危ない先生くん編④
昼休みに入って、久しぶりに一人が楽だと実感する百々子。安堵のため息が出る。
しかし、百々子の視界の端に短いスカートをひらひらさせて近寄って来る二つの影が映った。ユリコとトモミだ。
「須貝さん一緒にご飯食べよ」
「食べよー」
相変わらずユリコが先陣を切って、トモミが便乗するスタイル。ここで誘いを断るという選択肢は、女子高生にはありえない。
「うん、一緒に食べよー!」
が百々子にとっての模範回答だった。
会話の内容は、雑談だった。モデルのなんとかちゃんが可愛いとか、結婚相性占いで俳優のなんとかと75%の相性の良さだったとか、あの先生嫌いだとか。
本当に浦沢と何か関係あるのだろうか。あるいは、浦沢から何か頼まれていて、まだそれを実行できないでいるとか。
結局何もわからぬまま放課後に。
ホームルームのとき、執拗に浦沢の顔を睨んではみるものの、たまに目が合うくらいだろうか。
ユリコとトモミというチョイスがまた不思議だ。クラスで目立つわけでもない、悪いことするわけでは無いが長所があるわけでもない。凛の取り巻きではあるが、特に仲のいい人がいるわけでもない。
いや、もしかして、まさか……そういうことなのか?
答えが見えてきた百々子は恐れが消えた。周りを気にすることなく真っ直ぐ帰宅するルートに向かう。口元だけニヤリと笑って、悟ったような目で。
下駄箱にたどり着くと、後から声を掛けられる。
「百々子ちゃん、待って、浦沢先生が呼んでたよ」
声をかけたのは凛だった。
百々子は驚いた。
「平林さんにそう伝えられたの?なんで?」
「多分私と百々子ちゃんが仲良しだからだと思う」
いやそれはねぇよ、と思う百々子だった。
「あーそう。わざわざ伝えてくれてありがとうね。職員室に行けばいいのかなぁ」
と、上を向いて考えつつ呟く百々子。
「生徒指導室だって」
「え?生徒指導室?」
職員室ではなく生徒指導室。人が居る場所ではなくて、2人だけの空間に呼ぶ意味とは何だろうか…。ごくり。
「生徒指導室ってどこにあるんだろう」
「保健室と第二倉庫の間だよ」
即答する凛だった。ちょっとどん引きの百々子。
「へぇ、平林さんよく知ってるねー」
引きつった笑いをしてしまう。
「あ、うん、第二倉庫によく行くから…」
倉庫によく行く学園一のアイドルってのもやばい気がする。ごくり。
さて、凛が百々子と仲良しだと思ってることと、第二倉庫によく行くことも置いておいて。
浦沢は百々子の暗い様子を見て声をかけた。百々子は何事もないと言ったが、浦沢は先生に任せろと言った。その2日後にユリコとトモミが謎の雑談を仕掛けてきた。
そして今日、生徒指導室に呼ばれた。物事を順番に思い出せば答えは1つしかなかった。
しかし情けない話でもある。
まさか自分が友達がいなくて困っていると、そんな事で悩んでると思われるなんて。
「ありがとうね、平林さん。じゃあまた明日ね」
そう言って手を振り、後ろを向いた瞬間に凜の表情が曇った。
「百々子ちゃん、浦沢先生と何かあるの?」
「え?」
突然低いトーンで話されて百々子は背筋が凍った。振り返るといつもの笑顔の凛だった。
しかし、笑顔のままで固まって何かを話すわけでもない。
「浦沢先生とは何もないよ、ちょっと友達の事とかで心配されてるだけ…だと思う」
「私は、百々子ちゃんの友達だよ!」
やっぱり友達なんていらない、と思わざるを得ない百々子だった。




