10.体当たりで始めよう!
「――え!? 断った? 嘘だろ……俺らのクラスで一、二を争う人気女子の杏だぞ?」
「それは知らなかったけど、とある事情で断った」
「でも悪い気はしなかったんだよな?」
「そりゃそうだろ。言われて嫌とは思わなかったわけだし」
「勿体ねえ……」
「ま、タイミングの問題だから」
真相は闇の中……ではなく、姉貴のワガママに収納されただけである。
彼女が出来る、作ることを頑なに拒んでいたわけでは無かったが、姉貴曰く、好きな男子が出来たら解放する。
だから今は許しておくれ……というワガママだった。
焦って今すぐ欲しいわけでは無かったので、それについては怒りも沸いて来ない。
結局のところ、俺も姉貴も姉弟離れが出来ていない、ただそれだけのことなのだ。
あれだけ変わった性格と言動が備わっていれば、美人な姉でもそう簡単には、本物の彼氏は出来ないと思われる。
「ドーーーーーン!!」
「うおっ!?」
「ぜぃぜぃ……ふぅはぁ」
「な、なんっ……って、おいこら、待て!!」
「また会おう! 真緒くんよ」
姉貴のことで頭を悩ませるのもおかしなことなので、気分転換に意味もなく廊下を歩いていたり、自販機に飲料を買いに行ったりしていると、奇妙な物体……姉貴が体当たりをして来た。
しかも体当たりをするだけで、言葉もなく、そのまま逃げ去るというヤバい行動だ。
「それって、その人なりの反省とか、もしくは好意を示してるとかじゃね?」
「冗談だろ?」
「時には言葉を介さない……ってのも、稀にいるとか何とか。ソースは俺な」
女子の告りの断りから、何となく元気を落としていた俺に、ダチの尾関がそんなことを話してくれた。
好意? それか、励まし、反省……ねえ。
真相を確かめるべく、わざと無防備な姿で廊下の壁に寄りかかっていると、奴は姿を現した。
「行っくぞ~~!!」
今回は予告を声に出しながら突っ込んで来るらしいので、ギリギリの所で避けてみることにする。
「ズドーン……っとっとっととと……ふぎゃん!?」
「声付き効果音で来たところ悪いけど、避けた」
勢いそのままに、姉貴は壁に激突し、その音で誰もが注目をし始めてしまった。
「何でぇぇ? 真緒くんがいじめる~~!」
「ち、違うって! ぶつかって来るのを避けただけで……」
「ひどいよぉぉぉぉ」
「あ……いや、あの……も、桃未さん、俺が悪かったから、とりあえず……こっち来て」
「うぐっうぐっ……グズッズズズ……ズビビー!」
「ご、ごめん」
あまりにも人の目が恐ろしすぎたので、階段の踊り場に避難。
「てか、何で体当たりを……」
「だってだってだって、真緒くんが落ち込んでいたし……元気無さそうだったから」
「んんん……」
「景気づけにドーン! これこそ、あたしなりの励まし&愛しさを表わしたものであるのであります」
「サンキュ、桃未」
「どういたまして! チョロ真緒くんよ、明日はデートに行くぜ! よろしく!!」
「はぁ!? って、ウソ泣きか!!」
涙を見せたかと思えば、涙よりも鼻水だったし、いよいよ芝居がかって来たようだ。
それでも今日の一連の動きを見せた姉貴は、あまりに可愛すぎた。