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現人神になりまして  作者: 紙禾りく
第一章
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第一話

「明日の天気は……」

 俺は寝る直前、諦めきれずに携帯を使い。明日の天気予報を確認していた。すると、予想通りの結果にがっかりする。

 降水確率八十パーセントね……。


 天気予報がこの結果。さらに、俺が晴れて欲しいと願っていることを加味すると。明日は間違いなく雨だろう。

 なにせ、俺はかなりの雨男である。今まで晴れて欲しいときには、ことごとく雨が降った。ゆえ、明日も晴れるはずがない。


「この分だと、明日の体育祭は延期か」

 うーん、来週の予定が潰れてしまう。体育祭は雨天の場合、一週間先に延期される。だが、来週には予定があった。

 だからこそ明日は晴れて欲しかったのだが、この分では望み薄である。


 くそー。いつものことだけどさ。たまには晴れてくれても良いじゃないか。いつもいつも、雨ばっかり。

 旅行とか、楽しみにしている行事のとき、俺が晴れて欲しい日はいつも雨。もし、神様がいるのだとしたら……。


 きっと俺の事を嫌っているに違いない。そんなことを考えていたら、いつの間にか眠っていたようで。


「痛て! ううぅ……」

 翌日、寝起きは最悪だった。ベッドから転落して目が覚めたからだ。それに変な夢を見てしまった。


 怪しげな人物の出てくる夢。黒い靄のような人型の怪しい人物が、自分は神だと名乗り。「俺を晴れ男にしてやる」と……。

 そして、そいつが俺の額に触れると、頭に痛みがはしり目が覚めた。まったく、わけのわからない夢だ。


「なんだってんだ」

 額をさすりながら起き上がる。妙に現実感のある、はっきりとした夢だったな。しかし、神なんてうさんくさい。

 俺を晴れ男にしてくれるって?


 それなら、手始めに今日の天気を晴れにしてみせろっての。そう思いながら、窓に近づき、カーテンを開け、言葉を失った。

「えっ……」

 晴れてる……、だと。窓の外に広がる雲ひとつない青空。


 マジか。降水確率八十パーセントだぞ。なのに、まさかの晴天だと! まさか、本当に俺が晴れ男に……。

 なんてな。そんなわけはないだろう。天気予報だって絶対じゃない。予報が外れたのだ。


 それにしても、晴れて欲しいと願った日に雨が降らなかったのは、一体何年ぶりだろうか。

 珍しいこともあるものだ。まあ、ともかくこんなに嬉しいことはない。これで、来週の予定も潰れない。


 寝覚めの悪さから一転、機嫌が良くなった俺、洗面所に向かう。


「あれ?」

 身だしなみを整えるため、鏡の前に立った俺だったが、そこでありえないものを目にしてしまう。

 寝ぼけているのかな。俺の髪の色が変わって見える……。


「何これ? どうなってるの?」

 なぜか金髪になっている俺の髪。稲穂のように輝く金色……。目をごしごしとこすり、鏡を見る。

 しかし、現実は変わらない。


 えっ! 一体どういうこと?本来の俺の髪の色は日本人らしい黒髪。間違ってもこんな色ではないぞ。

 なんで? どうしてこんな色に……。


「うぇ!」

 パニックに陥っていると、背後から声が聞こえた。振り返ると二歳年下の妹、恵美(えみ)の姿。

 間抜けにも口を大きく開け。ひどく驚いた顔を晒している。


 妹よ。さっきの声もそうだが、その間抜け面も女子として、いかがなものだろうか……。

 いやいや、そんなことはどうでも良い! 思わず現実逃避してしまった。


 もう一度、鏡のほうを見る。相変わらず、派手に存在を主張する金髪。似合ってないなぁー。

 俺の容姿は至って平凡、さほど悪くもないが良くもなく、平均的な容姿だと自負している。


 そんな容姿なので、頭に乗っかる少しカールした派手な金髪のミディアムヘア。それはひどくミスマッチであった。

 うーむ、ほんとに似合わない。とっ、またまた思考が逸れた。似合っているとか、そんなこと。どうでも良いのだ。


「お母さん! ちょっと来て! お兄ちゃんが不良になっちゃった!」

 おいおい妹、金髪だから不良って……。

「もう。朝から大きな声を出さないの」

 妹の声に呼ばれた母が、洗面所にやってくる。


「あらあら。まあまあ」

 俺の姿を見た母は、おっとりした笑みを浮かべ、俺に近寄ってくる。

「ちょっと、(こう)ちゃん。イメチェンかしら? でもねー。方向性が間違っていると思うの」


 のんびりと的外れなことを言い出す母。まったく驚いた様子はない。いやいや、イメチェンて。

 それで済ますの? 普通、もう少し驚かないか? だいたい、内気な俺が髪を金色に染めると、本気で思っているのか?


