
桃未は自分の膝をバンバンと叩きまくって、俺にアピールをしまくっている。
くぅっ……可愛いと思ったら何かに負けそうになる。
「ぬふふ……真緒くんの頭の感触を独り占めですな。なでなでしてやろうじゃないか!」
「……お好きにどうぞ」
世の中の彼氏連中が、こんなことをされているのかと思ったら、何となくモヤモヤしそうになる。
姉貴同様に、見知らぬ彼氏への何かの対抗心が、半端なく芽生えた下校時間だった。