11.推し姉貴は仮称彼氏を査定し始めている
姉貴からデートの誘いを受けた……もちろん、彼氏のフリ前提で。
「え、マジな話だったの?」
「マジもマジマジ!! 昨日言ったぜ? 真緒くんとデートをするぜ! と」
「弟とデートして楽しいのか?」
「ノ~ン! 彼氏のフリであって、弟などではないのである。ユアオーケー?」
「弟は覆せないんだが……まぁ、いいけど。で、行くのは定番コースってやつ?」
「ちっちっち! 甘い、甘すぎるぞ! 映画館を見に行くのであります! ビシッ!!」
やはりお決まりコースじゃないか……などと、当日まで思っていた俺がどうかしていた。
「……その格好は何の冗談だ?」
「普段の桃未さんは軽装ぱねえ! だがしかし! 今日は真緒くんとのおデート。戦闘服じゃないと駄目ではないか!」
「似合わないぞ、そのヒール。カカト何センチ上げてんだよ? それにその塗りたぐったリップグロス! そんなの、桃未らしくないぞ」
「むふふ……だがそれがいいんだぞ? 真緒くん……女というのは勝負をかける時があります。それが今日という日であり、真緒くんに姉を世間に推してもらうための前段なわけですよ。お分かり?」
「分からないです、ごめんなさい」
「見捨てないでおくれ!! さぁさぁ、まずは映画館へ行くぜ!」
果たして姉貴の理想となる彼女像は、出来る女をイメージしたのか、あるいは派手アピールをして一味違う女を、世間の誰かに電波発信をしようと試みているのか。
「うあたぁっ!?」
予想通り、無理して履いているヒールのバランスを崩し、姉貴は転がりそうになった。
「肩貸すから、スニーカーにしとけって」
「おおぅ……さすが真緒くんはイケてる! 点数高いぜ!」
「何でそんなヒールを無理して履くのか」
「さぁ、次!」
「ハ?」
「真緒くん……味が分からないよ~」
これも分かりきったことだが、唇に塗りまくった分厚いリップグロスにより、味覚を失ったらしい。
「リップグロスを落として、いつものナチュラルメークにすればよくないか?」
「なるほど、自然体がお好み……ふんふん」
デートと称して、何やら俺の反応を確かめてはメモを取っている姉貴。
「サァ、着いた! 映画館ですよ!」
「映画館だな……何を見る?」
「コレ!」
「あんん? どれ?」
「だ~か~ら~! 映画館を見に行くと行ったぜ!」
姉貴の言葉は嘘ではなく、映画館を見に行く……という真面目にくだらないことをやってくれた。
「まぁ、次来るとしたら映画の鑑賞な。彼女と見に来るには場所もいいし、周りにフードあるし……それから――ん?」
「ふふふ……いいね! さすが我が愛しの真緒くんだ。あたしは真緒くんを自信もって推せる!」
「何が……?」
「彼氏のフリのフリだよぉ、キミィ。女子への気遣い、心遣い、優しさ……真緒くんは合格!!」
どうやらしてやられたらしい。
デートと言いながらも、今日は姉貴から俺への彼氏テスト? をしたかった日だったようだ。
「うんうん! 彼氏のフリは継続だぜ! 今度は甘すぎるデートにして差し上げようじゃないか!」
「メンドー」
「なんだとぉうおう! これも愛しの真緒くんとあたしの今後を左右する流れだったのだ。それじゃあ、手を繋いで帰ろうじゃないか!」
「断る!」
「ダ~メ! 繋ぐの!」
デートという単語に勝手に期待していた俺も悪かったが、最後にふとした甘えが訪れたのは反則だ。