危ない先生くん編①
百々子の居場所は失われ、希望を探す破目になる。
廊下を歩けば人、人、人、人。
教室に入れば音、音、音、音。
授業が始まれば文字、文字、文字、文字。
時間が立てばさっきまでの思考なんてすべて消えるのに、この憂鬱とした感情はずっと百々子に付きまとう。
「須貝大丈夫か?なんか目ぇ、死んでるぞ」
浦沢先生が聞いてくる。
百々子はゆっくり顔を上げて、浦沢の顎のあたりを見ながら答える。
「もともと生きてないんで……」
「どういうことだ?」
「何でもないです」
別に誰のせいでもないんだろう。例えば平林凛という奴もいたが、彼女に人生を狂わされたわけでは無い。元々楽しいことなんてなかったし、マンガ研究部の連中とも、偽物の自分が相手をしていたにすぎないのだ。
浦沢先生を避けて授業の教室へ向かう百々子。私は人類の為に無難に生きていればいい。アンドロイド進出社会のために生きてさえいればいい。役目さえ果たせばいい。時間が過ぎるのを待てばいい。そう思っていた。
授業は50分。3000秒。暗記するだけならメモリに書き込めばいいだけなのに、50分も使って教科書2ページ分しか授業は進まない。授業が始まるまでのだらだらとした時間110秒。授業についていけてない生徒の質問90秒。生徒を注意する時間65秒。黒板に先生が文字を書き、それを生徒が映すという二重作業1460秒。まだまだ無駄なことが多い。省けば効率的に授業を進められるはずなのに、解決しようとはしない。
百々子は前々からそう疑問視していたが、その答えがわかった。
みんな時間が過ぎるのを待っているだけなんだ。人生を効率よく過ごそうだなんて誰も考えてはいないのだ。
平林凛みたいなのは特別だが、多くの人が無難日生きている。そしてそれは、ただ生まれて死ぬだけの流れ作業にすぎないと百々子は思っていた。
帰りのホームルームが終わり、誰と話すこともない百々子は誰よりも先に帰る準備が整ったが、真っ先に帰ると目立ってしまうので全体の半分が帰る頃に立ち上がった。
ドアをまたぐ寸前に浦沢から声を掛けられる。
「須貝、また明日な」
百々子は突然の声掛けに反応できず、浦沢を一瞬睨むような形で廊下に出た。ちょっと悪いことをしたなとは思ったが、すぐにいつもの無心状態に切り替えた。
突然、百々子は後ろから手を掴まれる。
その正体は浦沢だった。
「本当に大丈夫か……?」
浦沢と目が合う百々子。浦沢は百々子の瞳が曇っているのを知って、言葉を失った。
「……なにか……困ったことはないか?」
百々子は再び目をそらす。
「憎いんです。幸せに生きてる人が……」




