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29.桃姉さん、密かにスイッチが入ってやる気出す 市営プール編①


 自分が知らないだけで、というか姉貴と違ってお互いの教室をいつも覗いているわけでもないので、どんな光景が広がっていて、交友関係がどうだとかは知る由もないわけで。


 つまり勝手に話が進んでいても、話を振られた時にはすでに決定しているので、拒めない件。


「――というわけなのさ! 真緒くんは泳げる! いや、泳げなくとも面倒を見てやるぜ!」

「はぁ……この話っていつ思いついて、誰かと話でもしていた?」

「イエス!! 今日のお昼休みに柚子ゆずとそんな話で盛り上がっちまったぜ!」

「柚子先輩って、映画館の時の?」

「先輩だぁとぉう!?」

「だって桃未さんとタメだろ?」

「くっ、悔しいです!! あたしにも言ったことない響きじゃないか!」


 姉貴は妙な所で悔しがる癖があるが、姉貴なのだから先輩と呼ぶのも他人行儀だと思って、使ったことはほぼ無い。


「い、言われたいの?」

「おーいえす! 是非とも市営プール限定で使いたまえ」

「あ、決定なのね。俺が泳げないって知ってても、確定なのね……」

「だから~あたしが! 桃先輩がやる気出す!! 出させてあげるよん」


 ――で、真夏の市営プールに来たものの、ほとんど小中学生の場であってそこに、高校生がいるというおかしな空間が形成されている件。


「市営プールはさぁ……」

「何を言うか! 幼き頃からの使い慣れた場所じゃないか。まぁ、あの~その頃色々ありまして、ごにょ」


 水を怖がり、勢いよく飛び込まされ……今に至るが、姉貴に罪はあるかな。


 市営プールなのに、胸元を強調した水着を着るのは反則ですよ?


 姉貴は弟の俺から見ても、スタイル抜群でゴージャスで豪快で、可愛すぎるお姉さんである。


「よっしゃあああ!! さぁ、来たまえ。いい子だから」

「は、入るだけだから。泳がない、いや泳げないんだからな?」

「ダイジョブ、ダイジョブさぁ~! 桃先輩って言ってくれたら、やる気出す!」

「も、桃センパ……」

「おっほぉ~」


 いつになくオッサンくさいんだが、姉貴のテンションは変なスイッチが入ったのだろうか。

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