33.ラブストーリーは唐突に リモート・桃未さん①
市営プールから帰って来てからの姉貴がおかしい。いや、いつもおかしな人だけど、さらに増している。
『うおおおおおおおおおおおお!! バカバカバカバカ!!』
この声は、姉貴の部屋から丸聞こえの独り言である。
俺の部屋に聞こえて来る時は、大抵がゲームのお手伝いだったり、構って欲しい時だったり……とにかく俺に関係することばかりだ。
それ以外の時は、壁が薄くてもそんなに声を張り上げたりはしない。
不思議な言動が目立つが、普段の姉貴は至っておしとやか? だ。
『桃未さん! 近所(主に俺)迷惑だぞ! 静かにしてくれよ。うっかり昼寝も出来やしないぞ』
『て、てやんでぇい!! 全てはユーの仕業だな? ちきしょぅおうおうおう!!』
……とまぁ、何故か奇声を発生させている犯人は、俺ということになってしまっている。
むやみやたらに姉貴に注意しようものなら、すぐに犯人扱いだ。
プールで溺れ、人口呼吸をされたのが原因だと思われるが、そんなことで姉貴がパニックになるのだろうか。
夏休みに突入してすぐに縁日に行ったり、市営プールに行ったりして、着々と姉貴の彼氏ぶりを上げていたはずだった。
それがここに来て犯人扱い。
一体俺が何をしでかしたというのか。
「そこの真緒くん。あたしを助けて!」
「ハ?」
「さっきまでのあたしは、あたしじゃなかったのだよ、きみぃ」
「は、はぁ……」
市営プールから帰って来て、桃未さんは何者かに狙われでもしているのか?
「真緒くん! 今のあたしは何かに操られているの! それも見えない所から! タスケテ!!」
「……分からないでもないが、そうやって無意識に抱きついて来る癖は、直ってないのな」
「おっおおぅ!? いっけねえ! いやぁ~自分の家だと平気になっちまうぜ! どうしてかな?」
「いや、俺に聞かれても」
「と・に・か・く! 残りの期間はお家に籠るから、あたしの傍にいて欲しいの。駄目……?」
くぅっ……!
何なのその反則技。
奇声を発していたと思いきや、気配を消して俺の部屋に侵入済み。
そのくせ、こっちの気も知らずにギュッと抱きついて来るなんて、あんたが鬼か。
不思議な桃未さんの面ばかり見ているせいか、そうやって極まれに上目遣いでお願いをしてくるのは、反則にも程がある。
だが、可愛すぎて怒れない。
くそう、姉貴の見えない敵? は一体何者なんだ。