「だよね。お兄ちゃん。はっきり言うけど、これはないと思う」

 母に続いて妹も失礼なことを言う。

 確かに似合ってないのは俺自身も認めるところだが。ほっとけよ! もとい、論点がずれている。


 このままでは、この異常事態が突然のイメチェン。それも若者にありがちな、間違った方法へのイメチェン。

 それで片付けられてしまいそうだ。それは困る。

「いや、違う。朝起きたら髪の色が変わっていて――」


「なかなか綺麗に染めたわね」

「確かに、これはなかなか……」

 まったく俺の話に取り合わず、髪の毛を無遠慮に弄る母と妹。その手つきはいささか乱暴だった。


「ちょっと、痛いから」

「あら。ごめんなさい」

「ごめんごめん。にしても本当に綺麗に染めたよねー」

 文句を言うと手を引っ込める二人。妹はひどく感心した様子。


「いや、だから染めたわけではなくて――」

「大丈夫よ。照れなくても。似合っていないこともないわ」

 必死に言い募ろうとする俺だったが、母は照れているのだと思い込み。まったく取り合ってくれない。


「いや、だから違くて――」

「はいはい。わかったから。そろそろ準備しないと遅刻するわよ」

 尚も言い募ろうとする俺だったが、母に遮られる。


「あっ! 私も待ち合わせに遅れちゃう。どいてお兄ちゃん!」

 乱暴に俺を押しのける妹。いや、ちょっと待って。話を聞いて。二人ともまったく取り合ってくれなかった。




「で。どうすんだよ。これ……」

 家を出た俺。なんとか金髪を隠そうと被った帽子を、深く被り直す。正直、こんな髪のまま、学校に行きたくなかった。

 しかし、母によって家を追い出されては、致し方あるまい。


 まあでも、やっぱり学校へは行けない。どちらかと言えば地味目の俺が、こんな髪で登校したら、どんなことになるかは目に見えている。

 皆にいじられるか。あるいは腫れ物にでも触るかのよう遠巻きに……。最悪、いじめに発展する可能性もあるだろう。


 とにかく、一気にクラスで目立つ存在となることは間違いない。俺は平穏な毎日に満足しているというのに……。とんだ災難である。

 やはり、学校には行けない。ともかく今は、どこか落ち着いて考え事のできる場所を目指す。学校とは反対方向へと歩き出した。


 そもそも、いきなり金髪になるって、どういうことなんだ? もちろん自分で染めた記憶なんてないし。

 俺の髪は昨日まで、間違いなく黒色だった。母や妹の悪戯か? いや、そんな大掛かりなことはすまい。


 正直、原因に心当たりなどまったくない。くっ、あれは……、不味い。正面から近づいてくる制服姿の男。

 あれは、友人でクラスメイトの大橋(おおはし)だ。くっ、こんなときに。見つかると面倒だ。逃げなければ。


 慌てて方向転換する俺だったが、すでに遅かった。

「おーい。窪田(くぼた)、一緒に学校に行こうぜ!」

 くそ。やってしまった。もっと知り合いの少ない通りを進むべきだった。いや、後悔は後回し。


 ともかく、何か言い訳を考えなくては。少しでも考える時間を得るため、大橋の声が聞こえていないふりをして、歩き続ける。

 しかし、すぐに大橋に追いつかれた。


「おーい。聞こえないのか?」

 俺の肩を後ろから軽く叩く大橋。

「おお、大橋か。悪い、考え事してた」

 今、気付いたという風に振り返る俺。どうやって髪の色を誤魔化そうか……。


「おう、そうか。一緒に学校行こうぜ」

「お、おう」

 変だな。大橋はいつもと変わらない態度だ。普通、友人がいきなり金髪になったら驚き、理由を問いただすと思うのだが。


 それとも気付いていない? いや、それはないだろう。一応、髪を隠すために帽子を被ってきたが、所詮付け焼刃。

 この距離まで近づかれれば、気付かないはずがない。ならば、気付いていて敢えて触れないのか?


「にしても帽子なんて珍しいな。あっ! さては寝坊したな。それで寝癖を隠そうとして」

 いやいや、確かに俺が帽子を被っているのは珍しいかもしれないが、そうじゃないだろ。


 他に触れるべきところがあるだろう?いやまあ、別に触れて欲しいわけじゃないのだけどさ。

 でも、なんだか触れられないのもそれで……。くっ、もやもやする。まさか、からかっているのか?


