13.オープンすぎるケンカ!?
二日ほど前から、姉貴とは直接顔を合わせていない。
部屋同士の壁が薄いおかげもあって、一方的な姉貴の声だけが独り言のように聞こえて来るだけだ。
『あ~~食べたかったのに~~! 何でかなぁ? どうしてだろうねぇ? 本当にさぁ!!』
この声は明らかに、ピンポイントで俺に向けられている。
姉貴の可愛い声だけが、昨日今日と壁越しから聞こえて来るだけなのである。
『ちくしょうぉうぉうぉ!! 愛しているぜってゆった! ゆったのにぃぃ~~ムキーむきゃ~~』
後半から人間の言葉では無くなってきているのが、なおさら可愛すぎるんだけどどうすればいいのか。
「え!? 真緒、お前……そんなことをしたのか? あんなスタイル抜群な美人の先輩に、そんなバカな……」
「いや、言うだろ。美人関係なく、弟兼彼氏のフリをしていれば、止めもするし言いたくもなる」
「だからあんなに荒れてたのか? 外での体育とか見てて、色んな意味でハラハラドキドキしたけど」
「……暴走だろ? 姉貴があんな形相で走る姿は、周りの男子は見たことが無かっただろうし、人気を落としてくれるならそれは俺にとってありがたい」
姉貴は体育の時間に、美人でふわふわイメージを崩すかのような怒声で、外周を走り回った伝説を作った。
『うおおおお!! お~の~れ~! 真緒めぇぇぇ!! 食べ物のウ~ラ~ミ~』
俺のダチである尾関には、美人先輩が姉だということを白状してあり、彼氏のフリをしているのも伝えた。
せめてダチだけでも真実を伝え、相談出来るようじゃなければ駄目だと判断したからである。
「――で、どうすんの? あんだけ教室に来ていた先輩が二日来ていないとか、俺もその他の男も悲しんでいるぞ」
「今日の帰りにそのブツを買って、家で何とかする。怒った理由が子供すぎて、こっちが荒れたいくらいだ」
偶然にも姉貴と帰りが重なり、無言のままで家の中へ入ろうとしたのを、俺は阻止した。
「な、ナニかね? 真緒くん。何故にあたしの手首を掴んで離さないのかね?」
「桃未の為に取り上げただけで、意地悪をしたんじゃない。いい加減、機嫌直せよ」
「……真緒くん、彼氏のフリをしなくても、二日ほど誰も近寄ってくれなかったぜ! うぅっ……でもでも、男子はウザいけど、真緒くんが傍にいてくれなきゃ嫌だった! 嫌だったぞ!! どうしてくれる!」
「だから、コレやるから。学校にまで荒れっぷりをお披露目するのはやめろよ」
「うわおぉう!? そ、それは……じゅるり……」
「大量の牛乳プリン。二日前より倍な。でも俺は、桃未に変わって欲しくなくて取り上げただけだ」
ここまでの流れ……それは、牛乳プリンが全てである。
ナンパしたその日の放課後に、食べに食べまくった姉貴の二の腕に嫌な予感を感じたのが発端。
それを取り上げたら、暴走しまくってケンカをしていた……ということになる。
「このこのぅ~ういやつよのぅ。大丈夫、真緒くんが心配してくれているのは、桃未だけが知っている」
「やめろって!」
「グリグリ~ぬふふ! 真緒くん、可愛いぞ! なっかなお~り~!」
仲直りの印なのか、姉貴は俺の頭を拳でぐりぐりして来た。
牛乳プリンと姉貴の甘い香りが、俺の鼻をくすぐると同時に、可愛すぎて何も言えなくなった。
喧嘩は俺から折れたけど、やっぱり姉貴には敵わないし、やってることがいちいち可愛すぎた。