32.桃未さん、逃走する!? 市営プール編④
姉貴とのファーストな感触はともかくとして、やはり世間は狭いというか、地元で遊ぶのは危険だ。
最近、柚子先輩が、俺と姉貴に出会い過ぎている気がしている。
先輩だけならまだ良くて、さらに杏や果梨までもが、俺の行く先々で声をかけてくるのはどうしてなのか。
「何だよ、お前らいつも一緒にいるけど暇人なのか?」
「お互い様じゃん! 美人な先輩二人連れてプールとか、塚野のくせに生意気すぎる!!」
「モテモテだね、塚野君」
「……そんなんじゃないけど」
杏と果梨とで話をしていた、ほんの少しの間だった。
「あれ? 柚子先輩、桃未さんは?」
「桃なら……」
面白がった表情を見せながら、桃未さんが今まさに逃げている姿を、柚子先輩は指差している。
「あーーーーーーーー!! いた!」
「ちょっと、塚野! あたしらを置いて行くわけ? しかも水着姿にも何も言わないでさぁ」
「悪ぃ! また今度!!」
果梨が何か言って来たが、今は桃未さんを追いかけねば。
「何だよ、あいつ! そう思うでしょ杏! ひどくない?」
「桃未先輩の様子もいつもと違うみたいだし、塚野君とは今度約束しようよ」
「……杏は大人しすぎ! ったく……」
桃未さんは、必死に走って逃げているようだ。
あいつらと話をして隙を見せてしまったとはいえ、何で逃げるのか。
『こらーー! 何で途中で逃げんだよ!!』
『追いかけないでおくれ! あたしは熱が出ちゃったのだよ。近付いちゃ駄目だぞー!!』
『嘘をつくなー! てか、熱が出たなら大人しくそこで休めって!』
『こーとーわーるー!!』
足の早さは俺よりも速い桃未さんだが、確かに顔が赤いし、いつもよりは勢いを感じない。
そんな感じでもあったので、すぐに追いつくことが出来た。
「だから無理して逃げんなって!!」
「うわおー!? ま、ままま……真緒くん、いつになく大胆すぎるぜ」
「いや、姉弟で大胆も何も……」
明らかに様子がおかしい。
いつもしていることなのに、姉貴の肩に手を置いて捕まえただけで、顔以上に全身を真っ赤にさせている。
「マジで熱があるのか?」
「おおぅ……真緒くんが男らしい」
「何でそんな照れてるんだか……とにかく、いつもの姉貴に戻れって!」
「……ふ、ふん。やなこった~! とにかく、あたしは帰る! 真緒くんは女子たちと遊んでいれば?」
何かよく分からないが、不貞腐れの桃未さんになっているようだ。
そして顔も全身も真っ赤なままで、まるでタコである。
「じゃあ俺も帰るから、このまま更衣室に行こう」
「おぉ……フフフ。真緒くんを独占出来るのだな。それじゃあ行きましょ~! お~!」
何だよ。
いつもの調子を取り戻した桃未さんが、いつも以上に可愛く見えた。
柚子先輩との遭遇といい、杏たちとの遭遇も含めて二人だけの時間が必要なのか?
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