「別に寝坊したわけじゃない。それより。この頭、どう思う?」

 こうなったら、もうストレートに髪の色について、追求されたほうがマシだ。

「うん? 頭? ああ、帽子なら似合ってないぞ」

「そうかぁー。似合ってないかぁー」


 うーん。おかしい。てっきり、俺の金髪に気付いたうえで、敢えてつっこまず。泳がせてから、もて遊ぶつもりかと思ったが。

 どうもそうではなさそうである。大橋は本当にいつも通り。俺の髪のことなど、まるで気にした様子はない。


 どういうことだ? 疑問に思った俺は携帯を取り出し、カメラ機能で自分の姿を確認する。あれ?

 そこには昨日とまったく変わらない姿、黒髪の俺が写る。なんでだ? 髪の色が元に戻っている。


「んなことよりさー。体育祭とかだるいよなー」

 隣で大橋が何事か話しているが聞き流す。それどころではなかった。どういうことだ?

 なぜ、元に戻っている?


「天気予報は雨だったから、延期になると思ってたのに、普通に晴れてるしさー」


 もしや、今朝のあれは、見間違いだったとでも言うのか? いいや、そんなはずはない! 

 母と妹にも、しっかりと金髪に見えていたのだ。いくらなんでも、三人揃って見間違うはずがない!


「今日、延期で来週も雨なら。中止もありえたってのに、ほんと残念だったよな」


 ならどうしても今、元の色に戻っている? 戻ってくれたのは素直に喜ばしいことだが……。

 問題もある。原因がわからない以上、再度金髪になるかもしれない。


「おーい。窪田? 聞いてるか?」


 そんな状況で学校に行っても良いものか? 最悪クラスメイトの前で、再び髪の色が変化するかもしれないぞ。

 そうなったら最悪である。やっぱり休むか。


「おい窪田! 聞こえてないのか?」

 おっと! 不味い。考え事に集中し過ぎていた。目の間には困惑した様子の大橋の顔が。


「悪い大橋。聞いてなかった」

「おいおいなんだよ。ぼーっとして。体調でも悪いのか?」

 おっ、これは絶好のチャンス! 今なら自然な流れで病欠できそうだ。


「そうなんだ。実は――」

「おう! 大橋に窪田、おはよう。今日の体育祭、楽しもうな!」

 体調が悪いことにして病欠しようとしたが、割って入ってくる者が……。


 元気に話しかけてきたのは、木下(きのした)だった。木下も大橋と同じくクラスメイトで友人だ。

 しかし、まったくタイミングの悪い。


「おお! 木下か。俺らは体育祭なんて全然楽しみじゃないぞ」

 大橋が気だるそうに返す。ちなみに、木下は体育会系だが、俺と大橋は運動が苦手なインドア派である。


 しかし、参ったな。せっかく良い流れだったのだが。今からでも、なんとか切り出してみるか?

「それで窪田。体調は大丈夫か?」

 おお! 良かった。大橋が再度問いかけてくれた。これなら自然に切り出せる。


「実は――」

「なんだ窪田。おまえ、また体育祭をサボろうとしてるのか? 駄目だぞ」

 できるだけ気分が悪そうな演技とともに、話し始めた俺だったが、またしても木下に遮られる。


「ああ、そういや、おまえ。去年、仮病を使って休んだのだったか。じゃあ、今のも演技か」

 木下の言葉に同調をみせる大橋。くっ、日ごろの行いが悪かったせいで。これではもう病欠は使えない。


「はぁー」

 諦めるしかないか。

「元気がないな。もっとやる気出せよ!」

 俺の背中をたたく木下。すでに目の間には学校が見えていた。


 仕方ない。覚悟を決めるしかないようだ。今日一日、髪の色が変わらないことを祈りながら、頑張るしかない。

 そんな風に意気込み。それでもヒヤヒヤしながら、体育祭に臨んだ俺。しかし覚悟に反して、結局何も起こらなかった。


「じゃあ、またな」

 放課後、大橋や木下に適当に別れを告げ。俺はさっさと帰途に着く。にしても、まったくもって、疲れる一日であった。

 余計な神経を使い。ただでさえ疲れる体育祭の疲れが倍増したぞ。


「ただいまー」

 家に帰ってくると、すぐに二階にある自分の部屋へと向かう。その途中、階段を上った所で父に出くわす。


「おお幸一(こういち)か。あれ? 髪。染めたと聞いたが……」

 俺の頭を不思議そうに見る父。母か妹に今朝の出来事を聞いたらしい。とりあえず染め直したことにでもしておこう。


「やっぱり染め直したんだよ」

「そうなのか? まあ、好きにすれば良いが。ほどほどにしろよ」

 あまり興味もなかったのか。あっさりと引き下がる父。階段を降りていった。


「はぁー。疲れた」

 部屋に入ってすぐ、俺はベッドに倒れこむ。にしても。

「結局、なんだったのだろうか……」

 俺のつぶやきに答えるものはいなかった。

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