反省ちゃん編①
さて、百々子は結局のところ部活動をやらず、放課後につるむ相手も居ず、これといった趣味があるわけでもない。
時間があると人間は考え事が増える。彼女が人間であるかは置いといたとしても、たいていの場合、それは悪循環になるだろう。
アンドロイドである百々子は記憶を消せないから尚のことである。今でも思い出そうと思えば、その時の情景が目に浮かぶ。人間に例えるならば、黒歴史を思い出した瞬間にその時間にタイムスリップするようなものだ。
思い出して恥ずかしいというものなら易しい黒歴史だが、例えば心が病んで同じ相手に何軒もメールを送った時の気持ち、例えば相手と自分が一生分かり合えないとわかった時の気持ち、例えば自分への関心がだんだん離れていくのがわかってしまったときの気持ち、例えば自分が洗脳されていたんだと気づいた時の気持ち。
それらを終わらせなければいけないと百々子は悟った。
最初の相手はマッキーである。
まず接触することが百々子にとって大きなハードルだった。今更会う理由なんて向こうにはないのだから。
平常を装って、何事もなかったかのように話しかける方法もあるのだろうけど、百々子はそれをしたくなかった。
折角変わろうって思ったときに、同じ自分になりたくないから。
「マッキー、学校終わったらさ、話があるんだけど……」
ストレートに真っ直ぐに。
「あ、あぁ……」
マッキーは現実感がない様子。放課後になると百々子の方をチラチラ見ていて、自分から動くわけでは無い。
百々子は堂々とマッキーに近づいて行って。
「じゃあ……いい?」
とマッキーに言う。
「お、おぅん」
と、ぎこちない感じ。百々子もぎこちなさは承知の上で、もと不良仲間とかが見たら疑問に思うだろう。そんなことも承知で、生まれ変わる決意を固めた。今までの自分とは違う行動をしたい。出来なかった選択をしたい。
学校の外にある公園のベンチで自販機の炭酸水をマッキーに渡す。
「おごりだから。座って、マッキー」
「あんがと」
ふたを開け、ジュースをちびちび飲みながら何から話そうか考える。
マッキーもジュースに口をつけながら、何が始まるのかとそわそわしている。
「色々あってさ!」
予想以上に大きな声を出してしまう百々子。
「あのときはごめんなさい」
そういった後、ちゃんとマッキーの方へ向き直って頭をしっかり下げた。
「あ、ああ、別にだよ」
マッキーは照れくさそうに答える。
「私の中でマッキーと付き合ってた時のことをしっかり克服したくて今日は……付き合ってもらった次第です……。かたじけない」
「全然いいけど……」
百々子は小さく『ありがと』と言って話を続ける。
「あのときは自分が悪いなんて思ってなかったんだけど、あの後違う人と一人の男性を取り合ったことがあってね。そのとき…相手にとって重い存在になっちゃいけないな、って思えるようになったの。だから鬼メールしたことを謝りたいなって」
「俺も……」
「マッキーは謝らないで。私が反省するための話だから」
百々子は微笑んでマッキーの顔を見る。
「最近どう?」
聞かれたマッキーの方は目を逸らす。
「最近?なんも無いよ。相変わらず」
「タラちゃんとかと遊んでる感じ?」
「だいたいそんなとこ」
「新しく彼女は出来た?」
「あぁ。キシ高のしおりって子と付き合ってる」
「マッキーはやっぱりモテモテだもんね」
「んーまあそうかもしんない」
「ふーん。で、どんな子なの?」
「可愛い」
「どこまでやった?」
「なんか、そっちばっか聞いてねぇか?」
「ごめんごめん。ちょっと気になっただけ。私もいろいろ変わんなきゃだから、その参考にね」
と言って立ち上がる百々子。
「なんか変わったな」
マッキーは百々子を見上げる。
「須貝百々子はバージョンアップしましたー!ブイ!」
といってマッキーに向かってピースをする。




