1-6空きっ腹は最高のソース。
さっき作った小屋に帰って来た。
枝肉にした前足の一本を亜空間ボックスから取り出す。
前足だけで四本あるしな。
炭はまだ作ってないので、魔法の直火焼きだ。
余った板をまな板代わりにして肉を切り分ける。
流石に腹減っててもこんなには喰えんのだ。
さくっと魔法で木の板から串を削り出し、肉に刺していく。
五本もあれば良いよな、足らなかったらもう一度焼こう。
左手で串を持ち、右手に魔力を集めていく。
イメージはガスコンロの弱火。
「あちちっ。」
あ、あかん、魔力を集める場所を遠ざけないと熱い。
これだから火魔法は難しい。
直ぐ射出するならそれほど気にならないけど、ずっと熱源が近くにあると火傷する。
魔法で肉を焼くのは諦め、作っておいた囲炉裏に、薪代わりにした板の端切れを入れ、火をつける。
手に持った串を火に近づけてみるとじゅわじゅわしてきた。
これでゆっくり肉が焼けるな。
熊肉からはワイルドなにおいがしてきている。
臭いっていうよな。
臭い消しのハーブとかあれば良かったんだが、ハーブは全然詳しくないので判らん。
これも試行錯誤で試すしかないな。
そんな事を考えつつ焼いていると、腹がぐうっと鳴いた。
確認すると中まではどうか判らんが、表面上は焼けたように見える。
火元から遠ざけ、ふうふうしながら一口かじりついてみる。
「うめぇ。」
空腹は最高のソースと言うが本当だ。
こんなに旨い肉って食った事があっただろうか。
ワイルドなにおいも気にならない。
体内に足らなかったものが満たされていく気分に浸りながら一本目を完食した。
二本目も美味しく頂いた。
三本目でちょっと臭みが気になった。
四本目になると、もう無理ってか、肉ばっかりだと飽きるな。
空腹な時は旨いが腹が膨れるにつれ美味しくなくなるのは何でだろうな。
考えたら塩コショウもないから味気ないともいえる。
うーん、まあ腹が膨れたから良しとしよう。
つか、塩って必要なんだよな。
何処で採れるのか、確認しないと塩分不足になってしまう。
今後に必要なモノリストがどんどん増えていくんだが。
それに、肉だけ食ってても良い訳が無い。
俺は農耕民族の日本人なので、穀物が食べたい訳だ。
野菜とかも欲しいな。
しかし、考えてみると食って人の基本なんだなと、この状況に陥った事で良く判るわ。
今日はこれで我慢して、明日に根菜とか探してみよう。
今日は色々あって疲れたよ。
ゆかりさん、本当にごめんね。
床に直接寝たので体がバキバキといてぇ。
昨日の熊の皮を鞣して毛皮にしよう、その下に枯葉でも入れとけばいいクッションになるんじゃないかな。
思い立ったら即行動、熊の毛皮を亜空間ボックスから取り出し、鞣そうとした。
要は腐敗とかしない様にタンニンの液に浸せば良いんだっけか。
タンニンって要するに渋柿とかの渋みだったはずで、その辺の草からでも採れた様な気がする。
小屋を出て、その辺の草を口に含んでみる。
うげ、青臭いだけで渋みがなかった。
次々と種類の違う草を口に含んでみて、いくつか渋みがあった植物を見つけた。
そいつらを有るだけ刈り取っていき、亜空間ボックスに放り込む。
土魔法で作った桶に草を出し、魔法で渋みを抽出する。
何が渋みかってのは、自分で口に含んだから解っているから割とすんなり抽出できた。
いらない分を乾燥させ、クッション材として使えるかなと思って取っておく。
タンニン液の方に熊の毛皮を入れ、浸透させるイメージで魔力を通していく。
お、なんか通ってる感じがする。
感じがするだけで本当に通ってるかは知らんが、行き渡った様だ。
なんか嫌だったので、水で洗ってから乾燥させた。
熊の毛皮だからゴワゴワしそうだと思ったが、余りそんな事も無く、ほわっほわの柔らかい毛皮になっていた。
小屋の隅に置いた乾燥植物の成れの果ての上に毛皮を被せてから寝転がってみると割といい感じだった。
今日は安眠で切るかも知れない。
何も食べずにベッドを作ってたら腹が減った。
昨日と同じく熊肉なんだが、今日は凍らせてあるんだよな。
解凍は魔法でやってみるかと思ったが、イメージが判らんかったので素直に火にあぶってやった。
氷から戻した肉はどうかと思ったが、普通に食えた。
この前見た奴だと骨を割って骨髄まで食ってたけど、肉がまだまだあるので其処まで行く気は無いな。
昨日の教訓か減ってても三本で充分と判っているので三本だけで止めた。
これでソースとかでもあれば違うのだろうけど、肉だけだと飽きるから無理。
野菜とか見つけてソースとか作りたいよね。
今後の食生活的にも。