表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
現人神になりまして  作者: 紙禾りく
第一章
6/33

第六話

 大橋を適当にあしらい。ようやっと、家に帰ってくることができた。階段を上り、自室に入ると、ベッドに倒れこむ。


「はぁー。疲れた」

 佐々木さんに呼び出され、大橋にもからまれ。しかも、昨日の今日である。俺の精神はかなり疲弊していた。


「なんじゃ。随分と疲れておるの」

 上から照子の声が聞こえ、仰向けになると、天井をすり抜けて風ちゃんが現れるのが見えた。

 丁度、風ちゃんは俺の真上にいるので、照子の姿は見えない。


「学校でいろいろあってな。で、そっちは何か成果があったのか?」

 俺の体を元に戻す方法を探して、知り合いの神の所へ行っていたのだよな。何か良い情報が得られたのか?


「いいや。残念ながら、良さ気な話は聞けなかったの。やはりお主に力を渡した阿呆を、探さねばならぬようじゃ」

 ひょっこりと風ちゃんの上から、照子の顔だけが現れる。風ちゃんの上にうつ伏せに寝そべっているようだ。


「そうか。それは残念だ」

 少しは期待していたのだが、そう簡単にはいかないらしい。ああ、それはそうと聞きたいことがあったのだった。


「ちょっと、聞きたいことがあるのだが……」

「なんじゃ?」

「妖怪が見える人って、けっこういるのか?」

 佐々木さんのことを聞いておこう。


「いや、それなりに珍しいの。滅多に見える者はおらん」

「ふむ。そうなのか……」

 やっぱり、そうそう見える人がいるわけじゃないんだな。


「それで、それがどうしたのじゃ?」

「ん? ああ実はな。今日学校で後輩にからまれたのだが。その子は昨日、妖怪に襲われたときの俺を、見ていたらしくてな」


「ああ、そういえば確かにおったの」

「えっ? 気付いていたのか?」

「無論じゃ」

「はぁー。それなら教えてくれよ」


 妖怪が見えない者から見れば、昨日の俺は一人で騒ぐ不審者だった。佐々木さんはたまたま妖怪を知っていたから事なきを得たが……。

 

「そんなこと知らぬわ。気付かぬお主が悪いのじゃ」

 どうでも良さそうな照子。

「まあいい……。それでな。その子なんだけど、妖怪を知っていてな。というのも昔、妖怪を見ることができたらしい」


「ほう。ならば何も問題はないではないか」

「まあな」

「しかし気になるの……。確認じゃが、そ奴は今はもう見えないと言ったのか?」

「えっ、ああ、そう言っていたぞ」


「うーむ」

 なにやら難しい顔をする照子。

「どうした? 何が気になる?」

 今の話のどこに引っかかりを覚えたのだろうか?


