19.幼児化で愛を試そう!
「真緒の姉ちゃんって可愛いし、優しそうだし……というか、彼氏いないって何でなんだろうな?」
「ここにいるっての!」
「それは真緒がやっているフリな。じゃなくて、本物のって意味」
「姉貴に彼氏なんてまだ早い」
「ほー? それはまたどうしてだ? 弟だったらいようがいまいが、関係なくね?」
「可愛いのは認めるけど、姉貴はまだ幼いし危なっかしいから、弟の俺が面倒見てやらないと駄目なんだよ」
――などと尾関には言ったものの、俺の姉貴への想いはまだ誰にも渡したくない……そんな風に思った。
そんな俺の想いは間違った尾ひれと共に、姉貴に伝わってしまう。
放課後になり、いつものように姉貴と帰ろうとしたが様子がおかしい。
何やら不穏な空気を感じるような?
「……真緒くん!! プンプンプン!」
「はっ、はい。え、何を怒ってんの?」
「真緒くんはあたしを姉だと思ってないんだよ! だからいつもいつもいつも~!」
「え? ええ? 話が見えないんだけど」
「ウワサが流れて来たんだよ。あたしのこと、子供だって! だから彼氏も出来ないんだって聞いたぞ!」
確か俺は尾関にだけ話をしていたはずなのに、何故ウワサになってしまったのか。
しかも微妙に話が違う。
「家に帰ったら、真緒くんはあたしのお部屋に来ること! そこで真緒くんの愛を確かめてあげるんだから!」
「はっ? 愛?」
またしても意味不明なことをしようとしているようだ。
しかし姉貴が怒っているのは、ウワサ? に対してではなく、俺に対する確かめらしい。
そんな状態で家に帰り、姉貴の部屋に入ると……
「ねぇねぇねぇ、真緒おにーちゃん! 一緒にあそぼー!」
「な……!?」
「えっ、今忙しーい? うぅ~やだやだやだ~! おにーちゃんはちっとも忙しくないはずだよっ! おにーちゃんは、あたしとあそぶー! あーそーぶーの~~!」
これは何の拷問なのだろうか。
カーペットにちょこんと正座……しかも片足だけ崩して座っているだけなのに、萌え死なせる気が!?
Tシャツにショートパンツという、いつもの部屋着はいいとしても、何で幼児化までしてしまうのか。
「抱っこ!! ねぇ、真緒おにーちゃん、抱っこ!」
「え、で、でも……」
「愛だよ!! あたしへの愛があれば何でも出来る! 抱っこ!!」
決して小柄でもない姉貴を抱っこすると、驚くくらい軽く、しかも甘い香りがした。
「桃未はあの、ちっとも子供じゃなくて……姉っぽいから、だから……」
「ふっふっふ~! それが真緒くんの愛だな?」
「た、多分?」
「では! むぎゅ~!!」
「く、苦し……も、桃未」
「真緒くんの愛を感じたぞ! だからお返しなのだ。心配するでない! あたしは当分、真緒くんの愛を受け止め続けてやるぜ!」
「はぁ、どうも……」
一体どこからそういう展開に進んでしまったのかは分からないが、姉貴はまだ誰かとどうなるとかは無いらしい。
もしかして、姉貴なりに気を遣ったということなのだろうか。
少なくとも子供っぽいというだけで、子供じゃなくて、でも誰かとくっついて欲しくない……。