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夢幻の国のアリス  作者: 深見 鳴
ChapterⅡ ハート城での日々と帽子を被った暗殺者
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第7話 ハート城の探索

 



 不思議の国へ来てから、一夜明けた。

 窓を開けると、爽やかな風が吹き寄せてくる。風を浴びたらいくらかスッキリした気分になった。ついでに窓から見えた景観と部屋の様相で、ここは自分の家じゃないなという現実も受け入れた。


「そりゃあスイートルームは楽しいけどさ……やっぱり家が一番だよね」


 早くもホームシックになってきた。ああ、帰りたい。

 そんなことを考えながらクローゼットの扉を開けて、アリスは自分の目を疑った。



 *



 しばらくすると、白ウサギが部屋を訪ねてきた。


「アリス、起きとる? 朝メシ持ってきたで」


 部屋に入ってきた彼は、リビングのソファに腰掛けているアリスを見つけてこう言った。


「似合てるやん」

「嘘つけ……」


 アリスはぐったりとソファの肘掛けにもたれる。今の姿を人に見られたくなかった。精神的にきつい。

 彼女が今着ているのは、パステルブルーのドレスの上に白いエプロンを重ねた、いわゆるエプロンドレスというやつだった。エプロンの肩紐やドレスの裾にはフリルやレースがあしらわれていて、いかにも女の子らしい。


「……クローゼットの中身全部エプロンドレスって、どうかしてるよ!」


 怒ってクッションを叩くアリスの前で、白ウサギは持ってきた朝食をテーブルに並べていく。朝食は文句なしに美味しそうだった。バスケットに入れられた数種類のパンに、コーンの冷製スープ、ツナとジャガイモのサラダ、スクランブルエッグ、ソーセージ、レンズ豆のバターソテー。

 鼻をくすぐるいい匂いに、怒りが誤魔化されそうになる。


「……朝から多くない? 食べ切れそうにないんだけど」

「無理せんでええよ。アリスが食べる量見てこれから調整してくってゆうてたから」

「ああなるほど……だから多めなのね」


 まずはバスケットからバゲットを取り、それにバターを塗って食べた。どうやら焼きたてらしい。しっかりした食感とほんのりとした生地の甘みが美味しかった。


「朝飯食うたら外に出よか」

「外?」

「かるーく城内案内しとこうと思てな。自分の生活エリアのことくらいは、大まかに知っときたいやろ?」

「えっ、行きたい! ありがとう!」


 かくして、アリスと白ウサギは一緒に城内を探索することになった。



 *



「覚悟はしてたけど……広いな!」

「城だからそりゃあ広いけどな、でかい廊下から外れなきゃ、迷うことはないはずやで」


 大理石の廊下を歩きながら、白ウサギはそう言った。だけどアリスとしては不安で仕方がない。


「何が驚きかっていうと、客間がある建物がそもそも独立してるってとこだよね」


 そう。アリスが住んでいるのは、一階はエントランス、二階は客間、という独立した建物なのである。これが隣の棟と渡り廊下で繋がっていて、その先に食堂がある。

 昨日女王と会った謁見の間や、女王の執務室、大広間などは更にその奥にあるらしい。それとはまた別棟で図書室と医療棟もあった。


「まあ、怪我したときに行くとこと食事食べにいくとこだけ覚えときゃ何とかなる」

「食事は部屋に運ばれてくるんじゃないの?」

「朝メシはな。昼と夜は食堂で自由に食べてくれればええ。ちなみに食堂はランチタイムとかディナータイムとか時間決まっとるから気ぃつけてな」

「はーい」


 なんかやっぱりホテルみたいだなぁ、と思いながら白ウサギに運ばれていると、途中の渡り廊下で金髪の少年とすれ違った。彼は白ウサギとアリスに気がつくと、軽く手を上げて挨拶する。


「昨日ぶりだな、アリス。ゆっくり眠れたか?」


 少年はアリスの方を向いて気安い口調で問いかけた。アリスはと言えば、困惑して言葉に詰まってしまう。


「……失礼ですが、どちら様?」

「女王だよ」

「じょ……えっ、女王!?」


 驚きの声を上げて、アリスはもう一度少年の姿を見直してみた。赤いシャツに黒いスラックスと、ずいぶんラフな格好だ。顔つきは昨日よりすっきりしている。当たり前だ。付けまつ毛や口紅が全部無くなっているのだから。


