28.姉貴とデート【仮】後編
姉貴というか、女子が化粧室に行くといつ帰って来るのか、さっぱり分からなくなる。
こういう時、途端に寂しくなってしまうのはどうしてなのか。
「泣きそうになっているキミは、もしかしてぼっち?」
「え、誰?」
「あ、ウチ? ウチは――」
『真緒く~~ん! 待たせちまったぜ! って……げげっ!?』
おや? もしやライバルとか、会ってはならない人かな?
「何だ、桃じゃん! ってことは、ぼっちじゃなくて桃のカレシって奴?」
「な、何か用? 柚子」
「暇でしょ? 暇ってことで一緒に映画見ようぜ!」
「はぁ? あたしはこれから、ここにいる真緒くんと見るんだけど?」
「ウチも混ぜろよ!」
「断る!」
何やら壮絶なやり取りをしているように聞こえるが、姉貴もそこの人も美人さんなだけに、色々とショックを受けそうというか、受けている最中だ。
姉貴の言葉遣いは、全く隠すことがない程の漢っぷり。
そして柚子と呼んでいる彼女も、豪快な言葉遣いをしている。
「あ、あの~桃未さん、彼女は?」
「おっと、ごめんよ。紹介したくないけど、柚子は同じクラスで競ってる女なのだよ」
「競っ?」
「ぼっちくん、ウチと桃は成績で競っている間柄なんよ。お分かり?」
「俺は真緒と言いますんで、ぼっちくんは……」
「へぇ~案外強いじゃん? そんで、可愛い! 桃をやめて、ウチに乗り換えない?」
「えっ、いや……」
「真緒くんは渡さん!! 柚子こそ、ぼっちに見えるぞ! あたしと真緒くんは、めくるめく映画の旅へと行くのさ。邪魔をしないでもらおうか!」
姉貴の言葉を指摘すると、嫌な予感しかしないが俺と映画を見るのに、官能的な興奮を覚えているのだろうか。
「相変わらずのシモ女め!」
「違-う! でも面倒だから、そう思ってもらっても構わんぞえ! さぁ、帰れ~」
「マオはどうする? 桃と二人きりで性的興奮状態で映画を見るか、ウチを加えてさらに興奮するか」
「普通の映画を普通に見ます……桃未と共に」
「ふーん? 一途系なんだ? 君に免じて暇つぶしを終えるとするよ。そんじゃあね、マオ!」
「は、はぁ……ども」
姉貴と二人きりで映画を見るだけなのに、どういうわけか、女難に遭う確率が高い気がする。
「むぅ……真緒くん。別の日にまた来ないかい? あたしは何だかストレスが解消したいのであります!」
「……オッケー。行こうか、カラオケ」
「さっすが! それでこそ、あたしの見込んだ真緒くんだねぇい! 歌おうぜ!!」
「いいよ、桃未の好きにしていいから」
「ま、真緒ぎゅん! 好きだ! 愛しているぜ!」
「は、はは……俺もだよ」
どうして姉弟なんだろうなぁ……腹が立っている桃未さんも、可愛すぎるじゃないか。
同じクラスの女子はともかく、桃未さんと同じ学年の女子は、すごく厄介な気がする。
桃未さんと一緒にいる時間が、もっともっと増えればいいな……そう思えた日だった。