25.桃未さん、本気出す。
「負けないぜ~~!! 抜け駆け女子、杏!」
「はっ、はい。桃先輩!」
何だか案外仲良さげにしている様に見えるのは、気のせいなのか。
「塚野の彼女ってマジなの?」
「だったら何だよ?」
「似合わないって思った」
「かりんとうに言われたくねー」
「あんな美人先輩に好かれるとか、贅沢ヤローだろ。分相応って言葉を知ってんなら、潔く引けば?」
「うるせー、放っておけよマジで」
かりんとうこと、果梨はハッキリと言い切る女子で、男にも女にも人気がある。
杏は果梨に比べれば、控えめな性格をしているが、男子から見れば敷居が高いほどの綺麗系といったところだ。
対する姉貴は全てが可愛いすぎる。
ふわふわ天然時々不思議系は最強と言ってもいい。
「うおおおおおお!! よっしゃぁぁぁ! これで二十匹目~~」
「どうしてそんなに掬えるの……」
「むふふふ……抜け駆け女子よ! これこそが本気というものなのだよ!! 愛の力をひしひしと感じていれば、金魚の数なぞ問題ではな~~い!!」
「あ、愛……え、そこまでですか?」
「そこまでの愛が、抜け駆け女子にはあるのかーーい? 真緒くんはカワユス!!」
「……むむっ! ま、負けないです」
どうやら夏祭りで姉貴は本気を出したようだ。
それか、嫉妬心が向上したのかもしれない。
「はぁぁ~~わたあめ作り、この道数年だぜー! 桃未さんを舐めるなよ!!」
「あ、甘いです。わたあめ」
「ふふふ……これぞ、あたしの技さね。抜け駆け女子にはまだまだ早いのだよ」
どうやら勝負はすでに決しているようで、普通に祭りを堪能している様に見える。
わたあめ作り数年とか、一体いつから作っていたのか。
「真緒くーん! こっちおいで」
「あいよ」
「えいやっ!!」
「甘っ!? そんなにわたあめを口中に突っ込まないでよ!」
「これも桃未さんの優しさで出来ているのだよ!」
確かにふわふわな姉貴には、ぴったりなお菓子だ。
「塚野くん、無理やり誘ってごめんね。果梨と一緒に他を回ることにするから、桃先輩と楽しんで」
「ん? もしかしなくても負けたから?」
「負けるつもりは無いけど、約束してなかったし今回はやめとこうかなって」
「もぐ……そっか。じゃあ、またな」
「うん。果梨、行こう」
「え、ちょっと? 杏、いいの? ねえ?」
何やらスタスタと早足でいなくなってしまったが、姉貴との勝負は惨敗だったのか。
「真緒くん」
「ん?」
ポンポンと頭を軽く叩いて来た姉貴の手と表情は、いつもより優し気だ。
「まだまだまだ~~! 桃未さんに付いて来ておくれ」
「な、何が?」
「四の五の言わずに、あたしに付いて来いやぁ~~!」
「お、おぅ」
杏との勝負で何か心境に変化が生じたのかは分からないが、姉貴は本気を出し過ぎたらしい。
少しだけ気にかけた様子だったが、すぐにいつもの桃未に戻っていた。