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月光  作者: 鼻息
3/3

後編

「は?」

間抜けな声を上げた月の男を無視して、更に広場の状況も横に置き、ひとまず私の頭の中を占領するのはこの男を母という月女に見せなければということと、お茶を飲み寝なければ明日は辛いという事のみである。ずるずるずるずると、引きずられあまりの事に我を忘れている男他全ての者を置き去りに、私は彼を入り口に、更に窓から落として護衛にキャッチさせ、追われたら面倒だと‘死んだ緑色の子供’が把握していた裏道を使い屋敷に帰った。


やり取りされていた会話は忘れた訳では無く、確かに危険な男なのだろうと男を飾る魔道具を見た。これでは、いつしかの自分のように護衛に任せては危険だろう。呆然どころか放心している彼の奇抜な衣装を自ら脱がし、護衛に渡して下がらせた。彼は、私と同じ又は女と同じ色の暗い瞳で私にぼんやり焦点を合わせた。荒んだ空気に削られたような荒さを滲ませる顔だった。だが、その精悍な顔は傷のように深く刻まれた物騒な眉間の皺すら緩ませ呆然と私を見詰めている。ゆるゆると指先がまるで心許なく赤子のように私の髪を一房絡める。

私は、その間にも淡々と彼に私の寝間着を着せていた。


ふと気付いて、

「名前は?」

と聞く。

「アム」

やはり幼い声がした。あの饒舌だった男とは別人のようだった。女は母となる時私にどう言っただろうか。ああそうだ、

「はじめまして‘無い’。そしてさようなら。お前は今からサターニャだ」

それは、最近私に見合いさせようと近付いて来たさる貴族の娘の名だったが、名前の付け方を私は知らないので知り合いのかつもう会わない人の名を選択する。あとで気にいらなければ彼女が変えるだろう。未だ魂が抜けかけている男をやはり引きずりベッドに放り投げ、シーツを掛けてやってからふと、自分の家族環境が異常だと眉をひそめた友人の言葉を思い出す。では、普通とは何かと孤児院を見学した時、シスターは寝る前の子供の額にキスをしていたと思い出した。

私は、よしと一人頷き彼の額にキスをする。

更に真っ白になった男に気付かず、私は隣の執務室へと向かった。息子というにはデカいので弟か、或いは娶れば見合いもなくなると思った所で、私は部屋で寝ていた護衛を起こした。


「男は子供産めたのだったか?」

首を傾げた私に、護衛は今までみたことも無いほど狼狽し、ああそうかルータリアお坊ちゃんは生物学サボっていらっしゃいましたね。と更に困った顔をしたのである。




090605



約十年前に趣味を詰め込んでサイトに掲載しました。そのまま持って来てますが、性癖は変わってないです。

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