「別人じゃないですか! ていうか化粧取ったら地味顔! 女王よりも村人Aって言われたほうが納得する!」

「不敬罪で首刎ねるぞお前……」


 しかし気に食わない相手を睨め付ける目つきと低い声は紛れもなく昨日の『女王』のそれである。女王と目の前の少年が同一人物であることを疑う余地はなかった。


「あれ、その赤いシャツなんか濡れてませんか?」

「赤いシャツ?」

「ええ」

「俺が着ているのは赤いシャツでなく、白いシャツのはずだが」

「え、だって……」


 言いさして、アリスは言葉を止めた。女王のシャツから足元にぽたぽたと垂れている雫の色を見直して、硬直する。液体の色は透明でなく赤色だった。水じゃない。赤色の何かが女王のシャツをぐっしょりと濡らしているのだ。

 よく見れば髪や頬にも赤色の何かが付着している女王を見て、アリスは自分の血の気が引いていくのを感じていた。女王は澄まし顔で、青ざめたアリスにとどめを刺した。


「今は血染めのシャツだが元は白だ」

「いや……色々とアウトでしょ……」

「女王、また()ったん?」

「やだ……しかも日常茶飯事っぽい……」


 女王が現れたときから鉄のようなにおいがするなとは思っていた。これは、ハートの女王らしいと言うべきところなのだろうか。

 女王は頭を手で支え、呻くような声で言う。


「もうどうにもイライラして……斬らなきゃやってらんねえんだよ」

「イライラして斬ったんですか!?」

「ああ、そうだが?」


 それをおかしなこととも思っていないような返事に、アリスは言葉を失った。横から白ウサギが苦笑いで問いかける。


「……またハート領の領主になんか言われたん?」


 女王は据わった目で白ウサギを見た。次の瞬間、怨念のこもった言葉が堰を切ったように湧き出した。


「あの野郎、いつものごとく俺の年と性別のことあげつらって来やがった。つーかあいつ絶対脱税してんだろ……報告書の数値ちょろまかしてんの見え見えなんだよ……近いうちに証拠上げて城に呼び出してやろうか」

「いやー……気持ちは分かるんやけど、今あの人を外すのは痛いなぁ……人事に人回す余裕もないし」

「分かってるわ。それを踏まえた上でギリギリのライン心得て好き勝手やってんのがいけ好かねえって言ってんだよ……」

「……女王、いくら城内ゆうてもあんま不用意なことは言わん方が……」


 白ウサギに指摘されると、女王は眉間にしわを寄せつつも文句を言うのをやめた。


「悪い、軽率だった」

「……女王」

「なんだ」

「最後に寝たん、いつや?」


 しばらく沈黙が続く。


「……五日前に三十分ほど」


 答えた女王の目の下には、どす黒いクマがあった。昨日は白粉で隠れていて分からなかったが、いま日の下で見ると相当にひどいクマだということがわかる。


「あんな、それ睡眠ちゃうで。仮眠や」

「大丈夫だ、あと二日くらい寝ないでも死なない……」

「ちゃんと睡眠とりやって何べんも言うたやろ。寝ないで仕事すんのは逆に効率悪いで」

「わかったわかった、あと二、三仕事片したら寝る……」


 ぽたぽたと血の雫を落としながら去っていく女王を見送り、アリスはもの問いたげな目で隣に立つ白ウサギを見やる。


「気にせんといて。女王は常に過労気味やねん」

「大変そうなのはわかったけど……ストレス解消に大量殺人はおかしいと思う……」


 あんなに血を浴びておいて平然とした顔をしているのは、アリスからすれば異常にしか見えなかった。それをまるで大したこととも思っていないような顔で対応する白ウサギにも、強い違和感を覚えた。

 世界が違うと、倫理観にもズレが出てくるものだろうか。

 アリスが険しい顔で考え込んでいるのを、白ウサギはじっと見つめる。それから合点が言ったような顔で「ああ」と言った。


「安心しぃ。あのひと人間は殺さへんから」

「あ、そうなんだ……?」


 何だ、それならまだいいか。

 安堵のため息をついてしばらくしてから、アリスは首を傾げた。

 じゃあ何を殺しているんだろう。

 というか人間じゃなくても、血が出る生き物をあっさり殺すのってどうなんだ。


「あの、うさぎ」

「ほな、次は庭園の方行ってみよか。今の季節だと薔薇が綺麗やで」

「あっ、はい」


 聞こうとしたのだか、タイミングを逃してしまった。

 何となく釈然としない気分を引きずりながら、アリスは白ウサギに連れられて庭園の方へと歩いて行った。




白ウサギと女王の会話は適当にそれっぽいこと書きました。

なんか小難しい政治の話してる感じっていうのが分かればオッケーなので深く考えないでください( ✌︎'ω')✌︎

フィーリングで!どうぞ!!!(ゴリ押し

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