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現人神になりまして  作者: 紙禾りく
第二章
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第四話

 休み明けの月曜日。いつも通りに授業を受けた俺は、放課後の教室で雷ちゃんとともに、照子が来るのを待っていた。

 照子の奴、ちょっと遅いな。六時間目が終わる時間を、待ち合わせの時間に指定したというのにな……。


「幸一。来てやったぞ」

 噂をすればなんとやらというやつで。教室の窓からふよふよと、風ちゃんに乗った照子が現れる。

 遅いぞ。まあ、ちゃんと来てくれたので文句は言わないが。


「さて。さっさと西原とやらの所へ行くのじゃ」

「ああ」

 遅れてきたくせに急かしてくる照子。俺は少しむっとしつつも、さっさと行くことには賛成なので、美術室へ向かう。


 これから俺は西原先輩にお願いして、梓さんに手鏡を見せてもらえるように交渉してもらい。

 そして、交渉が成功したら、照子に手鏡に憑いているものを検分してもらう予定だった。


 照子を連れて、美術室へ急ぐ俺。西原先輩には、放課後話があると伝えてあったので、待っているはず。

 待たせては悪いとの思いから、若干早足になる。そうして、美術室まで辿り着いた俺は、扉を開け。中に。


「おっ。窪田くん。来たか」

 窓際に立ち、窓から校庭を見下ろしていた(美術室は三階にある)西原先輩は、扉が開いた音に反応して振り返った。


「どうも。西原先輩。お待たせしました」

「それで、話とは何かな?」

 俺が挨拶しながら美術室に入ると、西原先輩はさっそく要件を聞いてきた。


「少し頼みがありまして。えっと……。一昨日、うちのクラスのフリマで。先輩の友人、梓さんが手鏡を買いましたよね」

「ああ。記憶に新しいね」

「実はその手鏡の意匠が気になって。もう一度見たくなりまして」


「ふむ……。美術部員として。何か琴線に触れるものがあったと。そういう類の話かな?」

「ええ。それでまあ、先輩から梓さんに見せてもらえるよう、頼んでもらえないかと、お願いにきたわけです」


「あの手鏡に施された螺鈿細工は、そう珍しい意匠ではなかったと思うが。ネットで調べれば似たようなものは出てくるよ」

「そうなんですか? いや、えっと……。あの手鏡はいくらか古ぼけていましたよね。その古さに。ビビッときたと言いますか……」


 うーむ。俺は何を言っているのだろうか? もう少し、話をどう運ぶか。入念にシミュレーションしとくべきだったか……。


「こう。言葉にするのは難しいのですが……。感性が刺激されたというか。ともかく、他のじゃたぶん駄目だと思うんですよ」

「なるほど。あの手鏡に、インスピレーション。直感的に何か、感じるものがあったと。それなら、確かに代品では駄目かもしれないね」


「ええ。そうなんですよ。だから、お願いできませんか? もう一度じっくり見たいんです」

 さすがは芸術肌の西原先輩だ。咄嗟に出た、俺のよくわからない言い訳を、勝手に補完してくれた。


「そういうことならば、梓にお願いしてみよう。ただ、梓が協力してくれるかどうかは、正直微妙なところだね」

「それでも構いません。お願いできますか?」

 よし。とりあえず第一関門は突破した。あとは梓さん次第……。


「じゃあ、携帯を貸してくれるかい?」

「どうぞ」

 西原先輩はすぐに梓さんに頼んでくれるようだ。俺の携帯を受け取ると、番号を入力して耳に当てた。


 そうして、しばらくすると……。


「はい。もしもし」

「梓か」

「あれ? 沙代(さよ)じゃん。なに。ついに携帯買ったの?」

「いいや、後輩の携帯を借りているだけだよ」


 電話口から聞こえてくる梓さんの声は大きめで、俺の耳にもしっかりと聞こえてくる。


「あー。そうなんだ。それで? 何か用だった?」

「ああ。ちょっとお願いがあってね」

「何?」

「一昨日、うちの学園祭でフリマに行ったのを覚えているか?」


「覚えてるけど」

「そのとき。美術部の後輩がいただろう」

「うーん。なんかいたような気もするけど。よくは覚えてないわ」

「そうか。この携帯の持ち主が、その後輩なのだが」


 サバサバと、軽い調子で話す梓さん。


