16.ふわふわポップ
「うう~ん……んむむむぅ……んん?! って、ちょおい!!」
「ほよ? 真緒くん、おはよぉん!」
「な、ななな……」
「ななな?」
「何で俺のベッドで寝ているんだよ!? 桃未の部屋は隣だろ!」
「おぅふ……ありゃ~また間違えちった。ごめんよ!」
姉弟のスキンシップに意識するなんてどうかしている。
いや、これはスキンシップなどではなく、姉貴の寝相の悪さと寝惚けの連続コンボによるものだ。
彼氏のフリをしてくれと頼まれて以降、意識するようになったのは弟の俺だけで、しないのは姉貴だけである。
学校と外では、天然ぶりを発揮して俺以外の他の男を寄せ付けないのに、どうして家の中では、こんなにも無防備すぎるのか。
こんな想いを抱くようになったのも、全ては姉貴が可愛すぎるからに他ならない。
「おーい、真緒。先輩が呼んでんぞ」
「んー? 今眠いから後でって言っといて」
「結構焦ってるみたいだけど、いいのか?」
「放っておく」
尾関は廊下に来ている姉貴によく頼まれる役目となったらしく、俺をよく呼ぶ係らしい。
とはいえ、大した用じゃないことが圧倒的に多いので、放置することが多いが……。
「あっ、ちょっと……先輩!?」
教室が妙にざわついているけど、とにかく眠いのでそのまま机に伏していると、何やら腕がチクチクとした感触が襲って来ている気がする。
「ツンツンツンツン……へいへい、そこの彼氏ぃ~寝落ちかぁ?」
「眠いのでやめて」
「むぅ~! えいえい!」
「チクチクやめて」
「ならばこれでどうだぁ~!」
どうやら俺の教室の中に入って来ただけでなく、近くで地味な攻撃を仕掛けているようだ。
「あぁ、もう! 何だよ、桃未さ――んあっ!?」
「ぎゃおー!?」
『ゴツーーン!!』
一瞬の出来事だったが、教室中に響き渡った鈍い音で、周りのみんなが遠慮がちに目を逸らしている。
「いったぁぁぁぁぁい!!」
「……つーぅぅぅ……」
お互いに頭をぶつけて、痛みで悶絶してしまった……というか、何でそんなに至近距離に姉貴がいたのか。
「何やってんの?」
「桃未さんをシカトとかひどくないかい? 頭に来たんで乗り込んで来たぜ!」
「だとしても、近すぎ!」
「いやいや、彼氏さんをしてもらっているわけですから、見せつけてやろうかと思いましてな」
「――ったく、俺の教室にまでポップするとか、桃未らしいというか……」
「こらこら、人を狩り場に湧くモンスターのように言うでない!」
可愛すぎた姉貴の彼氏のフリ。
そろそろ、弟として精神的と気持ちに限界が近いみたいだ……。