マジメくん編②
「ねぇヒロくんが教えてくれた小説、すっごく面白かったよ!主人公がヒロくんみたいだった!」
舞台は遊園地。1時間という待ち時間。密閉された空間。気まずい空気。
「そうですか。あれは賢い人にしか理解できないものなので少々不安でしたが……」
「あーヒロくん、私のことバカにしてるでしょー?」
「いえ、そんなつもりは!」
「いーのいーの、冗談だってば。確かに昔のままの私じゃ読めなかったかもね……」
「僕もあの本を読むのに苦労しました。主人公の周りの人がなぜ離れていくのか理解できなかったんです」
「えーそこはわかるよー!あの子は見た目もすごくいいし、誰にでも優しいんだけど、人と関わろうとしないんだよ」
「そうでしょうか、むしろ集団を好むようなシーンがありましたが」
「ううん。違うよ。人と関わるって言うのは他の人の人生を受け入れるってことだよ。たぶん」
「まあ、読み方は人それぞれですからね」
「……そう……ね」
19時頃。
「まだ帰りたくないなー」
「仕方ないですよ。僕はいいですが百々子さんは女の子ですし」
「百々子って呼び捨てにして」
じーっと見つめる百々子。
「むむむむむりですよそんなの!」
「知ってる。じゃあ手つないで帰ろ!」
「えー汗ばんじゃいますよ」
「いーの!彼氏なんだから手ぐらい繋いでいいでしょ?」
「仕方ないですね……」
「ねぇ、もう一個だけ乗っていこうよ」
「ダメですよ、それだけはできません」
「えへへー、試しただけだよー」
笑って見せる百々子。
「茶化さないでくださいよ」
「代わりにホテル泊まっていこうか?」
「な、な、な、ななにを言い出すんですか!!」
「照れ顔が可愛いねーヒロくん。清廉潔白な私がそんなこと本気で言うわけないじゃない」
「そ、そーでしょうか……」
百々子は繋いでた手を放して突然走り出す。
「早くしないと置いてっちゃうよー!」
ヒロはやれやれといった表情をする。
「……汗なんてかかないじゃない…ばかヒロくん…」
百々子は街灯の下で自分の影を見つめていた。
次の日の朝。
スヤスヤ眠る百々子の枕元で携帯が鳴る。
百々子はまだ夢うつつの状態で携帯を手に取る。
画面のヒロくんという文字を見て慌てて飛び起きる。
「もしもし?ヒロくん!?」
「もしもし、百々子さんの携帯電話でお間違えないでしょうか?」
「うん私、どうしたの?電話なんて」
「僕の部屋に今日、ソファーが届くんだけどお暇だったら運ぶの手伝ってくれないかなと思ってさ。もちろん何かお礼をするよ」
「うん行く行く!あたしまだ寝ててさ!準備するからちょっと待ってて!!」
「ソファーが来るのは12時だからあわてなくていいよ。鴨井駅近くまで来たら連絡して」
「うんわかった」「うん、うん、うんじゃーね。またあとでね」
携帯をベットにポイッとおいて大きく伸びをする百々子。
「ぅーーーあ!」
そして一息いれる。
「これはご両親に挨拶ってやつね!」
「あらいらっしゃい、もしかしてヒロの彼女?」
「あのあのあのあああああの!ヒロくんとお付き合いさせていただいてます、須貝百々子です!」
「緊張しなくていいのよ」
「ありがとうございます!おじゃまします!」
「後でお菓子持って行くからね」
「お、お構いなく!」
百々子はいちいちオーバーリアクションである。
「母さん、もう子供じゃないんだから、お菓子なんて持ってこなくていいよ」
「そうね、もう子供じゃないものね、ヒロが誰かを家に呼ぶなんて久しぶりだからついテンション上がっちゃったわ」
「ソファー入れるの手伝って貰うんだ」
「あら、そうなの?」
「はい!あ、でもお母さんに挨拶出来て嬉しいです!」
「まあ!よくできた子ね!」
百々子は照れる。
「そしたらお礼にうちのご飯食べていってちょうだい」
「母さん、お礼をするべきなのは僕なのに」
「いーの。私がやりたいのよ。あんたはあんたで別のことでお礼しなさいよ」
「なんだか、親子って感じですね」
百々子は優しく微笑む。
ピンポーンとチャイムが鳴る。
「きたきた」
「百々子さん、手を挟まないように気をつけ」
「大丈夫、大丈夫、こっち下ろしたよ」
「ふぅ。なんとか終わったね」
「じゃあ休憩~」
と、伸びをする百々子。
ヒロはソファーの角度や細かい位置を調整している。
「私も手伝うよ?」
「百々子さんは一人で暮らしてるんだよね?」
「そうだけど、どうして?」
「ご立派な親御さんだ。僕の母親は見ての通り過保護だ」
「優しいお母さんだと思うけど……」
「優しいのはあるが、親としては失敗」
「何でそんな事言うの?」
「百々子さんは自立心があって気遣いが出来て明るく振る舞って大人の対応が出来る。羨ましいよ」
「ヒロくんだって頭いいし優しいよ!」
「両親が馬鹿だから頭よくならなきゃって思っただけだ」
「…だからか……」
「なにが?」
「ご両親の反対になろうと思ったんでしょ?」
「そうだね」
「ヒロくん優しくないよね」
「そうだろうね」
「なんで変わってくれないの?」
「それは生まれつきだから」
「生まれつきなんて無いと思うよ。人はいつだって変われるよ」
「百々子さんは生まれつき変われる体質で恵まれてるね」
「私帰る。意味分かるよね?」
「君が、間違ってるって気づいたらいつでも電話してよ」
と、ヒロは笑う。
さて百々子の家には杉山が調査に来ていた。
「まあまあ、座ってくださいよ。お茶出しますから」
「そんな、大人な対応するなんてどうかしたの?」
「杉山さん、あの本読みました?」
「あ、いやーごめん。全然興味ないんだごめんね」
「ははは、ちょっとそれ素直すぎません?」
「大人になると誰かから影響受けるって難しいんだよね」
「そんなもんですかねー」
「須貝博士も頑固な感じするでしょ?」
「でも、お父さんも杉山さんも、大人になる前に変わってきた感じしますよ」
「そんなもんかねー」
今回のテーマは「変わらないやつは周りから人が離れていくよ」です。
たまにしか書かない上に、ちょっとずつしか書かないから当初の趣旨がぶれぶれな気がしますがヒロのやな奴感が伝わったら嬉しいです。