「あっ、そうなんだ。それで?」

「実は、その後輩が梓が買った手鏡を見たいと。そう言っていてね」

「はー。うーん。そうなんだ」

「それで、できれば見せてくれると助かるのだが」


 さて。どうなるか……。


「え! それは面倒。ごめん無理だわ」

「そこを何とかお願いできないかな? もちろん、こちらから会いに行く」

「いやー。そんなこと言われてもさー。沙代の後輩っていっても。私からすれば、赤の他人だしさ。無理だよ」


 どうにも雲行きはよろしくない。


「そう言われると、痛いね。だけど、ちょっと見せてくれるだけでいいんだ。それでも無理かな?」

「うーん。沙代の頼みでも。無理なものは無理……。あっ! じゃあ。写真とってメールで送るよ。後輩くんのアドレス教えてくれる?」


「それは……。仕方ない。妥協しよう。窪田くん、君としては実物が見たいだろうけど。どうも難しいみたいでね。我慢してくれるかい?」

 うーん。正直、それでは意味がないのだが。ここで、実物が見たいとは食い下がれない。仕方ない。


「ええ。それで構いません。アドレスは……」

 俺が携帯のアドレスを口頭で西原先輩に伝えると。西原先輩はそれをさらに、梓さんに伝える。


「ほい。じゃあ、後でメール。送っとく」

「頼む」

「じゃーね」

 梓さんが電話を切った。交渉は失敗だな。


「やれやれ。せっかく出向いてやったというのに。どうやら、無駄足だったみたいじゃな」

 事の成り行きを見ていた照子が、背後でつぶやく。うーむ。照子、せっかく来てもらったのに悪い。


「すまない、窪田くん。実物を見たほうが良かっただろうが、うまく交渉できなかった」

「いやー。まあ、無理を言ったのは俺なので。ご協力ありがとうございました」

 西原先輩が差し出した携帯を受け取り、礼を言う。


 うーむ。手鏡を見せてもらうくらいなら、梓さんにもなんとか承諾してもらえると思っていたが。見通しが甘かったか……。

 とりあえず。思いのほか、西原先輩が罪悪感を覚えているようなので、話題を切り替えよう。西原先輩は頑張ってくれた。


「しかし先輩。梓さんとはどういった関係なんです? 言ってはあれですけど、けっこうタイプ違いますよね」

 西原先輩は男っぽい口調だが。その実、線の細い儚い系の美人さん。ロングの黒髪に眼鏡。素朴な印象を受ける顔立ちで、大人しい見た目。


 対して梓さんは、ウェーブのかかったショートの赤毛に、派手なメイクと服。目にも赤いカラーコンタクトを入れていたし、かなり派手め。

 二人とも、容姿はかなり整っているものの、かなり方向性が違うと思う。並んでいると同じグループには見えないだろう。


「ふむ。そう言われるとそうかもしれないね。でも、幼稚園からの付き合いだから。気にしたことはなかったよ」

「ああ。そういう。それなら納得です」


 幼馴染。そういう関係で始まって、大きくなってまったくタイプが違っても、友達のままでいる相手って、いますよね。

 その後、しばらくの間、西原先輩と他愛のない話を続け……。それを適当なところで切り上げた俺は、家へと帰る。




 そうして、その日の夜。夕食を食べた後、デスクに座ったまま、またしても俺は悩んでいた。


「うーん。どうしよう」

 正直、手鏡を見せてもらえなかった場合のことは、考えていなかった。

「うじうじと……。まだ悩んでおるのか」

 そう言った照子は、ベッドに寝そべりテレビゲームをしている。


「やっぱり気になってな」

「うーむ。気にしても仕方ないじゃろ。ほうっておけば良いものを、まったく物好きじゃな」

「そうかもな」


 照子に適当に返し、デスクの上に置かれた携帯を開く。まだ、梓さんからメールは届いていないか……。

 写真を送ってくれると言っていたが、あれは方便だったのだろうか。まあ、別に写真は入らないのだけどさ。


 うーん。やっぱり、気になって仕方がない。佐々木さんから、いろいろやばそうな話も聞いたし……。

 あの手鏡、いったい何が憑いていたのだろうか? 梓さんに不幸なことが起こらないといいけど。


 そんな風に不安を覚えつつ、携帯を操作して発信履歴を開く。そこには見覚えのない電話番号。梓さんのだ。

 その番号を眺めながら思う。こうなったら、いっそのこと本当のことを話してみるというのは、どうだろうか?


