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夢幻の国のアリス  作者: 深見 鳴
ChapterⅠ 不思議の国への招待
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第6話 アリスの部屋

 



 女王の後ろ姿を見送るアリスに、横に立っていた白ウサギが申し訳なさそうに謝る。


「ごめんな、アリス。女王、あの格好のときは機嫌悪うなんねん。アリスのことを嫌っとるわけやないから、悪く思わんといてな」

「ああ、態度悪いなーとは思ったけど、女王っぽくていいんじゃない? 別に気にしてないよ」


 白ウサギはこれを聞いて、ふっと笑った。


「何や、君おかしな子やなぁ」

「そう?」

「やたら潔い性格しとるし、物怖じせぇへんし……不思議の国の女王と真正面から目を合わせて話すなんて、充分おかしな子やで」

「不躾だったかな」

「いや、新鮮でええんとちゃう? 女王もちょっと驚いてたしな」


 笑いをこらえながら、白ウサギは謁見の間の扉を開いた。扉の向こうから白く光が差し込み、目を刺す。


「それじゃ、さっそく部屋まで案内しよか」

「部屋?」

「アリスはこの城に住むことになってんねん」

「えっ、なにそれ聞いてない……あのひと説明不足すぎじゃない?」


 てっきりアパートか何かを用意されて、そこに住めと言われるのかと思ったが、よもや城に部屋が用意されているとは。完全に予想外だった。

 更に案内された部屋を見て、アリスは絶句した。


「……え、ここ?」

「せやで」

「いや、いやいや……ちょっと待って。何かの間違いでしょ?」

「気に入らんかった?」


 不安そうに聞いてくる白ウサギを前に、言葉に詰まる。アリスはそろそろと部屋を見渡した。

 それは、白と緑を基調にした落ち着いた部屋だった。まず広い。とてつもなく広い。ホテルのスイートルームのようだった。

 壁紙はシンプルに、白地に薄いストライプ。床には柔らかそうなカーペットが敷いてある。床から天井まで続く大きな窓には濃いグリーンのカーテンが掛かっていて、上飾りが優雅な曲線を描いていた。部屋の中央にはいかにも座り心地の良さそうなソファが置いてある。二人がけのものと一人がけのものが一つずつ、低いテーブルを囲んでいた。金色の装飾が光る飾り棚やサイドボード、本棚なんかも置いてある。


「……気に入らないわけないでしょ……」

「あ、ほんま? 良かった」

「でもちょっと待って。ベッドは?」


 別にソファで寝ろっていうならそうするし、あのソファ大きくて広くて充分寝られそうだよね、と続けようとしたアリスは、白ウサギの言葉に口を閉ざした。


「ああ、寝室はこっちの部屋やで」


 彼は左手にあった扉をガチャリと開けて、隣の部屋へ入る。

 アリスは驚きのあまり目を剥いた。

 まさかの続き部屋。

 リビングだけでも充分な広さがあるのに、これ以上広くしてどうすんだよ。

 心の中で突っ込むが、当然白ウサギには聞こえていない。

 寝室には大きくて広いベッドと、これまた大きなクローゼット、鏡台などが置いてあった。手前の方にはまたまたソファと小さな丸テーブルが置いてある。

 そんなに椅子いる? と思わないでもなかったが、それらはちっとも部屋の景観を壊していなかったし、むしろ見事に調和していた。


「で、こっちがバスルームとトイレな」

「もうやめて……これが無料とか、胃がキリキリする……」

「えっ、何でダメージ受けとるん? やっぱ不満やった?」

「その下りもういいってば!」


 根っこのところに染み付いた庶民魂が憎い。こんな部屋にタダで居座るなんて申し訳なさすぎて落ち着かない。

 だがひとまずは、これがアリスの住む部屋になるようだった。

 寝室とリビングの間を隔てる両開きの扉を開け放って、白ウサギは部屋から出て行った。こうすることで寝室への出入りは楽になったが、余計に部屋が広く見えるようになった。ふかふかのベッドに背中から倒れ込み、アリスは天井を見上げる。天井は白い地に金色で、優雅な幾何学模様が描かれていた。

 ため息をついて、額に手の甲を置く。ゆっくりと目を閉じた。

 一息ついたせいか、今までの疲れがどっとのしかかってくるようだった。


「……あのとき、ウサギなんて追いかけなきゃよかった」


 アリスは柔らかすぎるくらいのベッドに埋もれて、疲れ切った声で呟いた。




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