マジメくん編①
「めずらしいね、百々子ちゃんが本を読むなんて」
いつものように杉山が百々子の家に遊びに来ていた。ではなく記録を取りに来ていた。
「そうですか?本って……わかると面白いんですよ!」
「百々子ちゃん、心なしか口調まで丁寧になっている気がするよ。僕にお勧めの本とかないかなあ」
「そうですねぇ」
と言って本棚から小説を取り出しては『これよりも……いやこれは……』と独り言を呟く。
その後ろ姿を見て、杉山は『スカートの丈が5cm長くなった。髪の色が2トーン暗くなった』と独り言を呟く。
杉山はどんな些細なことも須貝博士に報告しなければならないのだ。
「これなんか、最近読んですごく面白かったですよ」
といって純文学を杉山に手渡す。
「主人公の男の子が頑なで、謎を含んでいる感じですっごくいいんですよ!」
「へぇーありがとう。次に来るまでに読んでおくよ」
「はい、本当にオススメです」
「本買うのにお金が無くなったりしてないかい?」
「本は服とかアクセサリーとかよりお金かかりませんよ。これもほとんど古本屋で買ったものですし」
「そう、じゃあまた来るね」
「はい、また」
杉山は家を出てすぐにメモを取り出す。
「全体的にいい傾向にあり……」
メモ帳にペンをトントンと打つ。
「今の彼氏は文学少年か」
百々子は彼氏と遊園地。デートに来ていた。
「ヒロくんこういうとこ来ないと思ってたけど意外とノってくれたね!」
「いや、ノってはいないです。付き合うと言った以上、最低限の責務は果たそうかと」
「そういう素直じゃないところが可愛い、ヒロくん!」
「かかかかか可愛くないです!」
「あ、ヒロくんあれ乗ろうよ!」
百々子は行列を指さす。
「一時間待ちですね……」
「一時間は早い方だよ!」
「そうなんですか?」
「そうなの!」
「やはり、遊園地に遊びに来る人の気持ちは分かりませんね」
「じゃあ違うとこ行く?」
「いえ、今日は百々子さんを楽しませるのが僕の仕事ですから……」
「でも、ヒロくんにも楽しんで欲しいな……」




