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15.餌付けかな?


 姉貴の部屋との距離は壁一枚だけ。


 だからといって、お互いの部屋に行き来することはそう多くない。どちらかと言えば、姉貴から俺の部屋に来ることが圧倒的に多い。


 しかしここ数日、姉貴の声が壁の向こう側から聞こえて来ても、俺はどうすればいいのか分からなくなっている。


 彼氏のフリをしているけど実際のところ、実は彼氏に近い存在がいて、時々姉貴の部屋に来ているんじゃないかと思うようになった。


『ふふっ、やだ~本当なの? それ』


 姉貴の独り言は主に、俺に向けて放つことが多かった。


 だけど明らかに違うのは、他に誰かが来ていて、その人と会話をしているように聞こえることだ。


『うんうん、そっか。うん、いいよ? じゃあ駅前のパン屋さんね! じゃあまたね』


 近しい姉弟でも、部屋に誰かが来ている時は見に行くことはしないし、誰がいても気にしない。


 そのはずなのに、どうしてこんなにも気になるのだろう。


 しかも極めつけは、姉貴の会話が終了すると何故か必ず菓子パンを持って、俺の部屋に入って来ることだ。


「愛しの真緒くん! さぁ、召し上がれ!」

「う、うん……これ、どうし――」

「なーでなでなで! いい子いい子! 真緒くん、いい子だぁ」

「や、やめ……」

「真緒くんの頭を撫でるのが好きなのだよ。パンを頬張る真緒くんを眺めながらの頭撫では、幸せなり!」

「……気を遣わなくてもいいのに」

「ん~?」

「何でもない」


 誰かとの聞こえる会話のお詫びのつもりなのか、姉貴は会話後にパンを持って来ては、頭を撫でて来るという、一種の餌付けみたいな行動を取るようになった。


 そんな姉貴の疑わしき行動は、下校時間が合わなかった時に、とうとう目撃してしまう。


「こ、こんなに菓子パン買うとか、桃未さんが食うんすか?」

「まっさかぁ~一人で食べるわけないでしょ」

「いや、奢るって言ったけど、買い過ぎですって!」

「これで貸しは無しってことですよ?」

「厳しいっすね、本当に」


 見知らぬ同級生の男と楽しそうにパン屋で待ち合わせし、大量のパンを買う姉貴の姿は、俺にはすごくショックに思えた。


 いつもなら下校も一緒だったのに、最近は他の男といたとか……彼氏のフリをしていただけで、実際は違ったのかなと思うと、何だか悲しくなってそのまま一人で家に帰るしか無かった。


「たっだいまぁ~真緒くん~!!」

「えわっ!?」

「お、おぉ……その驚き方は新鮮ですな。寝てた?」

「べ、別に……」

「いやいや、顔を伏しているってことは、眠かったからじゃないのかい?」

「ノーコメント」


 泣く寸前だったなんて言えなくて、そのまま顔を腕に付けたまま、姉貴の顔を見ずにいると――


『やっほぉい!!』

「う、うるさいなぁ……なんっ――もぎゅっ!?」

「美味しいかね? コロネちゃん、大好きだよね?」

「お、美味しい」

「んむんむ! 真緒くん、最近元気無かったから桃未さん、頑張ったぜ!」

「え? 彼氏は?」

「な、何ですと!? 真緒くんに彼氏が? 許しませんよ!」

「じゃなくて、部屋で誰かと話をしてたじゃんか。それにパン屋で男と楽しそうにしていたし……」

「アレはクラスの男子で、ノートを貸したお礼に奢ってもらっただけさ! 真緒くんの為に、元気印のパンを食べさせたくて、桃未さんは悩みましたとも!!」

「そ、そうだったんだ……」


 姉貴の会話相手は電話で、相手は奢らせる相手だったらしい。


 甘いパンの香りと、ふわっとした姉貴の優しい香りで撫でられながらパンを頬張るとか、やはり餌付けされている感が半端ない。


「真緒くんは、今日も可愛すぎるぜ!」


 それは俺のセリフだ。

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