チャラ男編①
須貝 百々子とは15歳という若さで亡くなった少女の名前である。
しかしながら、今現在須貝百々子を名乗るのは違うモノである。
杉山という男は3度インターホンを押して、返事がないのでドアをノックした。
中から高校生の女の子が顔を出す。
「なにしに来たわけ?」
杉山は苦笑いする他ないのだ。
「いつもの調査です」
「百々子ちゃん生まれてから一年たったでしょう?16歳モデルと交換しようって須貝先生からお話があってね」
「えー!!今変わったらマッキーに老けたって言われちゃうー」
「……。」
杉山は困惑している。1年前の百々子はこんなケバケバしい、下品な女ではなかったのだ。
「こんなことを言うのは野暮だけどね。君の言うマッキーという人はまともな人なのかい?」
「はぁ?あんたマッキーディスってんの?」
と言って煙草に火をつける。
「百々子ちゃん!!高校生なんだから煙草はまずいよ!」
「うるせぇんだよ!先公にチクったらぶっ飛ばすかんな?」
萎縮する杉山。もし本当に殴られたら骨が砕けることは間違いない。
彼女は分かりやすく言えばサイボーグである。
須貝博士の開発した人工知能に介護用ロボットの骨格と超高級ダッチワイフの肌によって出来ている。
愛玩用等身大女性人形なので、当然女性器も備わっており、そこに異物が入り込めば快楽という認識をするようになっている。
と言うことはどうでもいいのだ。
「ダイエットしようかなー」と言っている彼女の体重は171キログラム。
博士に作られた当初は純粋そのものであった。
「私、大きくなったら戸籍が欲しい!」
「残念だが百々子は人間ではないから戸籍は持てないんだ」
「ちがうわ、お父様、遥か未来、私が人の世界で活躍することでロボットにも戸籍が与えられる世の中にしたいの!」
「お前は立派な人間になるよ。百々子」
というエピソードがあるくらいには純粋であった。
今では髪は金髪に染められ、眉毛全剃り、厚化粧と完全に俗に染まりきっている。
「百々子ちゃんがマッキーくんと別れたら16歳モデルと交換しよう」
「は?マッキーとは別れねぇし!つか結婚すっから!」
「結婚は不可能だ、君には戸籍がない」
「事実婚」
「妙な知識をつけてきたねぇ」
「最近は多いってタラちゃんが言ってた」
「君が人間ではないことは言ったのかい?」
「……。」
「君の役割は、人工知能が人間に害を与えないと証明することだろ?出来るだけ多くの人と関わって偏りのない脳にしてもらうようにと博士にも言われてたじゃないか!」
「クソ親父の言うことなんか覚えてねぇから!」
「生みの親に向かってなんてことを言うんだい!」
「うるせぇんだよ!出てけ杉山!!」
「待って待って!蹴らないで!君の足で蹴ったら骨折じゃすまない!」
「あ……そうだったごめん」
杉山は安堵のため息をつく。
「取りあえず現状を博士には報告するからね。どんな状況であれ君の成長過程を記録するのが僕の役目だ」
「杉山さん、帰る前にひとつお願いが」
百々子の目は潤んでいた。
「お小遣いちょうだい、2万でいいから」
「博士から生活費もらってるでしょ?」
「だってメイクにー美容院にーあとライブも今月2回あったから足んないんです!」
「別に食事しなくて死ぬことはないし無かったら我慢するしかないね」
突然体を寄せ、杉山の服の裾を掴む百々子。
「私、杉山さんのことずっと気になってたんです……」
「百々子ちゃん、まさか援助交際とかしてないだろうね……?」
「してたらもっと金もってる」
「……だ、だよね。よかった。ははは」
交渉の末、5万をあげることになった杉山。
どんな交渉をしたか定かではない。