「見えなくなったというのが気になるのじゃ。というのも、その手の才能は一生のものだからじゃ」

「つまり、妖怪が見える人間は一生妖怪が見え。突然、見えなくなったりはしないというわけか」


「うむ、その通りじゃ。見えなくなるということは普通ありえん。ゆえ、それが見えなくなったということは……」

「ことは?」


「外部から何かしらの要因が関わったと考えられるのじゃ。ほれ、お主も現人神となったことで、後天的に見えるようになったじゃろ」

 ふーむ、そういうものなのか。外部の要因ねぇ……。佐々木さんも見えなくなったきっかけ、要因があるのか。


「気になるのじゃ。明日、そ奴を見に行くぞ」

 ええ……。それってつまり学校までついてくるってこと? 構わないけどさ。人前で話しかけられても相手はしないぞ。


「言っておくが、学校でおまえの相手はできないからな」

「心得ておる」

 まあ、わかっているなら、勝手について来れば良いだろう。俺も少しだけ気になるしな。




 翌日、学校に到着した俺の隣には、風ちゃんに腰掛けた照子がいた。宣言通り、照子は学校についてきたのだ。

「ほう。ここがお主の学校か」

 興味深そうに周囲をキョロキョロと見渡す照子。


 それを尻目に俺は教室に向かう。

「おう。おはよう。今日の放課後、わかってるだろうな」

「わかってるよ。木下を問い詰めるんだろ」

 教室に入ると、大橋に声をかけられた。


 その後は大橋と取りとめもない話をしていると、一時間目の開始を告げるチャイムがなった。一時間目は数学だ。

 いつも通りまじめに授業を受ける俺。照子は風ちゃんに乗って、教室の中を飛び回っている。


「のう。ここは暇じゃの」

 俺の近くへ戻ってきた照子。早くも学校に飽きたらしい。

『だから言っただろ。昼休みに来いと』

 俺はノートの端を使い筆談する。


 佐々木さんを見に行くのは、時間のある昼休みにするつもりだと、照子にはきちんと昨日伝えた。

 さらに、学校について来ても退屈だから、昼休みの時間に来いとも伝えたのだ。それなのに朝からついてきた照子。


 まったく、こうなるから言ったのに。

「うーむ。その辺でも回ってくるかの」

 そう言うと照子は雷ちゃんを召喚。俺の護衛として雷ちゃんを教室に残し、教室から出て行った。


 そして待ちに待った昼休み。

「窪田。飯、一緒に食おうぜ」

「悪い、ちょっと用事があってな」

 昼食をともにしようという大橋の誘いを断り、俺は教室を出る。


 後には風ちゃんに乗った照子が続く。

「はぁー。ようやくか……。さて、それで佐々木とやらは、何組なのじゃ」

 廊下を進む俺に照子が尋ねる。うーむ、佐々木さんにメールでも送り、先に確認しておけば良かった。


「さあな。まあ、六クラスしかないんだ。全部見れば良いだろう」

「うーむ。そういうことは確認しておいて欲しかったのう。気が利かん奴じゃ」

「悪かったな」

 うーん。まあ、返す言葉もない。


 そんなやり取りをしつつ、一学年の教室にやって来た。まずは一組を……。

「おったか?」

 無言で一組を後にする俺。佐々木さんは一組ではなかった。その後も二組、三組と周っていく。


 そして四組に辿りついたところで、とんでもないものを見た。うわ! あれって! 

 窓際、後ろから二番目の席に座っている女子の隣に、佇んでいる黒く、ずんぐりした妖怪。俺を襲った奴にそっくりだ。


 おいおい。どういうことだ! がばっと照子のほうを向いた俺、身振り手振りで妖怪の存在をアピールする。

 もっとも、そんなことをするまでもなく照子は気付いていたようで……。


「あれは、二日前の妖怪じゃな」

 事も無げな様子の照子。どうでもよさそうな、まったくもって興味がなさそうな態度である。

 てっ、やっぱり同じ妖怪かよ! 再度、妖怪のほうを見る。


 すると、丁度妖怪もこっちを見ていた。ぎょりと大きな目玉と俺の視線が交差する。その瞬間!

 突然、妖怪は頭から紐のように縮み。するすると横にいた女子生徒の体の中へと入っていく。


 えええ! どういうこと?

「ふむ。憑かれておるようじゃな」

 驚き固まる俺の横で照子が淡々と言った。疲れている? ああ、憑かれているか。なるほど憑かれているね。


 え! 憑かれている? とり憑かれているってことか! おいおい、それって大丈夫なのか?

