30.桃姉さん、ライバルに発見される 市営プール編②
「そうそう、いいよ! 真緒くん、息継ぎさえ出来れば完璧だよ」
「ゴボッ……おぷっ」
「いいよいいよ! 溺れながら覚える! はい、もう一度ぉ~」
姉貴は頭がいい上に、運動神経も半端じゃない。
そしてスパルタな姉さんでもある。
俺が溺れかけていても、気付いていてやっているのかそれとも、やはり天然なのか分からない。
そして幼い時のように、そろそろ溺れそうだったりする。
「真緒くん? あれ? 息継ぎしないと溺れちゃうぞ~?」
「……」
「真緒くん~おーい!?」
張り切って教えていた桃姉さん、またも弟を溺れさせてしまう。
薄れ行く意識の中、慌てふためく姉貴の声に混じって、冷静なインストラクターの声が聞こえている。
「えっ? ご姉弟ですか? でしたら、お姉さんが人工呼吸をしてあげてください」
「ま、真緒くんに口を……ゴクリ」
そういや、当たり前だけど彼氏のフリをしても、キスはさすがにしていない。
キスとは違うとはいえ、まさかこんな形でするとは思っていなかったはず。
姉貴とインストラクターのやり取りが長引いているのは、多分そういうことだと思うが。
「で、ででで、では、真緒くんに行かせて頂きます」
「落ち着いてゆっくりと処置してください」
「な、何ですと!? ゆっくりじっくり、真緒くんと……」
桃未さん、落ち着け。
キスじゃなくて、人工呼吸だぞ?
『あーっ! 桃の彼氏くんが溺れて倒れているー!』
『むっ? この声は、柚子!』
最近よく遭遇しているように思えるけど、柚子先輩は姉貴を追跡でもしているんだろうか。
「人工呼吸なら私の出番じゃね?」
「何だとぉー!」
「あの、処置をされないなら私が致しますが?」
「「だが断る!!」」
見かねたインストラクターが声をかけたらしいが、息ぴったりに申し出を断ったようだ。
いや、早く何とかしてくれ。
ただの人工呼吸なんだから、頼むよ桃未さん。