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オタサーの姫編⑤

8月12日。イベント開始の前日。4人は会場の設置に来ていた。

男3人がせっせと働くなか、百々子はひとり、デカい態度で椅子に座りながらデカいサングラスかけて女性向け雑誌を読んでいた。

「タンクくーん!ちょっと来て!」

タンクが気づき百々子の下へ行く。

「あたしさぁ、喉乾いたんだけどなんか買って来てくんない?」

「うん。すぐ行く。姫、お腹とかも空いてない?」

「そう言われれば空いてるかも、じゃあチャーハンおにぎり買ってきて」

「すぐ行くから待ってて」

タンクは小走りで出口に向かう。

今度はサト先が百々子に近づく。

「長引いちゃってごめんね。姫、疲れてない?」

「あー結構疲れた。周りっすごいざわざわしてんだもん」

「そうだ!俺の音楽プレイヤー聞いてなよ。アニソンとかもあるけどジャズとかクラシックとか洋楽とか、探せばいくらでも好きな曲が見つかると思うよ」

「じゃあ聞こうかなー」

百々子はイアホンを付けて、音楽を聴きながら足でリズムをとる。


遠くで百々子を見ていたしげるは、険悪な表情をしていた。


タンクが戻ってきて百々子に飲み物とチャーハンおにぎりを渡そうとする。

「開けて」

百々子はジュースを指さして言う。

タンクは一瞬戸惑ったがペットボトルのふたを開けて渡す。

百々子はぐびっと飲んでタンクに返す。

「そっちも」

百々子は雑誌の方に顔を向けながら言う。

タンクはおにぎりの包装を外してから渡す。

百々子は一口かじって返す。お礼などは一切言わない。

「サトせーん!」

と百々子が大声で呼ぶと、サト先がやって来る。

「これの電池切れたんだけど、私もう帰るから」

イヤホンを外し音楽プレイヤーを返す。

「「姫、もう帰るの?」」

サト先とタンクは驚きの様子。

「あたしは明日来ればそれでいいんでしょ?別に今日いる必要ないじゃん」

「……そうだね。明日、駅に6時集合で」

サト先はすぐにさわやか笑顔に戻った。

「じゃ」と言って荷物を持って出ていく百々子。タンクは、「間接キス……」と言ってペットボトルの飲み口を舌で舐める。



会場設置が終わって、もう帰るかという流れのところタンクが「ちょっといいかな?」と口を開く。

「俺、明日のイベント終わったら、姫に告白する」

サト先は目を見開いて驚く。

しげるは「まじか」と言葉を漏らす。

「いい……かな?」

タンクは真面目な表情で二人の顔を見る。

「頑張れよタンク!」

爽やか笑顔で肩を叩くサト先。

しげるは暗い表情。

「タンク、お前後悔するぞ。」

「付き合えるかなんてわからないけど、告白することを後悔はしないと思う」

「違う。正直今の姫に惚れる理由がわからない」

「しげるもしかして、お前も姫が好きなのか?だったらふたりで……」

「そうじゃない!あんな自分勝手なやつと付き合ったら不幸になるって言ってるんだ!!」

「次、姫の悪口言ったらぶっ飛ばすぞ」

タンクは今まで見たことのない怒りの表情でしげるの胸倉をつかむ。

「タンク、お前姫のどこに惚れたんよ?」

「……姫は、こんな俺を必要としてくれた。俺を認めてくれた。俺を褒めてくれた」

「それは姫が……!」

しげるが言いかけると、タンクが拳を構える。

「言葉に気を付けろよ」


「やめろ二人とも」

サト先がタンクの手を外させる。

「タンクが姫に告白するのは、タンクの自由だろうが」

しげるは目をそらしたまましゃべらない。

「タンク、先に帰っててくれ、俺としげるは残ってシフト組んだりするから」


サト先はスケジュール表にどの時間にだれが売り子をするか書いている。

しばらくすると、しげるはようやく口を開いた。

「人って変わっちまうんですね」

サト先は意味を理解するのに5秒ほど固まる。

「タンクの事か?」

「タンクもそうですが、姫も変わった。最初のとき俺らみんな平等だったじゃないですか!」

「平等……ね…」

「昔のままがよかった」

「でも、こんなデカい会場でイベントやれるようになったのは姫のおかげだぜ?」

「俺は、全員のおかげだって言いたい」

しげるのその言葉に、サト先は言葉を失ってしまった。

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