 俺は慌てて、照子の腕を掴むと廊下の隅のほう、人気の少ない所へと照子を引っ張っていく。


「おい。それはどういうことだ?」

 近くに人がいないことを確認し、小声で照子に尋ねる。

「そのままの意味じゃ。とり憑かれておる」

 腕を掴んでいた俺の手を払いのける照子。


「それって、不味くないか?」

 とり憑かれているって、絶対やばいよな。

「まあ、不味いじゃろうな」

 焦る俺とは対照的に、どこまでも、まったく気にした素振りのない照子。


 まるで、妖怪にとり憑かれた女子生徒のことなど、どうでも良いと思っているみたいで……。

 そこまで、考えたところで後ろから声をかけられる。


「あれ? 窪田先輩、ここで何をしているのです?」

「え! ああ、佐々木さんか。……君を探してたんだよ」

 やむを得ず、俺は一旦、照子との会話を中断する。佐々木さんに会えたのは良かったが、もはやそれどころではない。


「おお。こやつがそうか。どれどれ……」

 マイペースに本来の目的、佐々木さんの観察に取り組む照子。風ちゃんに乗ったまま、佐々木さんの周りを一周する。


「私にですか? 何の御用でしょう」

 佐々木さんが尋ねてくる。うっ。そういえば、咄嗟に佐々木さんを探していたと答えてしまったが。

 本来は遠くから見るだけのつもりだった。


 何か、適当に用事を作らなくては……。

「な、何組なのか気になってさ」

「え! そんなことでわざわざ? メールで聞いてくれれば良かったのでは?」

 仰る通りです。それくらいメールで済む話である。


「まあ、そうなんだが……。ちょっと他に一年のクラスに用事があってな。ついでだったし、確認しとこうと思ってさ」

「なるほど。そうだったのですね。ちなみに私は、五組ですよ」


「そうなんだ。じゃあ、昼食も食べないと行けないから、俺は戻るよ」

 さっさと話を切り上げ。俺はその場を立ち去る。さっきの妖怪が気になって、自然と早足になった。

 早く、人がいない場所へ向かわなくては……。


 そうして、人通りの少ない廊下までやってくると、後ろについて来ていた照子に詰め寄る俺。

「さっきの話の続きなんだが、妖怪にとり憑かれているって、絶対不味いだろ! なんとかできないのか?」


「うーむ。そうは言ってものー。昨日も言ったが、今の妾に化生を祓う力はないのでの。どうしようもできぬな」

 そう暢気に答える照子。なんだよその態度、もう少しなんか……。


「ほっといたらどうなるんだ?」

「さあの。まあ良くないことが起こるのではないかの」

 やはり、まったく真剣そうに見えない照子の態度。他人事みたいにどうでも良さそうである。


 そんな照子の態度に、俺は思わず語気を強める。

「おいおい。神様だろ。なんだよその態度は!」

 妖怪にとり憑かれているんだぞ! それも、俺を襲ってくるような奴にだ! それなのに、そのやる気のない態度はなんだ。


 神様ならもっとこう……。

「思い違いをするな!」

 俺の思考は照子から放たれた、ぴしゃりとした言葉に遮られる。照子の雰囲気がおっとりしたものから、厳格なものに……。


「そもそも妾は、天気の神じゃ。ゆえに天気以外のことは専門外。それに神様じゃからと、頼るのはお門違い……」

 滔々と語られる照子の言葉。


「妾たち神は万能でもないし。願い事をいちいち叶えてやるわけでもない。甘えるではないわ!」

 うぐっ。確かにそうかもしれない。神様だからと、俺は勝手なイメージを押しつけていたかもしれない。


 神様なら、困っている者に救いの手を差し伸べてくれるというのは、俺の勝手な思い込み。

 ましてや、そもそも照子は妖怪をどうこうできる力はないと、再三言っていたではないか。


 だけど……。だったら、あの子は……。妖怪にとり憑かれたあの女子生徒は、いったいどうなるんだよ。


「だけど……、ほうっておけないじゃないか。ほうっておいたら悪いことになるんだろ?」

「それがお主と何の関係がある? 今日会っただけの他人じゃろうが」


 それでも目の前に困っている人や、苦しんでいる人がいたら、なんとかしてやりたいと思うもんだろ?

 意外だ……。どうやら俺は、けっこうお人好しな人間だったらしい。


「それでも、ほうっておけない。なあ、ほんとにどうにもならないのか?」

「……やれやれ。お主、意外に阿呆じゃのう。まあ、そういうの奴は嫌いではないが……」

 照子の雰囲気が柔らかいものに戻った。


「仕方あるまい。解決策を教えてやるわ。もっとも、すべてはお主にかかっておる。心して聞くのじゃ」

 なんだ、解決策がないわけじゃないのか。しかし、俺にかかっている? それはどういう意味だ?


「まず、あの娘の状態から説明するのじゃ。妖怪にとり憑かれるということは、心を妖怪に蝕まれるということじゃ。それは……」

 照子は語る。


 妖怪が人間にとり憑く理由は、人間の心を蝕み力を増すため。妖怪はとり憑いた人間の心を弱らせ、生気を吸い取るらしい。

 ゆえに、妖怪にとり憑かれた人間は、だんだんと弱り、最終的に死に至る。


「もっとも、あの娘にとり憑いておる妖怪は、そこまでの力はない。心を蝕むが、とり殺すことはできん」

 それでも、心が弱れば死にたいと思うようになり、自ら命を絶つものもでてくるようで。


 ゆえ、どんなに力の妖怪でも、とり憑かれれば命の危険があるそうだ。予想以上に状況は悪いじゃないか!

「そして、あの娘の場合じゃが。心が相当弱っておる可能性がある」

 照子はそう締めくくる。


「なるほど、状況は理解した。それで、解決策は? いったいどうすればいいんだ?」

 そろそろ肝心の話を聞かせてくれ。

「ふむ。それはの……。お主が妖怪を祓うのじゃ!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