27.姉貴とデート【仮】前編
「真緒くん!」
「なんすか?」
「ううっ……ぐすっ」
「な、何で泣く!?」
夏祭りから帰ってから数日が経った。
杏と果梨に出会ったのは偶然で、しかも連絡先を知っているわけでもないので、その後は何も無い。
しかし、姉貴の俺に対する視線と態度は、明らかに変化が生じている。
「そんな滝のような涙を流されても困る……理由を話してよ」
「桃未さんは嬉しいのだよ。真緒くんが守ってくれたあの日の夜のことを!」
「たこ焼きな」
「そう、あたしの愛するたこ焼きパックを大事そうに抱え、守ってくれたあの日の光景が、忘れられないのさ」
「いや、忘れろよ。食べ終わってるんだから」
ガラの悪いにいさんたちから守ったのは、姉貴ではなく、たこ焼きだった。
撃退したのは姉貴であり、俺じゃない。
「な、何かあたしにさせておくれ!」
「そう言われてもな……」
「真緒くんの為なら何でもするぜ!」
ふわふわ美人な姉貴にこんなことを言われるのは、そう何度もある……とは限らない。
それならば、今度こそ。
「到着~!」
「言っとくが、建物じゃなくて映像を見て楽しむんだからな?」
「イエスイエス!」
そんなわけで、姉貴をデートに誘って映画館に来た。
「むふふ……殿方からのお誘いを受けるなんて、あたしは幸せ者かよ!」
「な、何を観る?」
「ターンエーマダム、テンキーの子、桃未ネーター……迷うねえ」
何だよ、桃未ネーターって。
可愛すぎか!
色んな新旧タイトルがあるが、どれを観るべきか迷う。
「で、まさかと思うけど、ポップコーンを守れと?」
「ふっふ~当たり~!」
「あたしが戻ってくるまで死守せよ! なれば、道は開かれん」
「――何の道だよ」
「じゃあ、行ってくるよん」
姉貴は何だかんだで綺麗好きなこともあり、映画館のトイレを見てくると言って、席を外した。
姉貴曰く、トイレが綺麗なとこは本物らしい。
相変わらずの不思議さ全開だが、何を言っても許せるくらい、姉貴は可愛いすぎる。
早く戻って来てくれ、桃未さん。




