4.姉貴にはスキルが備わっている
「ふわぁぁ……眠ぃ」
「真緒、寝不足なん?」
「ん、まぁ……」
「勉強……んなわけないか。それか、彼女がチャットで寝かせてくれないとか」
「どこの彼女だよ。尾関も知っての通り、俺にそんな情熱的な彼女なんていない。色々あんだよ、色々」
「彼女が欲しいと思わんの? 先輩でも同級でも告ればよくね?」
「好きな奴いないしな」
いつもの教室風景。
中学からのダチである尾関が同じ高校、クラスになったこともあり、暇さえあれば話をしているといった光景。
寝不足の原因なんて、他人には意地でも言いたくないし言えない。
同じ家にいるから逃れられないし、逃げると泣いてしまうので、仕方なく買い物やら何やらの付き合いをしているわけで。
「午後の授業始まるまで寝る」
「おやす。俺はトイレ行って来る」
眠いのを無理やり邪魔して話そうとしないのも、長年のダチの特権でもある。
「……おい、おい、真緒! 寝たか?」
「せっかく心の中で褒めていたのに何だ?」
「いや、廊下に真緒を呼んでる美人な先輩が来ているんだけど……」
「は? 美人な先輩? どこのドイ――あぁ、うん。起こしてくれてサンキゥ」
何故に俺のいる教室が分かってしまったのだろうか。
誰もが注目する笑顔を振りまいた状態で、ぶんぶんと手を振っている姿とかどうしてくれよう。
『真緒くぅーん!! 来たぜ! 来てやったぜ~!!』
これでもう、次の休み時間から何か言われるのは確定だなんて、何てことだ。
「貴重な昼寝時間なんですけど、何ですか?」
「図書室へレッツゴー!」
「なにゆえ?」
「むっふっふ! 桃未は技を手に入れたよ! それを真緒くんにお披露目するのさ」
「……くだらないことだろうけど、俺の教室に来たら怪しまれると思うけど……」
「いえす! 桃未は同学年男子には、彼氏がいると宣言してましてぇ」
「つまり、ガード?」
「おーいえす! 真緒くんはあたしのガード!」
同じ学年の男子と言われても、どれくらいの人数がいるか知らないし、どれほどモテているのかも把握しようがないが、要するに図書室に行くだけでも大変なんだろう。
「――で、静かな図書室で何を披露すると?」
「はい、真緒くん。ここにラノベがあります! 君はこれが読めますか?」
「そりゃ読めるだろ」
「ノーノーノー! それはアニメにもなっている原作なのだよ。しかーし! 読みたくても読めない悩みが桃未にはあるんだよ。何故だか分かるかい?」
これは何の謎解きなのか。
普段から姉貴は、アニメをこよなく愛するお人ではあるが、原作小説を見ている姿は確認出来ていない。
「知らん」
「では真緒くんは、そのご本をあたしに見せてくれたまえ」
「俺が読み聞かせを……?」
「さぁ、お見せ!」
「ほれ、目次ページ……はっ?」
「ムニャ……もう食べられないであります」
「って、桃未! ちょっ!」
昼休みの終わりを告げる予鈴が聞こえて来るのに、姉貴はぐっすり眠っている。
さすがに起こさねば。
『起きろ!!』
「おおぅ!? 寝ちまったぜ」
「何がしたかったと?」
「つまりですね、あたしはアニメの原作本を見ようとする努力はするのだよ。しかし、文字が目に映っただけで眠くなるスキルが発動するわけよ!」
「とにかく急いで教室戻れ!」
ページを開いた途端、姉貴はスヤスヤと可愛い寝顔を俺だけに見せていた。
そういう無防備な姿をわざと見せつけるとか、可愛すぎるだろ。