オタサーの姫編①
「姫が今日も来てくれましたよ!」
しげるが家庭科室に百々子を連れて来た。
「来てくれてうれしいよ。百々子ちゃん」
サト先は爽やかな笑顔で迎える。
一応、タンクはしげるの後ろにいる。
机の上にいくつか服を並べて男どもは服を吟味している。百々子は椅子をカタカタ揺らしながらそれを眺めている。
「今日はこの衣装を着てくれないかな?」
サト先が選んだのは肩と腰と胸元が出るタイプのセクシーな服であった。
「それですか……?」
戸惑った様子。
「うん、すっごく似合うと思うよ」
とさわやか笑顔で応対。
百々子は『え?サト先は本気で言ってるの?』という目でしげるを見る。しげるは『これはいくら何でもエロすぎじゃないか?』という目でタンクを見る。タンクは百々子の胸を見ている。
「可愛いと思うよ」
サト先は爽やかをゴリ押し。
爽やかのゴリ押ししてやましい意味は何もないとアピールするが、しげるは『絶対エロい格好させたいだけじゃん』と思っていた。
「俺もそれでいいと思う」
タンクはただの便乗。
ただの便乗で特別な意味は何もないとアピールするが、しげるは『エロい格好見たいだけじゃん』と思っていた。
以上の状況を踏まえてしげるの出した答えは……。
「俺もそれでいいと思うよ」
男の性だった。
百々子が例のカーテンの中に入る。カーテンの隙間から顔だけ出して、
「覗いちゃだめだからね」
ジト目でしげるとタンクを見る。
「萌え可愛ゆす……」
タンクはハートを射抜かれていた。
「んな!タンクお前、2次元にしか興味ないって言ってたじゃないか!」
しげるはタンクの襟を掴む。
「いつの時代の話をしてるんだ。ここに二次元を超えた存在がいるというのに」
「タンク、お前……裏切者ぉ……」
「しげるは姫を見て可愛いと思わなかったんスか?」
「可愛くな…‥くなくなくなくmm」
声が尻すぼみしていくしげる。
しげるの肩にサト先がポンッと手を置く。
「可愛いが、正義だよ」
サト先は爽やか優しい目で訴える。
「あぁぁ!可愛いですよ!それは認めますよ!姫は可愛いですけど俺は2次元一筋と決めたのに!俺は!」
「しげる、変わらない人間はいないんだ」
サト先の爽やかまぶしい光線を受ける。
「そうっスよ、変わらない人間はいない」
タンクもサト先の爽やか光線を使おうとしている。というかお前いつも便乗してるな。
「あの!」
百々子がカーテンの隙間から顔だけ出した。
「……可愛い可愛いって言われると……すごく恥ずかしいです……」
頬を赤らめて困った顔で目線を左右に揺らす。
「「「か、……かわいい……」」」
スケッチのモデルにまだ慣れない百々子は、体に力が入ってぎこちない様子。
「百々子ちゃん、リラックスでいいよ」
とサト先。
「リ、リラックスですよね!頑張ります」
「うんうん、リラックスね」
「はい!気を付けます」
全然わかってねぇ……と誰しもが思っていた、が、そんなことは些細な事。
目の前に可愛い女の子がいて、心いくまで凝視することができる、それが至福の体験であった。
5分経ってアラームが鳴った。
「じゃあ休憩にしようか」
サト先がアラームを止める。
「はぁ」
溜め息をついて百々子は肩の力が抜けてリラックス状態になる。
立ち上がって両手を組んで大きく伸びをする百々子。
そこには、
神々しい二の腕、神々しい脇、神々しいヘソ、神々しい腰、そして強調された上品な胸が舞い降りていた。
しげるとタンクは女神降臨に視界を奪われていた。
「スケッチはどんなふうに出来ましたか……って、なんでじっとこっちを見ているんですか!?」
百々子もさすがに気づく。
「あいや何でもないでござる」
即座に目をそらすしげる。口調に動揺が現れている。
「見てないけど…」
即座に目をそらすタンク。口調に動揺が現れている。
百々子は言葉が出なかった。
しげるもタンクもサト先のスケッチも、実際の百々子より理想が胸に詰まってていた。
百々子の帰宅後、いつものように杉山が訪ねて来た。
「へぇ、マンガ研究部ねぇ」
「私、モデルやってるだけなんですけどね」
「百々子ちゃん可愛いからモデルで仕事出来ちゃうかもね」
「そうですか?私、かわいいと……思いますか?」
百々子は杉山を上目づかいで見つめる。
「あ、いやぁ、冗談だよハハ」
杉山は顔をそらす。
「杉山さん、私、前に断ったんですけど、16歳の体に交換しようと思うんです」
「え?……ああそうだね、すぐに用意するよ」
「まだ用意しなくていいんで私の要望を聞いてくれませんか?」
「要望って?」
「お……お、おっぱいを大きくしてください!!」