 梓さんに電話して、学園祭で俺が見た眼のことを伝えるのだ。加藤さんのときみたいに、俺は祓い屋、霊能者だということにすれば……。

 いや、たぶんそれでも信じてはもらえないだろう。頭がおかしいと思われ、気持ち悪がられるのがおちだ。


 ただ、手鏡に何かが憑いており、それが不幸を呼び寄せることを、梓さんに伝えておくことにはメリットがあるかも。

 もし、伝えておけば。何かが起こったとき。すぐに手鏡のことが頭に上るだろうし。相談する相手の候補に、俺という選択肢が出てくる。


 もっとも、何も起きなかった場合には、俺は変人というレッテルを張られることになるわけだが……。

 しかし、俺の名誉と引き換えにしても。何もできない現状、この案は大変魅力的に思えた。


 よし! 梓さんに電話して、本当のことを打ち明けよう。そう結論付けて、綿密に言葉を選ぶ。

 えっと、俺は霊能者。手鏡に何か憑いている。その憑いているものが悪さ、不幸を呼び寄せる。


 とりあえず、伝えるべき最低限はこれらだが……。


 うさんくさ過ぎる。こんな内容を、電話口で話し始めたら。気味悪がって切られる可能性が高い。

 となると、なるべく簡潔に、梓さんが電話を切ってしまう前に、とにかく強引に話してしまうべきで。


 そうなると、ちゃんと話すことを纏めて……。


 俺はノートを開き。いろいろ言葉を考えながら、メモしていく。そうして、しばらくして原稿が完成する。

 まあ。これで大丈夫だろう。あとは行くのみ。一度、心を落ち着かせるため深呼吸。覚悟を決め。


 携帯の発信ボタンに指を……。おっと!


 もう少しで発信するタイミング。そこで、メールの着信音が。知らないアドレス。おそらく梓さんからだろう。

 すぐに開くと予想通り、そのメールは梓さんからのようで、何枚か手鏡の写真が添付してあった。


 ふむ。丁度良いタイミングにメールが来た。今なら、電話をかけても写真のお礼の電話だと思ってくれる可能性が高い。

 電話に出てもらえる確率が上がった。どうやら追い風が吹いている様子。この機会を逃さないよう。すぐに発信ボタンを押す。


 携帯を耳に当て、緊張しながら呼び出し音を聞くこと少し……。


「はい。もしもし」

「あっ。もしもし。梓さんですか?」

「そうだけど。沙代の後輩くんかな?」

「はい。そうです。西原先輩の後輩の窪田です」


「そう。それで? 何か用?」

「えっと。写真をありがとうございます」

「ああ。それでわざわざ、電話してくれたわけね」

「はい。あとひとつ聞いて欲しいことが」


 当たり障りのない挨拶から、すぐに本題に持っていく。


「手鏡を見せて欲しいって話なら、無理だよ」

「いえ。それとは別件です」

「そうなの? 何?」

「あのですね。変なことだと思われるかもしれないのですが……」


 そこで、一呼吸。さあ、行くぞ!


「実は私、霊能力者でして。人には見えないものが見えるんです。それで、あの手鏡に何かがとり憑いているのが見えまして」

「はぁ? 何言ってんの、あんた」

 いや、まあ。そういう反応になりますよね。だが、強引に進めさせてもらう。


「というのも。あのとき、梓さんが手鏡を購入したとき。手鏡に浮かぶ眼のようなものが、私には見えていたのです」

「えっと。意味わからないのだけど」

 困惑した様子の梓さん。声のトーンが下がった。


「それで。非常に心配になりまして。手鏡を購入してから、何か変なことが起こっていませんか?」

「……」

 一方的に言いたいことを言う俺に、梓さんはついに黙りこむ。


「何か起こっているなら、手鏡に憑いているものが悪さをしている可能性が。また、そうでなくとも、これから何か起こることも」

「ちょっと待って。本当に意味がわからない。変なこと言うの、やめて欲しいんだけど」


 梓さんの声は、非常に兼のある声になっていた。そろそろ切られそう。


「とにかくです。できれば一度、手鏡を見せてください。そうすれば、手鏡に何が憑いているか。すぐに――」

 おっと、やっぱり切られたか。まあ、すでに言いたいことは、ほとんど言ったから良いけどな。


「随分と思い切ったことをしたの」

 携帯を耳から離すと、照子が話しかけてきた。ゲームに集中しているように見えて、こっちのやり取りを聞いていたらしい。


「ああ。だが、これで何か起こったときは、すぐに俺に連絡してくれるだろ」

「ふむ。なるほど、そういうことか。ただ、何も起こらなければ、お主は頭のおかしい奴だと思われるじゃろう」

「それは覚悟のうえでやったから、問題ない」


「ふむ。まあ、納得しておるのなら、何も言うまい」

「そうか」

 さて。とりあえずできることはやった。後は待つしかあるまい。今日のところは、風呂に入って寝ることにしよう。

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